第8話 一つの幸せが誰かを傷つける

 あれからわたしもベンチに座った。

「結婚してたんですね」

「うん、子供はいないんだけどねー」

 —子供いないんだ

「そうなんですか…。高峰たかみねさんっていくつなんですか?」

「32」

「え!なるほど…」

「なるほどって、はるちゃん俺のこといくつだと思ってたの?」

「34?くらい」

「変わらないじゃん」

 と、笑いながら言った。

「遥ちゃんは?いくつなの?」

「17です」

「え…17だったの!?」

 すごく驚いた様子だ。

「いくつだと思ってました?」

「23…くらい?」

「あ、でも、初めて会った人にはそのくらいに見られます」

 高峰さんはすごく困惑した様子だ。

「ワン!ワン!!」

「あ、そろそろ帰らないと!それじゃあ」

「う、うん。じゃあ」



 次の日学校で由梨ゆうりにまたトイレに連れ去られた。

「昨日会った?」

「うん、会ったよ」

「ちゃんと聞けた?」

「聞けた」

「で、どうだった?」

「結婚…してた」

「そっかー」

 そこから沈黙になった。お互い何も言えず、

 予鈴がなった。

「そろそろ、戻ろっか」

 いつも元気の由梨が静かに言った。



—そして帰り道

 今日はバイトがないので由梨と一緒に帰ることになったが、やはり沈黙は続く。

「あのさ、遥」

 由梨が立ち止まった。

「ん?なに?」

「どうするの?諦めるの?」

「…」

「私は、諦めてほしくない…。でも!諦めてほしい…!」

「え?」

「諦めなかったら、遥は幸せになるかもしれない。でもその一つの幸せが色んな人を絶対傷つけて、遥も傷つく!今諦めたら遥はまだ傷つかない」

 由梨は泣きながら言ってくれた。

「由梨…ごめん……わたしもう決めてた」



「諦めない」



「どうして…?」

「これがわたしの人生なの」

「でも…」

「自分でもひどいのは分かってる」

「もしバレたら、遥の人生ボロボロになるかもしれないよ…」

「そうなるかもしれないけど、好きになったものはもう止められないんだよ。ボロボロになったってわたしは何度でも立ち上がる」

「遥……本当にいいの?」

「うん」

「私は応援できない…」

「うん、それでいい」



 それから私たちは一緒に帰ったり普通に喋ったりする。でも、あの件に関しては一切触れない。



 —そして夏休みに入った

 わたしは今でもバイトをしている。

 バイトの帰り道、たまに高峰さんと会って家まで送ってくれる。

「夏休みの宿題は終わったか?」

「まだ終わってないです」

「まあ、そんなもんだよな。お、着いたな。それじゃあ」

 わたしは思いきって聞いた。

「あの、迷惑じゃなかったらなんですけど、よかったら今度ご飯食べに行きませんか?」

「…」

 —やばい、困ってる

「あ、あの、そこのカフェとか…?」

「うん、行こう」

「いいんですか?」

 —じゃあ、さっきの沈黙は何だったんだ?

「いいに決まってんじゃん」

「ありがとうございます!じゃあ、また」

「あ!ちょっと待って。俺、遥ちゃんの連絡先しらない」

「そうでした…じゃあ、LINEでいいですか?」

「おう。……よし。それじゃ」

「さよなら!」



高峰さんとLINE交換する日が来るなんて…

生まれてきて良かったー!!!


そんなこと思える日が続くことを祈るばかり

でも、人生はそう甘くない






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