雨の中のきみ#48

体勢を整えて教室から出て、いつもの喫煙所に行く。間宮さんは煙草を吸い、わたしはそれをぼんやりと眺めていた。

「間宮さんはずっとこの大学にいるの?」

「いや、すぐに消える」

「消える? ちょっとまって、どういうことそれ!」

「俺はもともと笹垣さんが引っ越す前の家に憑いていた座敷童だ。それがその家の子供の成長と共に成長して、やがてきみは引っ越していった。しかしその家が最近取り壊されてしまってね。きみを求めてさまよっていたところでここの大学に通うきみを見つけた。大学に憑くからにはそれ相応の格好をしなくてはいけないから大学生くらいの人間の格好をしているんだが、それは座敷童にとってひどく力を使うことなんだよ。だから他のことに力を使えなくてきみ以外の人間には認識されない。きみだけが認識できるのも俺と過ごした過去があったからだ。いわゆる残留思念のようなものだと思ってもらえればいい。

でも俺がきみを守るのはここまでだ。だってきみはきちんと父親に立ち向かうことができた。これ以上俺が守る必要なんてないだろう?」

間宮さんは優しい顔でそう語る。そんなことないのに。間宮さんがいたからわたしは立ち向かえたのに。これで間宮さんがいなくなって、また父親や、今度は母親がきたりしたらわたしは一人じゃ立ち向かえない。

「でも、そんな、わたし一人じゃ無理だよ」

「そんなことはないさ。由依は一人で大丈夫だ。だからこの煙草が吸い終わったら俺はもう消える。きっとまたどこかの家に憑いて、どこにでもいる普通の座敷童から始めるさ」

「嫌だ! わたしは間宮さんと離れたくない!」

「由依、大丈夫だ。きみが困るようなことがあったら俺のことを思い出してくれ。きみは一人じゃない。友達がいる。仲間がいる。だから」

「だからもなにもないよ! 間宮さんの代わりなんていないんだから!」

間宮さんは困ったような顔で微笑んだ。なんだかその姿が透けているような気がして怖くなる。行かないでお願い消えないで。でもそんなわたしの願いは届かなくて。

「それじゃあさようなら由依。ずっとずっと大好きだ」

それだけ言って、間宮さんは消えてしまった。

結局わたしはまともに別れの言葉を言うこともできず、最後の最後まで間宮さんを困らせてばかりだった。最後くらい笑顔でお別れをすべきだっただろうに、それができなかった・

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