破。
人間という生き物は懲りると言う事を知らない。
本能に忠実な動物たちから見ればそれはどれだけ愚かしい事だと思うだろうか。
人と意思疎通が容易なフレンズならばそれに応えてくれるだろうが、生憎と今のかばんちゃんにはそこまで考える余裕は無かった。
理不尽さは時として人の判断を狂わせるものである。
かばんちゃんにとってそれは、フレンズの耳が四つあるという事実であった。
(……あれ……ちゃんと聞こえてるんだろうか……どうやって聴いているんだろ?)
耳が四つも要る必要性がどうしても思いつかないかばんちゃんは、隣のサーバルちゃんを横目で見ながら悶々としていた。
サーバルちゃんはジャパリバスの窓から外の景色を眺めていたが、陽気に負けてうとうとと船をこぎ始めていた。
訊きたい。
その思いがかばんちゃんを焦らせていた。
でも、それをまた聞いてしまったら、今度は命の保証は無い。
恐怖は抑止力である。しかし人間にはソレが逆にある種の快楽へ繋がってしまう時もある。
所謂怖い物見たさである。
「……おーい」
かばんちゃんは席を立ち、サーバルちゃんの頭から伸びる耳に向けて小声で呼びかけた。
「?」
サーバルちゃんは直ぐに反応してかばんちゃんの方を向くが、かばんちゃんは慌てて顔を背けて惚けた。
「?」
サーバルちゃんはきょろきょろと周りを見回すが、気のせいかな、と傾げてまた窓の外を見た。
そしてまた船をこぎ始めると、かばんちゃんはサーバルちゃんの背後に回り、今度はしゃがんで下の方から、両側にある人と同じ耳に向けてまた小声で呼びかけた。
サーバルちゃんはまた直ぐに反応して振り返るが、かばんちゃんはまた慌てて顔を背けて惚ける。
「……変だなあ?」
状況的に考えれば、かばんちゃんの悪戯だと言う事が判るのだが、生憎と人を疑わないサーバルちゃんはそこまで思いつかなかった。
(……やっぱりどっちも聞こえてるみたい……便利なんだろうか)
必要性がどうしても思いつかない理不尽な話だが、それは事実であり納得せざるを得ない。かばんちゃんはそれで妥協しようと思った。
その時である。
ぐぅぅぅぅ。
誰かのお腹の虫が鳴った。
「え」
かばんちゃんはソレが誰の音なのか直ぐに判った。
「あー、なんかお腹空いちゃったね」
空腹の主は素直に自白した。サーバルちゃんは腹の虫を照れながら頬を掻いてみせる。
「そうだ、ジャパリまん食べよう……あ、もう無い」
サーバルちゃんは自分の懐を探り、ジャパリまんを仕舞っている袋を取り出したが、生憎ソレは空っぽだった。
「ボスぅ、ジャパリまん無い?」
『ゴメン、今手持ちが無い』
「がーん」
サーバルちゃんはショックのあまり大きく反り返った。
『この先のターミナルで調達するからそこまで我慢して』
「うーうー」
サーバルちゃんは背もたれを囓りながら半べそを掻いた。
「かばんちゃーん、ジャパリまん持ってないよね?」
「う、うん」
「うーうー」
サーバルちゃんは頭を抱えた。そして直ぐにまだ鳴り続けるお腹を抱えて唸った。
暫く唸っていたサーバルちゃんだったがやがて、横で心配そうに見ていたかばんちゃんの顔をチラリと覗い見ると、はぁ、と溜息を吐いた。
「しかたないなあ」
サーバルちゃんは何かを諦めたかのような顔をしてそう言うと、自分の右耳、人間の右耳に当たるソレを摘まんだ。
かばんちゃんは見てしまった。
自分をここまで悶々とさせたモノに対する衝撃のアンサーを。
サーバルちゃんは右耳を取り外すとそれを美味しそうに咥えたのである。
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