第2話 猪突猛進演劇ガール
キーンこンカンコ~ん、とチャイムが鳴った。
その響きに違和感を感じたが、周りは別に普通の顔。地域が違うと(?)チャイムも微妙に違うということは新しい発見だった。
そんな些細なことからも、自分がまだここの異分子であることを実感させられる。
さて、このチャイムはどうやら朝のホームルームが始まる十分前の合図のようだ。教室のあちこちで喋っていたクラスメイト達も、ちらほらと席に戻り始める。
けれど、前の席のやつは机に突っ伏したままだし、隣の席は依然として空席のまま。
教室に入ってから今までに、俺が発した言葉は僅かに二言。しかもその内の一つは「へ、へー……」だ。正直、まずい気がする。いや、焦っても仕方ないとは思うけれど……。
「なあ、ひょっとしてアンタ転入生?」
また突然、前の席のやつが話しかけてきた。さっきはあっけにとられて会話が続かなかったけれど、今度こそ、会話を続けてみせようと気合いを入れる。
「そうだよ、よくわかったね?」
「別に、大したことじゃないよ。男子で俺より出席番号早くなるやつっていたかなーって思ってさ。俺いつも一番なんだよね、出席番号。でも今年は二番じゃん? ま、君が
なぜか右手をひらひらと振りながら、彼は笑ってそう言った。
まあ、言わんとしていることは分かった。去年は彼より苗字が、アイウエオ順で早い人が学年全体でもいなかったのだろう。つまり俺は、外から来た人間の可能性が高いと推理したわけか。留年のくだりはスルーする。
「すごいね、探偵みたいだ。俺、
「アの次がイか。そりゃ勝てないね。俺は
笑って挨拶をした後、けれどこいつは顔をしかめてみせる。
「ところでさ、今の『探偵みたい』って台詞、まあお世辞でもカッコイイし嬉しかったんだけど、それ、隣の席のヤツに言わない方がいいぜ。面倒くさくなる」とまだ来ていない女子の席を顎で指しながら言う。
「まだ来てないみたいだけど、知り合いなの?」
「うーん……まあ、同じ部活、かなぁ……?」
「語尾を上げられても困るんだけど」
「俺が幽霊部員気味というか、半分在宅作業というか……。今日の朝練出てないのも文句言われそうというか――あ!」
「え、何!?」
「悪いが俺は君のことを生贄と捧げることにした、すまない」
突然妙に渋く低い声でそう言うと、彼は机に向き直り、携帯を取り出して、どこかに連絡を取り始めた。
「いや、わけわからないんだけど!?」と肩に手をかけるが「なんまいだぶなんまいだぶすぐ来るってさなんまいだぶ」という訳の分からない返事しか戻ってこない。
やっぱりこいつは変人なのかと納得した時、教室のドアが大きな音を立てて開いた。まだ騒がしかった教室も、先生が来たと思ったのだろう、シンと静まる。
「アシハラーー!! 男子の転入生ってホントッ!?」
けれど、そこにいたのは、半開きのスクールバッグに乱暴に詰め込んだようなブレザーを覗かせた、明らかに同級生と思しい全身ジャージ姿の女の子。
――アシハラってこの前の席の芦原か?
慌てて芦原の方に目をやると、「ホントにすぐだな!?」と言いながら両手で俺のことを指さしていた。
「転入生!?」とにわかに騒がしくなる教室。けれど、彼女はそれをものともせず、こちらに駆けてくる。
呆気にとられるうちに、目の前まで来た彼女は、机の上で組んでいた俺の手をギュッと握りしめ、スゥという音が聞こえそうなほど息を深く吸い込んだ。
「――ねえ、君! 演劇って興味ない!?」
グッと顔を寄せてきた彼女の顔が、視界の大部分を占めている。何故だか挙がる黄色い悲鳴。
キラキラと輝く彼女の瞳は、呆気にとられる俺の顔を映していた。
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