第11話 梅雨雲り3
モモちゃんのお陰で、無事駅までたどり着くことが出来たけど、絶対変に思われたよね。
散歩してたら迷子になったって話、信じてくれたかな。
ほどほど混み合った電車の中、ドア脇にもたれるように立っていたら、スマホに着信があった。
見ると、《小学生》からメールが。
画面をタップすると、彼からのメッセージが現れる。
『送れなくてごめん。ちゃんと帰れた?』
ああ、心配してくれたんだ。
『大丈夫。今、電車。』
急いで返信すると、またメールがきた。
まるで、隣にいて会話してるみたいに。
『よかった。気を付けて帰れよ。』
『ありがとう。』
そう返したあと、ハンカチのことを思い出した。
あれ、持ってきちゃったけど、本当に彼のかな?
名前とか書いてないかしら。
広げてみて名前がないのを確認し、それから書いてあったとしても、それが彼の名前かわからないことに気付く。
そりゃあ、ワカちゃんに聞けばわかると思うけど、あれだけ内緒にしてるのを、こっそり暴こうとしてるみたいで、なんとなく気が引けるし。
とりあえず、彼に聞いてみよう。
メールすると、すぐに答えがあった。
『俺のだと思う。明日持ってきて。場所は小学校の校門前。時間は任せる。』
明日か。
明日も授業は六限までだけど、この間のこともある。
『15時45分頃は?』
『了解。待ってる。』
ああ、これで明日も会う約束が出来た。
あたしはどこか幸せな気持ちで、電車を下りた。
*
そして、翌日の放課後。
相変わらずの曇に覆われた空の下。
あたしは、キレイに洗いアイロンまでかけた例のハンカチをカバンに忍ばせ、小学校を目指す。
今日は時間に余裕があるから、走る必要もない。
ちょっと早く着きすぎちゃうかな。
そう思いながら角を曲がったら、校門前にはすでに人影があった。
それも、一人じゃない。
二人いる。
一人は黒いパーカーにカーキ色のハーフパンツ、黒いスニーカーを履いたあの子だ。
そして、もう一人は、ミントグリーンのシャツにベージュのショートパンツ、青いスニーカーを履いた女の子ぉ?
髪はさらさらのショートボブで色が白く、くりくりした目が愛らしい。
二人は寄り添い、楽しそうに喋っていたが、こちらに顔を向けていた女の子の方が先にあたしに気付いた。
彼女の視線を辿り、彼もこちらを向く。
「菜月。早かったな」
こちらに駆け寄ってこようとする彼の腕を、女の子が掴んだ。
「ちょっと待ってよ」
声まですごく可愛い。
「なんだよ、離せよ」
「でもぉ」
女の子が何かいいかけたとき、さらに二人の女の子が校門から顔を出した。
「あっ、イズルくんたち、いたっ」
「何してんのぉ。早くぅ」
彼女たちが口々に呼び掛けるのに、彼は大儀そうに答える。
「あーもう、わかってるよ。すぐ戻るから待ってろって。ほら、お前も」
彼は女の子を引き寄せ、耳元で何か囁いた。
女の子は、
「あとで、何か奢ってよ」
そう彼に言い残し、他の女の子たちを連れて、校内へ戻って行った。
いったい、何だったんだろう。
呆気にとられていると、彼が駆け寄ってきた。
「ゴメン。邪魔が入って」
「大丈夫なの?」
「ああ。菜月との約束のが大事だし」
なんでこの子は、こういうこと、さらっといえちゃうんだろ。
もしかして、そういうことを気にしない性格で、誰に対してもこんな感じなのだろうか。
なんて、さっきの女の子とのやり取りを見ていたら、思ってしまった。
やっぱ、すごくモテるんだろうな。
「どうかした?」
「ううん。はい、これ。キミの?」
ハンカチを差し出すと、彼は笑顔で受け取った。
「うん、そう。サンキュー。あ、なんか、イイニオイする。菜月と同じニオイだ」
そのセリフを白々しく感じてしまうのは、どうしてだろうか。
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