雨の中のきみ#30
「まあ確かに由依は男前よね」
莉々が笑いながら言う。わたしそんなに男っぽいだろうか。一応お年頃の女の子なんですけど。
「だって気前いいし、早食いだし、からっとしてるし。あまりうじうじ悩まないでしょ。あとは気が利くし、誰にでも手を差し伸べるし」
「それ、普通のことでは。というか女性でもそうであってほしいです」
「早食いはどうかと思うけど。あんまり女々しくてもウザったいし、それでいいんじゃないの」
そういうことをはっきり言う莉々の方がよほど男前だと思うのはわたしだけだろうか。まあ、わたしも莉々も女々しいことはあまりしないかもしれない。泣かないし、言い訳しないし、落ち込まないし。案ずるより産むがやすしがわたしの座右の銘なのでとりあえずやってみるだけなんだけど。ダメだったら自省してリトライすればいいし、リトライできないことなら事前に検証と調査をできるだけすればいい。そういうところが理経脳で、男っぽいと言われる所以なのかもしれないけれど。
「莉々も大概あっさりしてるよね」
「そう? わたしは他人の悪口も言うし、噂話するし、嫌み言ったりするけど。あ、それは由依もか」
「そうだよ。わたしだって女の悪いところはしっかりある。結局さ、完全に女性な女性はいないし、男性な男性もいないんだよね」
「それはそうね」
こうやって一般論でまとめるところはわたしの癖だ。話を無難に着地させるという面ではいいところだろうし、雑にまとめるという面では悪いところだろう。
それはさておき。
「わたしが知りたいのは間宮さんの気持ちですよ」
「ああ、そういう話だっけ」
そういえば、と莉々が返す。そもそもを言えば男心の話から逸れていって、気が付いたらわたしと莉々の性格の話になっていたのだ。わたしが知りたいのは一般的な男の子の気持ちではなく、ピンポイントに間宮さんの気持ちである。でもそれを莉々に聞いて知っているわけがないんだよね。
「知るわけないでしょ。話したことないんだから。でもね、今回ばかりはわかる気がする」
「わかるの?」
「わかるよ。由依が悪い」
わたしが悪いのか。一体何がいけなかったのだろうか。しつこく友達になりたいと言ってしまったことだろうか。それとも間宮さんのことを根掘り葉掘り聞こうとしたことだろうか。
「簡単に好きとかいうところがダメなのよ」
「ダメなの?」
「ダメです。そんなこと言われたら男女問わず期待しちゃうでしょうが」
期待というのはつまり、恋愛感情的な面での話だろうか。そういう意味でわたしは間宮さんに期待させておいて、なのに友達として、と言って落胆させてしまったのだろうか。
「わかってるじゃん。そういうことよ。もしかして由依は間宮さんに恋愛感情がなくても、間宮さんは由依に対してそういう感情を持っているのかもね」
「ないってそれは。間宮さん、憧れの人が傍にいるって言ってたから」
「それ、由依のことじゃなくて?」
え? なんで? まさか本人に直接そういうことは言わないでしょ。間宮さんは思ったことを直接的に言うタイプではないし、わたしみたいなかわいくない女を好きになるとも思えない。
「いやー、ないんじゃないかな」
「なんでよ。だって間宮さん、由依としか接触してないんでしょ。だったら由依のことだって考えるのは自然だと思うけど」
「そうかなあ。そうだとしてもさ、今までそれっぽいことなにも言われてきてないよ」
「言われているのに由依が気付いてないだけていうのがありそうだけどね」
そういうこと、そういうこと? あったっけ、そんな発言。いまいち記憶にないんだけど。考えても思い出せない。だいたい間宮さんとの会話は実のない雑談が多いのだ。
「はー、間宮さんも報われないわね」
「だからそういうんじゃないんだって」
「わからないでしょうが。いい? 由依はもう少し考えなさい。あんまり男心を遊んでると痛い目見るからね」
痛い目って。それはつまり間宮さんを怒らせてしまったり嫌われてしまったりということだろうか。それは嫌だ。だったら軽率な発言をしないように気をつけないといけない。とりあえずは簡単に好きとか言わないようにするところから始めようか。
「わかった。好きって言わない。友達になってほしいことも言わない」
「うん、そうしなさい」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます