雨の中のきみ#33

そして昼休み。早めに昼食を終えて喫煙所に行くとそこにはちゃんと間宮さんがいた。

「間宮さん、さっきなんで消えたの?」

「言っただろ。俺は笹垣さんと話せればそれでいいと。笹垣さん以外の人と関わる気はないんだよ」

「そうだけど。でもさっきのはあまりに急じゃない」

「怒ったか?」

「少しね」

「それはすまない。だが大学の中にいるはずのないやつと、その大学の人間がかかわってもいいことなんてないだろ」

そうかもしれないけどさ。でももうちょっと視野を広げてくれてもいいんじゃなかろうか。わたししか選択肢がないなんて、許容範囲狭すぎるし。それに間宮さんがどういうつもりでそんななのか全然わからないし。

「ならなんでわたしはいいの?」

「笹垣さんは面白いから」

「それだけ?」

「それだけ」

その後間宮さんはなにも言わずに紫煙をくゆらせている。まあね。実のことを言えばわたしは少し安心してしまった。だって他の人が間宮さんと親しくなるのってなんか嫌だし。間宮さんとは一対一で付き合っていきたいし。

もしかして間宮さんも同じ気持ちなんだろうか。だから第三者が介入するのを嫌がって消えた。そこはちゃんと口で話して乗り切ってほしかったところだけど。

「間宮さん」

「なんだ」

「次からはもう少しうまいこと消えてね。そうしないと他の人を傷つける」

「そう、だな。それで笹垣さんを困らせるのも本意ではないしな。気を付ける」

反省してくれたのか、間宮さんは申し訳なさそうな顔をした。そう謝られてわたしがいつまでも怒っているのは大人げがないし、根本的なところではたぶん間宮さんと同じ気持ちなので、いいよ、と返事をする。

「今回は急なことだったし、間宮さんも驚いちゃったのだろうから仕方ないよ。わたしも迂闊に間宮さんのことは他の人に話さないようにするから、それで相子ということにしよう」

「そう言ってくれると助かる。俺には笹垣さんがいればそれでいいから」

だからそういうことをさらっと言わないでほしい。反応に困るから。それに間宮さんにはあこがれの人がいるのではなかったのだろうか。まさか莉々の言う通りその人がわたしということもあるまい。だからそういう言葉はその人のために取っておいてほしいのだ。

「間宮さんも大概女心がわかってないと思う」

「そうか? これでも笹垣さんに対しては細心の注意を払っているつもりだが」

「なら、わたしを最優先するみたいな言い方は止めてよね。傍に居たい人がいるのでしょう」

「それはそうなんだが。まあ、仕方ないか。そういえば俺はこの大学の図書館に通っているということになっていたな?」

間宮さんは肝心なところをぼかしつつ話を変える。これ以上この話をしてもどうしようもないからなのだろう。

「そうだよ。でも間宮さん図書館なんて行ったことないでしょ」

「ない。場所はわかるが近づいたことはない」

「なら今から行く? 時間あるし」

「それは遠慮しておく。俺はここにいる必要があるから。だから笹垣さんにお願いなんだが、図書館で面白そうな本を何冊か借りてきてくれないか? それをここで読んでいればさほど怪しまれまい」

それもそうか。でも間宮さんはわたし以外の人の目に映らないのだから、そんな偽装に意味はあるのだろうか。わたしと一緒に居る時に本を持っていれば学生らしく見えるとかそういうことなのかな。

「いろいろ疑問はあるけどいいよ。どんな本がいい?」

「そうだな……。笹垣さんは心理学科生だったな? ならそういう系統で初心者向けの本があったら貸してくれ」

「それなら図書館で借りるより、わたしが一年生のころに使ってた教科書を貸すけど」

「それでもいい。笹垣さんが本を探す手間も省けるしな。俺はそういう話はてんでわからないからわかりやすいものを頼む」

「わかった」

家に帰ったら本棚をあさってみよう。一年生の時のものならそう難しくない本があるはずだから。

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