雨の中のきみ#27
さて、それでは具体的に間宮さんとどんな話をするか考えよう。
「生計の話だよね。普段は働いているのかな? でも雨の日だけ休みの仕事っていうのも思いつかないし。工事現場とか? 間宮さん細身だからそれはないかなあ」
それ以外に雨の日は休みの仕事ってなんだろう。カメハメハ大王じゃあるまいし、早々思いつかない。インターネットで調べてみると、土木業、プールの監視員、花火師などが出てくる。プールの監視員というのは一瞬ありそうな気がしたけれど、間宮さん色白だから違うかな。花火師なら手に火傷の跡がありそうだけどそういうこともない。土木業の線が濃厚だろうか。土木業の建設機械のオペレーターさんなんかもありそうだ。
でもな、と思う。
わたしは間宮さんがどのように生計を立てているかを知ってどうしたいのだろう。元々は間宮さんの正体を知りたかった。雨の日にだけ現れるのは何故なのかとか、わたし以外の人の目に留まらないのは何故なのかとか。そういう謎は職業を当てたらわかるのだろうか。
答えは半分わからなくて、半分はわかるかどうかわからないのだろう。職業がわかったところで人目に留まらない理由はわからない。残り半分の雨の日にだけ現れる理由は職業によるものかもしれないしそうじゃないかもしれないから、わかるかわからないかわからない。
「あんまり詮索するようなことしたくないのかもしれない」
莉々にはああ言ったけど、最近は正直、間宮さんの正体なんてわからなくてもいいのではないかと思い始めている。だって何者であろうが間宮さんは間宮さんだし。悪い人には見えないし。
もし間宮さんが悪い人だったらどうなるというのだろう。さらわれて殺されたり、売られたり、監禁されたりするのだろうか。ニュースではよくそういう話が出ている。でもそれらに対して現実感がないのはわたしが今まで何事もなく過ごしてきたからだろうか。いや、まったく平和だったかと言われればそうでもないのだけれど。
間宮さんにわたしを殺すメリットはあるだろうか。再びインターネットで検索をかける。検索ワードは『殺す 理由』。出てきたのは『人を殺しても何とも思わないサイコパスもしくは、人を殺すのが楽しくて堪らない快楽殺人者だから。』。……それはないとも言い切れない。だってそういう人々は普段はごく普通の一般人の顔をして生活をしている。下手な一般人より、よほど普通に生活をしていると犯罪心理学の授業で習ったような気がする。
では他の結果はどうか。『お金でしょう』。お金か。それは間宮さんがわたしを殺す理由にはならないな。だってわたしお金ないし。実家はもっとお金ないし。あとの結果は好き嫌いとか痴情のもつれとか、まあそんな感じ。今のところ間宮さんとわたしはもつれてないし、友好な関係を築けていると思っている。少なくともわたしは。
「あと考えられることはなんだろう」
実は間宮さんに恨まれていたとか。過去にわたしかわたしの実家の人々が間宮さんや間宮さんの家族、知り合いにひどいことをしていて、その復讐のために近づいたとか? それもないか。だって先に間宮さんに接触したのはわたしだし。復讐が理由なら間宮さんの方からわたしになにがしかの接触を図っていただろう。もちろんそうしようとしていたところにわたしかが先に接触しただけということはあるかもしれないけれど。
「とりあえず殺人云々は置いておいて、他になにかあるかな」
売られる? 監禁される?
売られるとしたら夜のお店とか臓器売買とか? 間宮さんそんなにお金に困っているのかなあ。そういうことをする人々の心理というものはよくわからないけど、基本的にはお金目当てだよね。
……いろいろ考えたけど、どれもこれも間宮さんには結びつかない。その理由はきっと。
「わたしが間宮さんを信じていたいからなんだろうな」
わたしは間宮さんが好きだ。だから悪いことをするような人だとは思いたくない。その感情はきっと莉々や江藤教授からしたら危機感がないということになるのだろう。もしかしたら間宮さんにもそう思われているかもしれない。だとしてもだ。誰かと仲良くなるって、誰が相手であったとしてもそういう危険をはらむものなのではないだろうか。危険を承知で仲良くなって、うまくいけば万々歳だし、失敗すれば最悪死ぬ。
「……あれ、世の中ってこんなに殺伐としてたっけ」
ここ日本だよね? 現代の平和な日本だよね? なんだってこんな危険な思考になっているんだろう。それもこれも莉々と江藤教授が心配性なのが原因だろう。わたしの方が危機感が足りていないということもあるのだろうけれど。
うーん、困ったなあ。たぶんわたしの間宮さんと仲良くなりたいという思いと、莉々たちの心配を受け入れるということは根本的に相容れないのではないだろうか。だから間を取って、間宮さんとは一定の距離を取って付き合う、というのがいいのだろうけど、今更過ぎる。今から距離を取ったら、確実に間宮さんは不審に思うだろう。悲しませてしまうかもしれないし、場合によっては姿を現してくれなくなるかもしれない。そんなのは嫌だ。だったら危険を承知で仲良くしたい。たとえそれが殺されるような結果になったとしても、それはわたしの自業自得だから別にいいのだ。わたしが死んで悲しむのは莉々くらいしかいないだろうし。
「わたし、薄情かな」
わたしになにかあったら嫌だと思う人たちのことを顧みないのは、薄情ではないのか。それに莉々以外にもわたしのことを案じてくれる人はいるのではないか。たとえば弟とか、ゼミの友達とか、バイト仲間とか。それ以外に付き合いがないから何とも言えないけれど。あー、祖母や叔母たちも心配してくれるかもしれない。でもそれらのことを気にしていては前に進めないこともあるのだ。石橋を叩いて歩くのも悪くないけれど、たまには突撃しないと得られないものもある。
だから。
わたしはわたしの勘を信じて間宮さんと仲良くなろう。
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