雨の中のきみ#31

ある日のゼミ終了後、パソコンでその日のゼミの内容をまとめていると友達に声をかけられた。

「ねえねえ、由依がこの間話してた男の子って誰? 由依の彼氏?」

「彼氏? いないけどそんなの」

「じゃあ誰?」

誰って言われても心当たりなんか……あ、間宮さんか。

「ただの顔見知りだよ。大学の近くに住んでて。たまに図書館に本を読みに来てるの」

「なんでそんな人と知り合ったの?」

「図書館で困ってたから手を貸して、それ以来会えば雑談くらいはするようになっただけ」

「ふーん。それだけ?」

それだけってなんだ。多少、というか嘘なので答えに困る。それだけかということはそれ以外の何かを期待しているんだろうか。いや、なんとなくわかる。わかるけど答えたくないなあ。

「それだけだよ。彼氏どころか友達ですらないし」

あ、自分で言っていて悲しくなった。友達になりたいけどなれないしなあ。けどさ、しょうがないじゃん。友達って片方の希望だけでなるれるものじゃないし。お互いがそうなりたいと思わなくちゃなれないんだし。

「本当に? 隠してるとかじゃなくて?」

「本当に。ねえ、面白がってるでしょ」

「ばれた? ごめんね。男の子に興味なさそうな由依についに彼氏ができたのか! って嬉しくなっちゃって」

なんでそれで嬉しくなるのだ。ただ話題ができたから喜んでいるだけでしょうが。年頃の女の子とはえてしてそういうものだから、今まで気にもしていなかったけど、自分がその対象にされると面倒なものだ。だいたいわたしと間宮さんじゃ釣り合わないし。

「でもさ、彼氏じゃないならわたし、声かけてみようかな。名前教えてよ」

「……間宮さん」

「間宮さんね。オッケー、ありがとう。どういうときに大学にいるの?」

「そりゃ本が読みたくなったときじゃない?」

なんでわたしはまたここで微妙な嘘をついているのだろう。間宮さんに友達が増えるのはいいことだと思うのに、それを素直に喜べないのは何故。でもどこかで安心もしている。だって間宮さんは図書館にはいかないし、わたし以外の人目にはつかないし。だから友達がわたしの知らないところで間宮さんに接触するということはないのだ。

「間宮さんってかっこいいよね」

「そうだね、整ってはいるよね」

「由依の彼氏だと思ってあきらめてたけど、頑張ってアピールしてみる。応援してよね」

「はいはい」

アピール。そうかこの子は間宮さんに気があるのか。また、胸の中がもやっとした。なんていうかな。間宮さんがこの子と楽しそうに話しているところなんて見たくないな。それってなんでだろう。もしかして嫉妬という奴なのだろうか。

……わたしは思っているより間宮さんのことが好きなのかもしれない。他の人に取られるのが嫌だと思う程度には。子供じゃあるまいしなにを考えているんだろう。

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