臨戦態勢
――
――てめぇにそれは無理だろって、何度言わせんだよ
――いえ何度も言っておりますが、永遠の眠りとはあなた様を殺すことではなく、あなた様を凍らせることにございます
――だから何度も言わせんなって。それこそ無理だって言ってんだよ、おまえには
――それは失礼いたしました、魔天使様
――魔天使様魔天使様、こちらをご覧ください
――あ? ……おまえ、そいつはまさか……
――はい。あの方からの贈り物です。地上の王より
――はぁぁん……で、それを見せつけられて俺はどんな反応すればいいんだ?
――
――……おまえ、頭の拘束だいぶ外れてねぇか……?
――そのようなことはありません。階級は上がりましたが、未だそこまでの自由は与えられておりませぬ
――ほんとかぁ?
――頭の拘束で言えば、魔天使様の方が外されているかと思います
――そりゃ俺は最強の天使だからな。地上に降りるときならまだしも、
――最強……?
――んだよ、その顔は
――いえ、失礼いたしました。魔天使様
――生まれたって?!
――はい、女の子でした。魔術の素養がとても強いと、お墨付きです。どうですか、魔天使様
――その無表情に張り付いたみてぇなドヤ顔と似合わねぇピースサインが気に入らねぇが……まぁいい、許してやらぁ
――ありがとうございます
――で、いつだ。旦那が帰ってくるのは
――主人なら、三日前に死亡を確認しております。戦場にて人間の槍を受けたのだとか
――そうか。そらぁぁ……あぁ、残念だ
――何がです?
――いや? まぁよかったのは、てめぇの脳の抑制が完全に外れるまえに死んでくれたことか。お陰でまだ、処理できるんだからな
――失礼ですね、魔天使様。私だって大天使ですよ。すでに感情の抑制は幾ばくか外れております。現に主人のことを思い出せば……ホラ、こうして、なみ、だ、が……
――いや無理に実演しなくていいっての。ってか泣くな、どうしたらいいかわかんねぇじゃねぇか
――それは失礼いたしました、魔天使様
――……個体名なんにした? まぁ天使の軍に入れられりゃ番号で呼ばれることになるし、昇格して与えられるのも称号名だ。てめぇ以外呼ばねぇことになるだろうが
――色々考えました。私の称号名と自身の称号名を掛け合わせ、適当に付けようと主人は言っておりましたが、しかし考えてしまいました。その結果、私の魔術から案を得て、命名いたしました
――なんだかんだ、母親してんじゃねぇか。で、なんて名だ
――はい、黎明と称された私の魔術から取りまして……***と
「其方の相方がピンチだが、助けに行かなくてよいのか?」
「生憎と、あれはエタリアの高名な騎士殿だ。俺が助けるまでもねぇ。てめぇだってわかってるだろ? 骸骨皇帝。あいつの魔力をまだ感じられる」
「……フン、忌々しいことだがな。で? 貴様は我と戦うというのか」
「あぁそうさ。初歩の初歩の魔術刻印付き先制パンチが効かなかったからな、今度はしっかり相手してやるよ、ジジィ」
「フン、我を殺せる術が、果たして貴様にあるかな?」
「あぁ、生憎と俺には天界に二人のダチ公がいてな。一人は唯一無二の親友って呼んでる悪友。んでもう一人は……」
「てめぇみたいな不死身野郎を殺し続けた、俺のできる後輩だぜ」
しかしその眼光の先に常に
純騎士の無事を確かめて、いよいよここから本番となる戦いに臨もうとしていた。
両手を付き、腰を持ち上げてクラウチングスタートの体勢。その四肢の先が煌々と燃え盛り、魔天使を包み込む。
そしてその煌く炎の色がやがて灼熱の赤から光の真白に変わり、魔天使の背後で四重の円を描くと、その全身を真白の煌炎で燃やし始めた。
「“
魔天使の肘から、真白の炎が燃え上がる。火柱は次第に燃え広がり、揺らめく火焔の翼となって骸皇帝を眩く照らした。
「“
「ほぉ、その炎……否、光。邪悪を滅する払魔の神性か。しかしそれで我が不死身を攻略できるとでも思っているのか」
「あぁ思ってるよ。言ったろ? こいつは俺の、できた後輩の魔術だぜ。ただの浄化とかそこらの魔術と思うなよ」
「面白い。ではどう違うのか、我に見せてみよ」
骸皇帝の足元から沸き起こる漆黒と骨腕の波。対する魔天使が宿す、真白に輝く煌炎の翼と後方の四重の輪。
闇と光という古来より相反する力が衝突し、巻き起こる轟音と衝撃。少し前に持ち上げられた挙句貫かれた巨山の無くなるときには劣るものの、しかしその音は一瞬で大陸のおよそ三割に轟いた。
そしてその三割の範囲内に、彼女はいた。闇との衝突によって広がる光を、無言で見入る。
「あの光、誰か戦ってるのかしら……雰囲気からして、そんな感じね」
「あの光……あの、光は……」
少女が明らか動揺しているのに、
「ちょ、ちょっとどこ行くの!」
龍道院の制止も聞かず、翔弓子は真っすぐ戦場へと飛び立つ。絶えず闇と衝突する真白の煌炎に向かって、大きく広げた翼を羽ばたかせた。
「間違いない……あの、あの光はあのときの、あの記憶の……あの人の……母の光……!!!」
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