第56話 カミリヤという駒
「どうしてお前がこんなところにいる?」
「貴様らの刑罰をここで終わらせるためさ、レイグ」
帝都に続く道中、そいつは待っていた。
マグリナ・クアマイア。
僕の上司。そして、僕らを魔蟲種討伐刑に命じた人物でもある。
彼女は
多くの男たちを背後に待機させており、剣やら
「『刑罰がここで終わり』はどういう意味だ?」
「カミリヤが『勇者召喚』できなかった理由を突き止めたそうじゃないか」
「随分と情報の伝達が早いな。誰かを僕の近くに潜ませていたか?」
そのとき――
「ワタクシですよ、レイグ様」
背後から若い男の声。
振り返った先にはアルビナスが立っていた。
マグリナ同様、多くの男たちを引き連れて。
「やっぱりお前か」
「ワタクシがこっそりとあなたの動向を監視し、再び勇者召喚をするためにはレイグ様が入手した宝玉を壊すことが必要だとマグリナ様に報告したのです」
「まさか、58号が僕らをここまで誘導したのも……」
「ええ。ワタクシが彼に細工を施しました」
58号が僕らを帝都まで引き戻した目的はカミリヤの裁判をやり直すことではなく、マグリナの思惑だったらしい。マグリナなら機密情報となっているカウント君の構造資料を入手するのも簡単だろう。
「さぁ、宝玉をこちらに渡せ」
「……これをどうするつもりだ、マグリナ」
僕は懐から女神の力を封じる宝玉を取り出し、マグリナへ見せた。
依然、それは夕焼けに負けないほどの強い輝きを放っている。
「ほぉ。なかなか綺麗なものだ」
「こいつには強い衝撃も魔術も効かなかった。これをお前なら破壊できるのか?」
「別に破壊せずとも、魔力さえ遮断すればいいのだろう?」
マグリナは自信有り気に微笑んだ。
「帝都の軍基地にある魔力遮断設備に放り込む。これなら設備内に魔力が留まり、そこにいる女神も勇者召喚を使えるはずだ」
マグリナは四足歩行戦車から飛び降りると、私兵を押し退けながら、ゆっくりと僕らの元へと歩いてくる。
腰に掛けている刀が揺れ、ハイヒールの硬い靴音が石橋を鳴らした。
「本当に貴様はよくやってくれたよ、レイグ」
彼女は僕の横を通り過ぎると、僕の背後にいるカミリヤへ手を伸ばす。
怯える彼女の顔に触れ、顎を上げさせた。
「そしてこの娘は私の駒となり、敵国の輩を切り裂く刃となるのだ」
マグリナは彼女へ息がかかるほど顔を近づける。
ジロジロと見つめてくる鋭い眼に、カミリヤは息を殺し、静かに震えていた。
「あの
マグリナの目的は魔蟲種殲滅よりも、帝国による世界制服に重点を置いている。
そのために勇者召喚ができるカミリヤが必要だったのだ。
そして今、実行に必要なピースが遂に揃った。
カミリヤ。
そして、彼女の力を封じる宝玉。
これで、前回は失敗に終わった勇者召喚を再びできる。
マグリナはその喜びに震えていた。
しかし――
「そっ、そんなこと、させません!」
カミリヤはマグリナの手を払い、後方へよろよろと退く。
「勇者召喚は魔蟲種を倒すためにある力なんです! 人殺しになんて使わせません!」
それがカミリヤの意志だった。
魔蟲種によって両親と故郷を失った彼女は、自分と同じ境遇の人間を増やすのが嫌なのだろう。それに彼女は帝国と女神教団による戦争の惨禍を間近で目撃してきた。人間同士の争いの醜さもよく分かっている。
彼女はマグリナを睨み、頑なに同意を拒んだ。
魔蟲種による被害も、人間同士の戦争も起こしたくない。
それを心の底から望んでいる。
僕も彼女の隣に立ち、カミリヤを援護する姿勢に入る。
「マグリナ、お前はこの状況にもなって、まだそんなことを言っているのか」
「何のことだ?」
「魔蟲種の巣で行われた戦闘で、何が起きたか知らないのか?」
「知っているさ。何万もの兵が一瞬で蒸発したらしいな」
「そうだよ! もう世界制服だの言ってる状況じゃないんだ! 分かっているのに、どうしてお前は……!」
僕は一連のマグリナの発言に、驚きを通り越して呆れていた。
この女は帝国を最強の軍事国家にするという目的に取り憑かれている。彼女にとって魔蟲種討伐など二の次だ。
「貴様も私の思想に異を唱えるとは、少々計算違いだったな。もっと帝国の利益に貪欲な男だと思っていたが……」
彼女は僕を鼻で笑い、視線をカミリヤへ戻す。
「カミリヤ……貴様も私の下で力を使う気はないと?」
「人間同士の争いに勇者召喚を使うことは間違ってます! 私は何があっても、あなたの思い通りにさせるつもりはありません!」
「そうか。なら――」
その瞬間――
ドゴッ!
「うぐっ……!」
「駒が自分の意志など持つ必要はない」
マグリナの強烈な拳が、カミリヤの
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