第2話ダブルデート

 5-2

国分寺で二人は降りた。

「結構、田舎よね」

「仙台から少し離れるのと変わらないわね」

住所調べて国分寺看護学校に向かう、バスで十五分、住宅地が続いた。

「あっ、見えて来たわ」

「大きい建物ね」

二人は建物で気に入ったのか、この学校に入学を決めて、その後は高校三年生を満喫するのだ。

進学先とか就職先が決まると気楽に成ったからだ。


夏休みには、高校の同級生との好奇心からの初体験もして、興味が有ったけれど呆気なく終わった。

それは好きと云う感情よりも興味が勝っていたから、愛のないSEXは駄目ねと思う由美だった。

色気づくと、化粧もするし、由美も姉が美容師だから、化粧をする機会が増えていた。

里美が由美をモデルにするから、自然とその様に成る。

隆に化粧をして一度叱られたから、もっぱら由美がモデルを引き受けていたのだ。

由美は化粧で変わる自分に驚きと優越感を感じる事も有った。

休みの日に化粧をして町に行くと、二十歳に見られて嬉しい時も有った。


卒業式が終わると、美代が用意してくれた生活に必要な物を、看護学校の寮に送るのだが、ケチ由美の異名の通り美由紀の荷物に便乗させて、送り付ける周到さだ。

美由紀には姉の美容院に二人で行って、餞別代わりに、髪を茶髪に染めて貰う。

里美も呆れる行動だったのだ。

美由紀は変身してご満悦、由美も少し短い髪に成っていた。

二人は明日東京に向かう予定だ。

三年間の看護学校を卒業すれば、地元に戻って看護師として働こう、隆の面倒もやがて自分が見る事に成るのだろうと考えての看護学校なのだ。


しばらくすると、悪魔の町東京が二人を大きく口を開けて飲み込むのだ。

お金が有れば、こんな楽しい町は無い事を知ってしまう二人なのだ。

欲しい物は何でも有るし、手に入る。

テレビでしか見ていない劇場の芝居も、歌も、音楽も、そして食事も、同級生が色々な話しを教えてくれる。

タレントの話、装飾品、美容関係も、病院に近いので、美容整形にも興味を持つ二人、普通の人に比べて怖さが無かった。

唯お金が無いので学校の空き時間にバイトを考える二人、寮の規則を破って、夜のバイトに出掛ける美由紀、コンビニで十二時迄のバイトを始める。

由美もファミレスのバイトにこっそり出掛ける。

それほどお金が欲しかった。

ケチ由美も美容の魅力には勝てなかった。

綺麗に成りたい願望が二人には有って、田舎者と思われたくないのだ。

「お金を貯めて、整形して、良い男を掴むわ」と美由紀が言うと「私は、男は要らないけれど、綺麗には成りたい」

「プチ整形なら、安いわ」と二人は秋までには、お金を貯めようと努力していた。

由美に比べて、男遊びも好きな美由紀は、ある日若い男を由美に紹介した。

もう何度もラブホに行ったと自慢していた。

高校を出て仕事をしている工場勤めの男だ。

前田純と言う二十歳の男にお金を出させて美由紀は遊んでいた。

前田は殆ど給料を美由紀と遊ぶ事に使っている様だ。

寮の部屋で、煙草も吸い始める美由紀だった。

「身体悪くするよ」

「大丈夫よ、少ないから」

「純なんて、日に二箱も吸うらしいよ」

「私、煙草の煙に弱いから、ベランダで吸ってね」

由美は美由紀を見て、女は付き合う男で変わるなあ、高校の時は自分の影に隠れていた美由紀が今では、肩で風を切って歩いていると不思議だった。


そんな美由紀の彼氏が友達と四人でドライブに行く事に成った。

由美は乗り気でなかったが、前田が自分の友達が彼女を欲しがっているから機会を与えるのだと、美由紀に頼んでいた。

同部屋の由美が一番頼みやすい美由紀は、日曜日の昼間なら由美のバイトも無いからだ。

「お願いよ、付き合ってよ、純の友達、最近彼女居ないらしいのよ」

「昼ご馳走してくれる?」

「いいよ、昼くらい簡単だわ」

