雨の中のきみ#44
間宮さんとわたしは知り合いである。知り合い以上友達未満と言ってもいいだろうか。なんにせよ友達ですらない曖昧な関係だ。できることなら友達になりたいけれど、間宮さんにその気がないのであれは、わたしたら強制することはできない。わたしが何かを忘れていることが原因らしいけど、その何かとは何だろうか。もしかして昔間宮さんとどこかで会っているのだろうか。考えても思い出せない。
「昔会っているとして、それはどれくらい昔だろう」
わたしは幼稚園、小学校の記憶があいまいだ。校舎の形とか仲良かった友達とかそういうことはなんとなく覚えているけれど、そこであった出来事とか思い出とかは覚えていない。それに男の子の友達なんていただろうか。弟の友達かなにかだろうか。それならわかるけど、個別に覚えているわけではないし、なにより弟と同級生だったのならまだ高校生のはずだ。間宮さんは高校生にはとてもじゃないけど見えない。
「じゃあいつのことだろう」
幼稚園は違う。小学校も違う。だとしたら中学校か高校? でもそれくらいのときにも男の子の友達なんていた覚えがない。もっとも幼稚園から中学校にかけては同性の友達も少なかったわけだが。
家庭環境がよくなかったこともあり、わたしは今でも友達を作ることが苦手だ。誰かとうまくかかわることができない。それはもう呪いのようだと言ってもいいかもしれないし、単に性格がひねくれてしまったからかもしれないし。
とはいえいつまでもうまくいかないことを実家のせいにすることはできないし、したくもない。今はそれなりに努力をして莉々という友達やゼミでの友達もできたわけだし。
そういえば、以前間宮さんが話していた不審者の件はどうなっただろうか。今でもまだ大学内に不審な男が立ち入ったりしているのかな。最近はちゃんと間宮さんの言いつけを守って、少し遅めの時間に登校するようにしているし、人気のないところには近寄らないようにしているから、そう変な人には出会わない。
「むしろ間宮さんは大丈夫なのかな」
そんな危ない人がいる中で、一人きりでいる間宮さんに危険はないのだろうか。ああ、でも間宮さんはわたし以外の人の目には映らないから大丈夫か。
……って、なんかそれを当たり前みたいに思ってしまっているけれどそれはどうなんだろう。一定の個人にしか認知できない人なんていないはずなのに。そんな幽霊かなにかみたいな人がいるわけないのに、間宮さんについてはそういうものだと納得してしまっている自分がいる。それだけ間宮さんの存在に慣れてしまったということだろう。
天気予報を見ると明日は雨だ。また間宮さんに会える。間宮さんは手紙を書いてくれただろうか。それとも今まさに何を書くか悩んだりしているのだろうか。そう考えると心が軽くなった。
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