第11話 楽苦幸辛の扉に入る時が来た

 高峰さんとデート(?)してから、2ヶ月が経った。

 あれから1回も会っていない。

 多分、向こうはわたしに会いたくないのだろう。わたしも会ったら何を話せばいいのか分からない。



 そして夏休みが終わり、母からバイトは夏休みが終わったら辞めるという約束をしていた。

「今日で遥、終わりかー」

 村沢さんが少し悲しそうな顔をしている。

「はい。今までありがとうございました」

「これからもちょこちょこ会おうね」

 そう言って、わたしに手作りのクッキーをくれた。

「村沢さんは、私にとってお姉さんみたいな存在でした。これからも健康に気をつけて頑張って下さい!」

「ハハハ!健康って、私まだ若いしハハハ!遥ってたまにおかしい事言うよね」

 こうしてわたしのバイトが終わった。



 —帰り道

 ピロン♪

 母からLINEがきた。

 "トマトと牛乳とバター買ってきて😙"

 オッケーとスタンプを押した。

 すぐ近くにスーパーがあるので寄った。


 レジに行き、袋に詰めようとしたその時、

「遥ちゃん………」

 高峰さんがいた。

「あ……こんばんわ」

「…買い物?」

「はい、頼まれて……」

 何を話せばいいのか分からない。

「それじゃあ……」

「ちょっと待ってて!」

 そう言われたので外で2~3分待っていた。


 何を言われるのかドキドキした。短い時間なのに10分くらいに感じた。

「お待たせ」

 高峰さんは休みだったのか、白いTシャツにジャージの短パンにサンダルだ。


 近くの公園についた。

「はい」

 わたしにオレンジジュースを渡してくれた。

「ありがとうございます…」

 沈黙が続く。

「あの…さ、遥ちゃんは……」

 高峰さんが切り出したが、聞くに聞けないというような喋り方をしている。

 わたしは意を決して言うことにした。



「わたし、高峰さんの事が好きです」



 高峰さんは、ぽかんと口を開けている。

「なんでキスしたのか、自分でもわかりません!わたし、子供なので」

「………」

「そろそろ家に帰ります、じゃあ」

 歩き始めようとした瞬間、腕を掴まれた。

 そして急に、後ろから抱きしめられた。

「君からキスされたあの日からずっと妻じゃなく、君のことを考えるようになった」

「え…?」

「君とは会わないようにするために、コンビ二にも行かないようにした。あの商店街にも行かなかった。行ったら思い出して罪悪感に満ち溢れてしまいそうな気がして」

「それは、奥さんに…?」

「わからない…。でも今日会って気づいた」


「君の事を好きになった」

 そう言うと高峰さんがキスをしてくれた。

 優しい、包んでくれるような。



 それからわたしの家まで送ってくれた。

「じゃあね、遥ちゃん」

「ちゃん付けやめません?子供っぽい」

「自分の事、子供って言ってたじゃん!」

「あれは!あの時の勢いです!」

「わかったよ…。じゃあな、遥」

 実際、言われると照れる。

「さよなら!あきら……さん!」

 いきなり呼び捨ては恥ずかしい。でも、下の名前で呼ぶとすごく嬉しそうに笑ってくれた。

「おう。あ、敬語禁止な!」



 もう人生どうなってもいいからこの人と一緒にいたい

 そう思った17の夏の終わり














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