「でも、七時からバイトだからね、それまでに帰るならだよ」

「判ったわ」早速電話で返事をする美由紀だった。


日曜日に黒のデラックスな車が女子寮の横の道路に止まった。

窓から見ていた美由紀が「来たわ、行こう」と先に出て行った。

付いて行く由美、気乗りしていなかった。

車の中の煙草の煙が嫌いだった。

車から降りて来た二人の男を見て、何処かで見た様なと思ったがそのまま車に乗り込む。

後ろの席に二人が座って「俺、前田純、美由紀の友達、こいつ山下って言うのだ、宜しくな」

山下と呼ばれた男は軽く会釈をしただけだった。

「私、須藤美由紀、彼女は新間由美、故郷が同じなのよ」と紹介すると「新間由美と言います、よろしく」と会釈をする。

車は早速高速に「純、由美バイトだから、夕方六時には帰らないと駄目だからね」

「オーケー」と言うと早速煙草を吸い始める三人、車内の空気の悪さに窓を開ける由美だった。

「何処に行くの?」

「河口湖」

中央高速を高速で走る車。

「良い車ね」

「兄貴の車、借りてきたのだ」

それは嘘で、勝手に乗って来ていた。

山下巧美は女性にもてたい為に、兄寿実の留守に拝借していた。

兄は一流商社マンでよく海外に出張に行く。

山下巧美は山下家の異端児で父も商社マンで重役、寿実もその関係での就職だった。

国立大学を卒業して、入社五年目の将来を約束された男だった。

巧美は高校がギリギリで卒業、とても大学に行ける学力は無く、予備校に一年行ったがその後は何をしても、長続きせずに現在に至っている。

寿実の母が亡くなって、数年後に父が再婚で巧美が生まれたのだ。

母瑠璃子は姉妹で姉寿子の後添いに妹が嫁いだ形だった。

再婚で甘やかした巧美がこの様に育ってしまったと、父俊武は嘆くのだった。

中央高速を百キロ以上で走って、河口湖に到着した四人。

「何処に、行くの?」美由紀の質問に「まかせろって」と言う純だった。

「富士山が鮮やかに見えるわね」

「雲が切れて」

車は大石公園に着くと「わー、綺麗」一面にラベンダーが咲き誇って、河口湖に富士山が映って絶景だ。

「純、良い処知っていたね、ラブホしか知らないと思っていた」美由紀が馬鹿にした様に言った。

「本当に綺麗ね」由美も携帯で撮影をしている。

腕を組む純と美由紀、別れて歩く由美と巧美、腕を組みたい巧美だが中々出来ない。

美由紀が「三人並んで、写真写すわ」と交代で写す。

昼は名物の富士吉田うどんを食べる。

「名物に美味い物は無しだな」そう言う巧美、ようやく由美も巧美と話しをし始める。

だが何回見ても何処かで会った気がして仕方が無かったので「巧美さん、私の事知らないですか?」と聞いて見た。

「知らない、会った事もない」と言った。

由美と美由紀は化粧に髪が茶髪に変わっている。

四ヶ月の東京生活で、昔の高校生のイメージは消えていたから判らない筈だった。

河口湖の遊覧船に乗って、少し汗ばむ身体を涼しげな風が包む。

「気持ち良いわね」

「朝少し雲が有ったけれど、雲が切れてからは快晴ね」

「ところで、あの山下って人何処かで見たのだけれど思い出せないのよね」

「由美最初から、同じ事言っているよ」

「そうなのよ、気に成るのはね、良い印象では無かったからよ」

「そうなの?」

二人が話しをしていると、缶コーヒーを持って二人がやって来た。

差し出した缶コーヒーに「ごめん、私飲めないのよ」と由美が言った。

「そうなの、由美ね、コーヒー飲まないのよ」

そう言われて、巧美がコーヒー缶を純に渡すと、直ぐに走って行ってジュースの缶を持って来た。

「これなら、飲めるか?」と由美に差し出した。

「ありがとう」そう言って遠慮しながら受け取る由美、中々気が利く男ね!と初めて良い印象を持つ由美だった。

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