第16話 心の準備ってもんがあるでしょ

 ちょっと待って。

 車に乗ったのはいいんだけど、海にいた時間短くない?たった10分?

 あと、一つ大事なこと忘れてない?


 これからの事、一切話してないんだけど!



「あの…一つ聞いていいですか?」

「ん?」

「話があるって言ってたんですけど、あれって何ですか?」

「え…さっき海で言った事だけど…」

「は!?」

 やばい!思いっきり心の声漏れた!勇気を振り絞って聞いたのに!え、あれが話だったの?短くない!?

「なんか…問題でもあった?」

「ありすぎですよ!問題!!ちょっと待ってください。あれが話なんですか?短すぎません?」

「短い…?」

「短すぎです!わたしが言うのもあれですけど、なんかもっとこう…これからはああするみたいな…」

「ああするって?」

「だからその…彰さんって天然ですよね!」

「なんでそんな怒ってんの?」

「怒ってないです。だから、その…これからは、なるべく会わないようにしようとか?」

「君は俺に会いたくないの?」

「今は受験生ですから」

「冷たいなー」


 怒っているんじゃない。これからの事を本当に考えているのか不安になった。

 自分がどんどんネガティブになっていく。


「考えてるよ」

「え?」

「これからのこと。着いた、降りて」

 そういえば行き先のこと聞いてない。

 ここどこ?え!?看板を見て驚いた。


「HOTEL rabbit」


 は?ホテルのウサギ?すごく怪しいんだけど!怖くて車から降りれない。

「何ビビってんの、ほら行くよ」

「え?ちょっと…」

 ドアを開けられ、腕を掴まれながら歩いている。本当にここに行くの?

「あの!わたしこういうとこ初めてなんですけど…」

 緊張しながら顔を上げた。

「君がすごく不安そうな顔するから」

 彰さんは、すごく哀しそうな顔をしている

「へ…?」

「じゃあやめるか。受験生なんだから、お家に帰って勉強しなさい!」

 まるでお母さんのように言う。


「行きます」


 わたしは車に乗ろうとしている所を止めた。

「わかった」

 そして怪しげなホテルへ入った。



 店内は黒っぽくてやっぱり怪しい雰囲気。エレベーターから降りてきたお客さんは、明らかにドラマで見るような社長とその愛人のような人が出てきた。

「じゃあ行こうか」

「は、はい」

 エレベーターの中はいたって普通。

 やばい。心臓の音が止まらない。


 部屋についた。

 え!?お風呂が透けてる!?なんだここ!?

「もう逃げられないよ」

「え!え!?ちょ、ちょっと!」

 いきなりベッドに押し倒してきた。




 待って!心の準備がー!!!!!





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