第37話 レイグという魔術師
最近、どうも遭遇する魔蟲種が一気に強くなった気がする。討伐ポイントも急激なインフレが起きている。
そして
討伐刑を始めてからたった数日。こんな大物に出会えるとは思わなかった。
これもカミリヤが傍にいる影響だろうか。
でも、今は違う。
僕は知ってしまった。
カミリヤが体験した苦痛に満ちた儀式。
魔蟲種の生まれている原因。
この世界に訪れようとしている危機を回避するためには、カミリヤとロゼッタの存在が不可欠だ。今後、彼女が勇者召喚できるかは分からないが、その召喚術がこの事態を打開する大きな鍵になるだろう。いつか勇者召喚ができると信じて、僕は彼女を待ち続けるつもりだ。
それに、僕はカミリヤを守りたい。ずっと周囲から虐げられ、権力と暴力に振り回されてきた彼女を。
そのために――
「お前にはここで消えてもらおうか、
「キュオオオオオッ!」
放出された粒子で黒く染まった空を縦横無尽に飛行する流星。羽が生み出す強烈な振動は砂埃を吹き上げ、視界を奪う。
僕は耳を限界まで澄まし、接近の際に変化する羽音を聞き分けた。ヤツは確実にカミリヤを狙ってくる。進行方向が変化するタイミングさえ読めれば、爪の軌道を読むのは簡単だ。
急降下と同時に繰り出される爪は、岩をもバターのように切断するほどの切れ味がある。一方、こちらの仕込み杖には補助魔法が施されているとはいえ、何度も爪を凌げるほどの耐久力はない。なるべく刃の消耗を押さえるため、カミリヤを抱えたまま跳んだ。爪が彼女のギリギリ横を通り過ぎていく。
「ひえぇぇぇ! 大丈夫なんですか、レイグさぁぁぁん!」
「黙ってろ。舌を噛む」
爪を一度避けた後、敵はその速さゆえにすぐに進行方向を変えることはできない。爪さえ過ぎてしまえば、一瞬だがこちらに反撃のチャンスが生まれる。
「ここだ」
「キュオオオオッ!」
刃を甲殻の隙間に突き立て、敵の羽を切り落とした。まるで幅広剣のような薄羽は固い地面に突き刺さり、
「これで地上戦だな」
ヤツは地面に叩きつけられた体をむくりと起こし、再びカミリヤを見つめる。羽を失っても、彼女への執念は変わらない。逃げる気配もなく、こちらへ走り出した。
* * *
一方、
「さすがに硬ぇなぁ!」
「キュイイイッ!」
デリシラは高く跳躍し、身の丈ほどもある巨大な戦斧を
しかし、
それはユーリッドが繰り出す光の矢でも同じだった。特に腕の甲殻は分厚く、強力な攻撃は腕を盾のように使ってダメージを軽減する。矢は致命傷になるような威力を発揮できないまま弾き返された。
「なぁユーリッドぉ! 何とかなんねーのかよ!」
「どうにかして弱点への不意打ちを狙えれば、な」
「んなの、難しいって!」
「キュイイ!」
そのとき、
「危なぁ!」
ドオオォォン!
岩を落とされた衝撃が、波のように大地へ広がる。振動で周囲の小石が浮き上がり、砂煙が高く昇った。
そのとき――
ブシャアアア!
「キュイイイン!」
砂煙の中から飛び出した光の矢が、
「おっしゃぁ! サンキュー、ユーリッドぉ!」
「いいから、早く止めを刺せ」
「分かってらぁぁぁぁぁぁぁ!」
間一髪で岩を避けたデリシラは、その岩を駆け上がった。さらに頂上から跳ね、戦斧に渾身の力を込める。
「これで終わりだぁ、クイイイイイイイン!」
複眼に開いた穴へ、デリシラの斧が叩き込まれた。甲殻が大きく裂かれ、そこから体液がボタボタと流れ落ちる。
巨大な頭部が真っ二つになるほどの威力。それを弱点に受けた巨躯はゆっくりと姿勢を崩し、力なく地面に伏した。
「おっしゃあああっ!」
デリシラは
戦闘に特化した灰狼の獣女。緑の眼を持つ巨人を倒し、その強さを体現した。
「やったぜ、お前のおかげだな、ユーリッド」
「フン……」
「嬉しいならもっと喜べよぉ、ユーリッドぉ」
デリシラはユーリッドの隣へ降り立ち、冷静に振舞う彼の肩をポンポンと叩く。彼女が笑いかけても彼の硬い表情は変化しなかったが。
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