エピローグ レイグという勇者(最終話)
魔蟲種が帝都を襲撃してから何年もの時が過ぎた。
街の復興は終わり、かつての賑わいを取り戻しつつある。
あの日から『帝国』という国は消えた。政府が機能を失い、混乱に乗じて帝国と敵対する多くの勢力が攻撃を一斉に仕掛けたのだ。
それでも元帝国は完全には屈しなかった。敵国の侵攻を水際で食い止め、
それを導いたのは、今の連邦政府議長マグリナ・クアマイアだとされている。
帝都襲撃の際に
事実上、
あれからユーリッドは
デリシラは本来の職業である農家へ戻った。彼女が育てた作物が流通に乗って僕の元まで届くことがあるが、これがなかなか美味くて何度も購入している。
そして、僕とカミリヤは――
* * *
「それじゃあ、今日の授業はここまでだ。解散」
「せんせー、さようならー!」
「ああ、また明日な」
僕は教室から去っていく生徒に手を振り、帰宅する彼らを校門まで見守った。
現在、僕は山奥の小さな集落にポツンと建った学校で、子どもたちへ生活に必要な知識を教えている。元々その集落には学校らしい施設はなく、世間的な一般常識を教える人物が必要だった。その枠に僕が収まった訳だ。
僕は教卓に広げていた教科書やノートを鞄へ詰め込み、帰路に着いた。
今は自治体から小さな空き家を貰い、そこを我が家として使っている。
「レイグさん、授業お疲れ様でした」
「パパ、おかえりぃ!」
帰宅するとエプロン姿のカミリヤが迎えてくれた。金髪を後ろで束ね、新妻らしい雰囲気を出している。
彼女の後ろからトコトコと追いかけてきたのは僕の娘だ。カミリヤそっくりな金髪をしている。どうやら
「さ、さ、ご飯できてますよ!」
「ああ」
僕の腕を引っ張り、カミリヤは食卓へ誘導する。テーブルの上に並べられていたのは、山で採れた作物の料理だ。以前は家事もできなかった彼女だが、僕が教えたことで料理の腕も随分と上達している。僕の自慢の妻だ。
僕らがこんな山奥で生活しているのには理由がある。
女神ロゼッタと主教ルイゼラが消えたことで女神教団過激派は虚弱化し、莫大な規模を持つ穏健派に取り込まれた。
それでも完全に火が治まった訳ではないし、まだ勇者召喚の存在を信じている輩もいるかもしれない。カミリヤを見つけられると厄介なことになるだろう。
だからこうして僕らは人目につきにくい辺境の集落で静かに暮らしているのだ。
帝都にいた頃の生活と比べると質素だが、今の僕は当時よりも満たされている。
もう権力にビクビクしなくていい。
カミリヤも、娘もいる。
「レイグさん、初めて会った頃と雰囲気が変わりましたね」
「そうか?」
「はい、前よりも明るくなったような気がします」
「カミリヤも、昔より明るくなったな」
幽閉。戦闘。刑罰。調教。
彼女があんな地獄に戻る必要はもうない。
最後に
そんなことを考えていると――
「私を救い出してくれたのは、あの光の巨人じゃありません。私を救ってくれた人はレイグさんです。レイグさんが本当の勇者さんですよ」
そう言って、彼女はニコニコ笑っていた。
* * *
その夜、僕は明日の授業を準備するため書斎に篭った。
扉を閉め、小さなランプが置かれた机に向かう。
そのとき――
パサッ!
背後で何かが落ちる音がする。
拾い上げてみると、それは封蝋のされた手紙だった。
「何だこれ?」
自室には僕しかいないし、扉はキッチリ閉められている。自分以外の誰かが置いた訳ではなさそうだ。戸棚や机にもこんな手紙を入れておいた記憶はない。
つまり、この手紙は突然背後に現れたことになる。少々気味が悪いが、僕宛の手紙らしい。
僕は封を切り、中身の便箋を取り出した。
「フッ……」
そこに書かれていた内容を眺めて、思わず笑ってしまった。
便箋には滑らかな文字で、こう書いてある。
『レイグ君へ。
あのね――
――エルシィより』
【おい駄女神騎士!ちょっとは魔蟲種討伐しろ!】完結
クリミナゴッデス・キル・ザ・アラクニド ゴッドさん @shiratamaisgod
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