雨の中のきみ#32

「ゼミの友達が間宮さんに会いたいって言ってた」

「俺の話したのか?」

「してない。わたしと間宮さんが話をしているところを見かけて、誰なのか聞かれた。だから江藤教授に説明したのと同じことを言っておいた」

知らず知らずのうちに言葉が冷たくなっていて申し訳ない。だってやっぱり面白くないし。そんなわたしを最初は不思議そうにしていた間宮さんだけど、次第に柔らかく微笑んだ。

「笹垣さん」

「ん?」

「俺はその子と話したくないな」

「え、なんで」

「笹垣さんと話せれば十分だから」

な、なにを言い出すんだこの人は! そういうことは憧れの人にでも言えばいいのに。わたしに言っても何のメリットもないというのに。わたわたしてしまって言葉が出てこない。

「笹垣さん?」

「な、なんでもない! その、ちょっと驚いただけだから」

「ならいいか。俺の言葉で笹垣さんが動揺しているというのは悪くない」

なんだそれは性格悪いぞ間宮さん。もしかしてやっぱり莉々の言う通り間宮さんはわたしに気があるのだろうか。いやまさか、そんな、ねえ。

「由依!」

「え?」

間宮さんとは違う声で呼ばれて振り返るとそこにはゼミの友達がいた。わたしと間宮さんが話しているのを目ざとく見つけてやってきたのだろう。このテンパっている時にタイミングが悪い。どうしたものだろうか。

「ねえ由依、その人が間宮さんだよね?」

「あ、うん。間宮さん、この子ゼミの……て、あれ?」

一応紹介しようと間宮さに振り替えるとそこには誰もいなかった。

「あれ?」

「今、ここに男の子いたよね? だから急いできたんだけど」

「うん、いた。いたはず。どこにいっちゃったんだろう?」

まるでそこには誰もいなかったかのように間宮さんの姿は見えない。よほどゼミの友達と話したくなかったのだろうか。だとしてもこの一瞬で消えるなんて何事だろう。

「由依、間宮さんにわたしのこと話した?」

「少しだけ。間宮さんと話したがってる子がいるってくらいだけど」

「なにか嫌われるようなことしちゃったのかなあ」

「そこまでの接触はないでしょ。間宮さんは人見知りするから気後れしちゃっただけじゃないかな」

そういうことにしておこう。さすがに友達がかわいそうだし。だってねえ。声をかけた途端消えるってどれだけ嫌なのよ。消え方も不思議だし。わたしにはそれっぽいことを言ってその場を取り繕うことしかできない。

「ま、しょうがないか。由依、次の授業なに? 行動心理学なら一緒に行かない?」

「行く行く。たしかブラックボックスとホワイトボックスの話の続きからだよね」

なんでもなかったかのように振舞う友達に、なんとなく申し訳ない気持ちになるが、わたしが謝ってもしょうがないので話に乗っかる。今日の天気は一日雨みたいだし、昼休みにでもまた話に来ればいいか。

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