急。

「うぉおいっ!?」


 かばんちゃんはそれはもう盛大に突っ込んだ。


「え? まって?! 食うの?! お腹空いたからって自分の耳食っちゃうの?!」


 驚天動地の事態にかばんちゃんはわなわなと震えながら訊く。

 しかしサーバルちゃんはソレを咥えたままきょとんとした顔でかばんちゃんの顔を見つめた。

 そして徐に咥えていたソレを口から離し、


「これ、ジャパリまんだよ」

「いやそれ耳でしょ耳?! なんでそんなカジュアルに外せ――え゛」


 かばんちゃんはサーバルちゃんが手に持っているソレを凝視した。

 確かに、ジャパリまんであった。姿形は見慣れたそれだが、色が見慣れぬ薄桃色をしていた。


『……非常用のジャパリまん』

「え?」


 ラッキービーストが不承不承答えた。


『フレンズたちが特殊な事情でジャパリまんを得られない場合の非常食として、顔の横に備えている』

「ひ、非常食ぅ?」


 流石にかばんちゃんには想定外の話であった。ていうか人の耳がジャパリまんとかタチの悪い冗談である。


『非常食の為、フレンズはソレを他のフレンズに奪われる事は死活問題になる。だから死守するよう命じられてて、場合によっては攻撃されてしまう事もある。故に争いを避ける為の禁則事項』

「そ、そうなんだ……」


 頷くも、かばんちゃんを疲労感のような得体の知れない感覚が襲った。ようは理不尽が新たな理不尽に変わっただけである。

 そんなかばんちゃんをサーバルちゃんはじっと見つめていた。


 ぐぅぅぅぅ。


 また、腹の虫が鳴った。

 かばんちゃんは顔を赤くしてお腹を押さえた。


「な、なんか気が抜けたらボクもお腹空いちゃった……あはは」


 かばんちゃんは照れくさそうに苦笑いした。

 するとサーバルちゃんは今度は左耳を外し、それをかばんちゃんに差し出した。


「食べる?」

「え?」


 かばんちゃんは突然の申し出に当惑する。

 サーバルちゃんの左耳だった非常食は膨れ上がり普通のジャパリまんに変わっていたが、先ほどまで耳と認識していたものである。無理も無い。

 だがそれ以上に、大切な非常食であるそれを他のフレンズに差し出す行為が理解出来なかった。


「だってかばんちゃん困ってるから。助け合うのがフレンズだよ?」


 そうだった。サーバルちゃんはこういうフレンズなのだ。

 かばんちゃんは暫くそれを見つめていた。


「……ありがとう、サーバルちゃん」


 今のかばんちゃんに理不尽など無意味であった。サーバルちゃんから非常食用ジャパリまんを受け取るとそれを美味しそうに頬張った。


「美味しい?」

「うん!」


 かばんちゃんは満面の笑顔で答えてみせた。




                     おわり







 数時間後。


 ぐぅぅぅぅ。

 ぐぅぅぅぅ。


 サーバルちゃんとかばんちゃんのお腹がまた鳴った。


「お腹空いたねサーバルちゃん」

『ターミナルまでもう少しかかるから我慢して』

「仕方無いなあ。ねぇかばんちゃん」

「何、サーバルちゃん」

「分け合うのがフレンズだよね」

「?」

「かばんちゃんの非常食まだあるよね?」

「え」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

禁じられた“しつもん” arm1475 @arm1475

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