第3話垢抜けした二人

 5-3

山下巧美二十一歳無職、その男の印象が少し良く成ったが、もう帰る時間に成る。

バイト迄に帰らないと、船を下りると「もう、帰らないと、バイト間に合わないわ」

「今日は、病気で休めば」と美由紀が言うと「駄目よ、今のバイト、学校の時間とか考えると場所も最高なのよ」

何も言わない男二人、車は河口湖を後に高速に向かって走り出した。

「間に合う様に走るよ」と一言言って巧美は車を走らせる。

高速の掲示板には渋滞の表示が、日曜日の上りの中央線夕方は必ず混んでいる。

焦る巧美を見て由美は「焦らなくても良いわよ、事故でも起こしたら大変だから」と言ったので、巧美に少し好意を持った由美だ。


その後、二人は時々会う様に成る。

それはバイト先に巧美が来るからだ。

食事をする為に、何度か会うと情が出来るのが常で付き合う様に成った。

由美には初めて付き合った男性なのかも知れない。

高校の同級生との好奇心のSEX付き合いとは少し違っていた。

しかし、巧美が就職はするが長続きはしない。

その為、小遣いは母親頼みが現実だった。

巧美は実母を早く亡くした寿実に、哀れみを感じていたのかも知れなかった。

母の顔を全く知らないで育った兄と、両親に甘やかされて育った巧美の違いかも知れなかった。

母は姉の子供を必死で育てた。

寿実が二歳で姉が心臓麻痺で他界して、途方に暮れる俊武を葬儀で見た妹だった瑠璃子は家政婦代わりで寿実の面倒を見ていた。

商社マンの俊武は出張も多くて、子供の面倒を見る事が出来なかった。

そのうちに二人に愛が芽生えて再婚に成った。

母は姉の子供を立派に育てると云う使命感が有って、その為厳しく育てた。

反面巧美には、父俊武が甘やかすのを、黙って見ていた母だった。

いつも、兄は偉い、偉いで育てられ、巧美は落ち溢れの典型、高校生からは不良仲間との付き合いも増えて、今でも続いていたのだ。

半年前に二人は会っていたが中々思い出さない由美だ。

髪型とか化粧で変わった由美を思い出す事は、巧美にはもっと困難なのだ。

二人は時々ファミレス以外でも会う様に成るが、仕事をしない巧美を由美はそれ以上好きには成れない。

巧美はその頃の由美に対して、姉貴的な感覚で付き合っていた。

でも適当な身体の付き合いも有った。

美由紀が純と別れるまで関係は続いた。

二人は異性に対して割り切って付き合っていた。

美由紀はSEXをするから結婚イコールの考えが全く無かった。

四人の付き合いは年を越えると自然消滅をしてしまった。

美由紀が純と喧嘩別れをしたから、連鎖的な別れだ。

その後も美由紀は男性と付き合うが、短期間で別れるを繰り返すのだった。


看護学校の勉強は真面目に受けるから、成績は中位で安定している。

同級生の友達も沢山増えて、バイトで稼いだお金で念願の美容整形をする二人。

美由紀は、元々美人顔で少しバランスが悪いからそこを少し治せば綺麗な顔に変身した。

額が広いのと、歯並びが良ければ完璧だと自分では自信を持っていた。

二学年目に成る前に変身した二人なのだ。

髪の色も茶から少し暗くしてイメージを大きく変えた。

化粧が変わって上手に成ったのよと言ったが、同級生は信用していなかった。

時々田舎に帰ると二人は東京に行って垢抜けしたな、と言われて喜んでいた。

二年目に成ると実習とかが始まって、三年生に成ると就職先を決める。

二人は近くの総合病院に就職しようと考えていた。

それは実習で何度か行って、好みの先生が居たと云う単純な理由だった。

二人のどちらが先生を落とすか、それが二人のこの府中総合病院に就職する訳だった。

整形をしてから自信が出来た。

綺麗な化粧をして派手な感じから、落ち着いた髪に化粧に変身する二人は、実習から良い印象を与えて、出来れば玉の輿を狙う二人だ。

美由紀は将来お金が出来たら歯並びも治したいとの希望を持っていた。

ケチ由美の真似をして最近は煙草も吸わなくなっていた。

女性は付き合う男で良くも悪くも変わるのだと、由美は美由紀を見て呆れていた。

今は病院の先生佐藤和夫に気に入られ様と必死だった。

殆ど佐藤の事は知らない二人、結婚はしていない。

国立の医学部卒業年齢は二十七歳、将来有望、美男子それだけで充分だった。

二十一歳に成る二人にはそれでよかった。

週に一度の実習が楽しみな二人、正月には就職も決まって、二人揃って地元の成人式に帰った。

垢抜けした二人に同級生達が「流石は東京ね、綺麗に成ったわね」と褒め称える。

男子も二人にアプローチをするが、今は眼中にない、田舎の同級生には目も触れないのだ。


この看護学校は合格率百パーセントで全員が資格を習得するので、地方から出て来た生徒は卒業と同時に半分以上は東京都内の病院に就職が決まって、地元に帰る生徒はごく僅かで、東京の空気を吸うと中々田舎には帰れないのが現状だった。

美由紀も由美も当初は宮城に帰って就職の予定だったが、もうその考えは消えていた。

こうして、宮城の田舎から東京に出て来た二人の少女が、大人に成って、東京の都会で恋と未来に希望を持って生活を始めた。

二千三年の春、桜の花の満開の頃だった。


柏木廣一が東京に仕事で、関西から行く様に成ったのはこの年からだった。

小さな食品製造メーカーの営業として、この春から関東の大手の問屋との取引が始まった為にだった。

柏木は大学を卒業して住宅資材の会社の営業で十五年以上勤めていたが、建築不況で、業界に見切りをつけて転職をしたのだ。

食べ物は不況に強いと云う友人の言葉を信じての転職だった。

三十九歳独身、いつの間にか結婚も出来ないで四十歳を迎えようとしていた。

最近髪も薄くなって歳を感じ初めて、もう一生独身も覚悟の柏木だった。

職種は異なるが同じ営業で簡単だと思ったが、食品と建築資材では相当営業スタイルが異なり戸惑う柏木だ。

東京の大手の問屋は日本の隅々のスーパーとか生協、デパートと取引が有り、柏木はその後、問屋の営業の下部の様な日々を過ごして、遠くは北海道まで同行販売に出掛ける様に成るのだ。

柏木廣一は一人っ子で両親はサラリーマンの共働き、九州の福岡が実家だと父は語るが、一度も廣一は行った事が無かった。

父孝治は母眞悠子と結婚の時、両親に反対されて飛び出してきていた。

謂わば、頑固な親父との喧嘩で勘当されたが正しかった。

父には弟孝介が居たから、安心も有ったのだろう。

その後連絡もしないで、母眞悠子と生活をしていた。

その父も去年、病で他界をして、今では母との二人での生活に成っていた。

母は廣一が嫁を貰って、安心させて欲しいと口癖の様に云うのだが、息子の容姿と別に財産が有る訳でもない。

会社は二流、給料は転職で入社の後は殆ど昇給が無い。

最近は出張が多いので、持ち出しも多いのではと思うのだ。

僅かな蓄えでマンションの頭金位は出せるから、嫁を貰って、この家から出て欲しいが本音の眞悠子なのだ。

それを知ってか知らずか、無情に歳を重ねるのと、髪だけは少なく成る息子に諦め顔の眞悠子なのだ。






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