龍と騎士と怪物と

途中結果―Ⅰ

 さて、玉座いす取り戦争ゲーム開戦も三日目が終了した。未だ玉座に辿り着けているものはおらず、その痕跡すら辿れているものはいない。

 だがリブリラの永書記えいしょきが脱落し、彼を倒した純騎士じゅんきしが玉座の位置を知る権利を得た。

 この日にあった玉座の場所はかなり遠いが、次の玉座の場所に行くには近い。約二八時間で、着くかどうかと言うところか。

 それを計算したのか、それともただ今の位置は無理だと判断したのか、彼女は次に移動する地点に向かいだした。

 彼女の脳にはこの約三二時間、アトランティアのマップと玉座の位置がイメージできるようになっている。そういう魔術仕組みだ。

 というわけで、ここまでで優勢なのはエタリアの純騎士か。彼女が現在、もっとも玉座に近い存在である。

 だがそれを知ってか知らずか、あの軍勢がそろそろ純騎士と接触する。

 かの骸骨の皇帝は、もはや無差別に参加者を皆殺しにするつもりのようだが、果たして。

 それはそうと、例の謎の魔力の正体は掴めたのだろうか。重複者じゅうふくしゃの口車に乗って任せたが、さすがに二四時間以内に連絡はないか。

 先ほどまで純騎士と共にいたのは確認しているのだが、生憎と天界には地上を見下ろすレンズはない。故に映像はなく、結局謎の魔力としか映らないのだが――その魔力を見たときは実に驚いたな。

 もはや神代――は言い過ぎか? いや、そんなことはない。神代に猛威を振るったまさに怪物ではないか。

 それこそ神に挑み、そして屠った存在――神殺しゴッドスレイヤーとも呼ぶべき存在だ。

 何故そんな存在が、純騎士と共にいたのだろうか。もしや彼女の差し向けた刺客か何かか。

 いやだが、この大陸アトランティアへと続くゲートは閉じてある。例え神殺しの怪物ですら、破ってこれないほど鈍重で厳重な防壁だ。

 と言うよりもまず、奴はどこから出て来たのだ。

 報告では空からとあるが、現在天界が浮かんでいる空より上はいくつもの時空が織り交ざった虚無の空間。神の類でもなければ、一瞬にして塵と消える深淵だ。さすがの神殺しゴッドスレイヤーも、あの空間に耐えられはしないだろう。

 そうなると、ますますわからない。奴は一体どこから出でて、またなんのために純騎士と接触したのだろう。

 数分の間二人と永書記の魔力が感知できず、また現れたかと思えば永書記が死んでいたことを思えば、奴が純騎士と組んで永書記を打倒したのは明らか。だとすれば、奴の目的は純騎士を勝利させることか。

 だとすれば、これはさすがにルール違反だ。奴をなんとかしなければならないし、もし純騎士がそれを手引きしたのなら、厳正な処分を下さなければならない。

 だがまだ証拠がない。純騎士と奴の邂逅もまるで偶然のようだったし、その後も分かれてしまった。

 今奴が向かっているのは……骸皇帝がいこうていのところか。屍の軍勢を退けながら、ゆっくりとだが進んでいる。上空から現れた奴は飛行することもできるはずだが、そこは置いておこう。

 奴の次なる狙いは骸皇帝、それはおそらく間違いない。何せ真っすぐ向かっているのだから。

 飛行すれば二日。軍を破りながらなら、おそらく五日はかかるだろうが、必ず到着すると、奴にみなぎる魔力を見れば思う。

 だがそうなると、純騎士が妙だ。彼女が指示したなら、骸皇帝の位置を知っていることになる。

 さすがにこの広大な大陸の上で、魔力探知はできないだろう。そして今彼女がいる場所には、まだ屍の軍勢は現れていない。故に方角から察するなんてこともできないはずだが。

 となれば、やはり奴と純騎士に関りはないのか。そう考えた方が、今のところ納得がいくが……。

 まぁいい。今は重複者の報告を待とう。彼女――彼ならもうすぐで接触するはずだ。奴の正体、必ず暴いてみせよう。

 とまぁ、とりあえず現状はこんな感じか。明日純騎士が玉座に辿り着くかどうか。彼女が勝利を掴むかどうか、是非見ものだな。

 では、戦争の無事終結を願って、天界われわれはしばし休息としよう。

 後は任せた、翔弓子しょうきゅうし――

 

 

 

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