第14話 梅雨明け、そしてはじめての夏1

 土日はもちろん、月曜日も祝日で、あの子には会えなかった。

 火曜、水曜は、下校時刻がいつもと違ったせいもあってか、やっぱり会えなかった。

 メールもあれから全然来ないし、自分からも送っていない。

 メールさえ送れない意気地なしのあたしに、みずから会いに行く勇気なんて、あるはずもなかった。

 榮くんに告白したときだって、何日いや何週間も迷ったし。

 そんなこんなで、今日木曜は終業式。

 明日からいよいよ、夏休みがはじまる。

 あたしの気分とは裏腹に、空は朝からキレイに晴れて、教室内の空気もどこか浮ついている。

 世の中すっかり夏仕様で、そろそろ梅雨も終わりなのかもしれない。

 あの子との関係も、このまま終わってしまうのかな。

 って、そんなのイヤだよ。

 絶対にイヤ。

 だって、あたし、あの子のこと……。

 よしっ、今日こそ絶対会いに行こう。

 そう決意したとき、ワカちゃんが登校してきた。


「ねぇ、菜月。よかったら、今日、うちへ来ない?」


 挨拶もそこそこに、彼女はいった。


「えっ、いや、でも……」


 今日はあの子に会いに行こうと、たった今決めたとこなのに。


「今、翔大のヤツ、林間学校行ってていないんだ」

「へぇ……って、林間学校っ?」

「そっ。昨日から二泊三日で」

「それって、6年生みんなが行くんだよねっ」

「そりゃまあ、学校行事だし」


 そんなぁ……。

 それじゃあ、あの子には、新学期まで会えないってこと?


「菜月、最近また元気ないし、一緒に遊ぼうよ。なんなら、こないだいってたケーキ屋行ったっていいんだよっ」

「ゴメン。今日はムリだわ」


 とてもそういう気分になれない。


「そう。あっ、じゃあ、土曜日はどう? 近くの神社でお祭りがあるんだけど、一緒に行かない? 屋台も出るし、花火もあるし、この辺の子なら絶対外せない一大イベントなんだけど」


 この辺の子っていうなら、あの子も来るかな?


「昼間遊んで、夜になったらお祭り行って、そのままお泊まりとか、どう?」

「お泊まりって、お邪魔じゃない?」

「大丈夫。その日親いないから。ま、邪魔なガキはいるけど、気にしないで」

「……それなら、行こうかな」

「そうこなくっちゃ。あ、もう移動みたいだから、あとでいろいろ考えよっ」


 楽しそうなワカちゃんを見ていると、あたしも少し元気が出てくる。

 まるで、あの子といるときみたいに。

 そうだよね、高校生になってはじめての夏だし、あれこれ楽しまなくちゃ勿体ないわ。

 終業式が終わってから、あたしたちはちょっとだけ教室に残り、土曜日のことを話し合った。

 そして、ちょうどその頃、気象庁から「梅雨明けしたとみられる」との発表があった。


        *


 土曜日のだるような昼下がり。

 駅前でワカちゃんと待ち合わせをした。

 私服のワカちゃんは新鮮かと思いきや、白いシャツに紺のショートパンツで、色的に体操服と大差ない。

 ちなみにあたしは、真っ白なワンピース。

 それに、麦わら帽子を被り、茶色いサンダルを履いて、着替えや浴衣の入った茶色いボストンバッグをげている。

 格好だけでも、ちょっとしたリゾート気分だ。

 まずはこの間のスーパーであれこれ買い物をし、それからワカちゃんの家へと向かう。

 途中、小学校の校門前を通ったりもして、いろいろ思い出したりもしたけど、今日はあの子のことは忘れて思う存分楽しもうと思う。


「暑いけど、もうすぐだから。あ、ほら、あそこ」


 ワカちゃんが指差したのは、二階建ての茶色い家で、門柱にある表札には漢字とローマ字の両方で名字が書いてある。


「さぁ、上がって」


 ワカちゃんが玄関を開けると、いきなり中から声がした。


「あ、羽奏っ。オレの上着知らない? 青いヤツ」


 ちょっと掠れた、女性のようにも聞こえる低めの声。

 なんだかとても、聞き覚えのある声だ。


「は? 知らないけど。つうか、こんなクソ暑いのに、そんなの着てどこ行くのよ。熱中症になってもしらないから」

「着ねぇよ。あれは、オレの大事な――っ!」


 階段を降りてきた声の主が、完全に姿を現す。

 あたしより背の低い、でも、なかなか整った顔立ちの男の子。

 彼は何かをいいかけたまま、驚きの表情であたしを見つめているが、あたしも多分同じような顔してると思う。

 だって、そこに現れたのは、あの男の子だったのだから。

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