女子がちょっと苦手な俺が、転入先の元女子校で劇部女子に振り回されている……!
置田良
新入生歓迎公演編
第1話 ひとひらの桜と「五十音」
――その
* * *
クラスの六割が女子という異空間。五感に訴えてくる、つい先日までいた高校との違い。
まず匂いが違う。ここでは野郎共の汗の臭いはしない。カップラーメンの臭いもない。満ちているのは、香水なのか、それともハンドクリーム程度なのか、鼻をムズムズさせる甘い匂い。
辺りを飛び交う声のキーが高過ぎる。耳がキンキンするほどに。
二年生ともなるとそりゃもうグループが出来上がっているのはわかる。でも、初日から皆テンション高過ぎだろう。
けれど何より、景色が違った。
なんというか、こう、肌色が多い。特に足。スカート短すぎだろうアレ。机に座って足を組むな。目のやり場に困る。
逸らした視線の先は窓の外。
僅かに開いた窓の隙間から、ひとひらの桜がふわりと入り込む。
……? 何か聴こえる気がする、ような?
「……きつつき……浅瀬……ラッパ……なめくじ……日向のお部屋にゃ……」
確かに聴こえるけど……なんだこれ? 窓の外からだ。
「……焼き栗、ゆで栗……雷鳥は……ラリルレロ……」
いつの間にか、今の今まで前の席で机に突っ伏していた男子生徒が、こちらを見ている。普通に振り返らずに、わざわざ背中を反っているあたり、変人っぽい。
『――植木屋井戸替へお祭りだ。』
そいつは外から聴こえてくる文言と、全く同一のものをタイミングを合わせて諳じた。
「えっと……何、かな?」
「外から聴こえてたやつはさ、北原白秋の『五十音』って詩なんだよ」
「へ、へー……」と首を傾げながら言うと、そいつはへらりと笑い「それだけ」と呟いて、再び机に突っ伏した。
桜が舞い飛ぶ四月の頭。俺は男子校から、元女子校へと転入した。
出席番号一番の俺は、張られた紙に従って、教室の左後ろ、窓際の隅に座っている。前の男子は明らかに変わり者で、右隣の席の女子は未だ空席。まだ来ていないのか、それともクラスの誰かと喋っているのか。
この時の俺は、とにかく不安で一杯で、すぐにその漠然とした不安が具体的な形を帯びるとは、知るよしもなかった。
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