雨の中のきみ#26

「甘味トーク……」

「そう、甘味トーク」

「それで間宮さんのなにがわかったわけ?」

「間宮さんの食の好みとチョコレートに対するこだわり」

莉々があきれ顔をしている。みなまで言うな。言いたいことはわかっているし、わたしとて同じ気持ちなのだ。本当に聞き出したかったことは間宮さんの正体に関することなのだけれど、その手のことは全く聞けなかった。話の持っていき方を失敗したのだろう。次はもうちょい考えていかなくてはいけない。

「でも食べ物に対する好みがあるってことは、やっぱり普段は普通の生活をしてるってことよね。少なくともそれがわかったんだから収穫なんじゃない」

おお、莉々がいいこと言った。確かにそうだ。わたしはそこまで頭が回らなかったけれど、第三者である莉々になら見えることもあるということだろう。ならば次に話す内容も莉々に相談して決めればいいかもしれない。

「どういう話の持っていき方をすれば間宮さんの正体がわかるかなあ」

「正体っていうと曖昧だから、もう少し限定したら? 例えばどこに住んでいるのかとか、普段なにをして生計を立てているのかとか」

「それだ。生計云々の話であれば、わたしがバイトで生計を立てているっていう話から持っていけるかもしれない」

「いいんじゃん。まあでも、あまり深く追求すると嫌がられるかもしれないからほどほどにね」

それはそうだ。気をつけないと、ついついあれこれ聞きたくなってしまうから注意が必要だね。具体的にどういう話し方をするかは自分で考えよう。なんだかんだ言って莉々は間宮さんと会話したことがないわけだし、彼のことを一番わかっているのはわたしなのだ。一番って言うと語弊が出るので言い直すと、わたしの仲間内で、である。そもそも間宮さんのことを知っているというか認識しているのは莉々と江藤教授だけなのでその範囲は恐ろしく狭いのだけど。

「にしても由依は間宮さん好きよねー」

「好きだよ。話してると楽しいもん。あ、もちろん莉々も好きだよ。愛してる」

「はいはい、ありがとう。それだけ間宮さんが好きで恋じゃないっていうのはすごいと思う。どこぞの恋愛脳な人々に聞かせてやりたいくらい」

「自分でも不思議なんだけどね。前に莉々が言ってたけどさあ、間宮さんに性欲わかないし、触れたいとも思わないし。ただ一緒に居たいだけなんだよ」

「それってプラトニックな愛とは違うの?」

ぷらとにっく? 純粋に精神的って意味だっけか。精神的な愛なのかなあ。確かにわたしは気が付いたら間宮さん大好きな人間になっているけれど。でもそう言われればそのような気もしてくる。

「でもプラトニックって単語、死語じゃない? 莉々よくそんな単語知ってたね」

「由依だって知ってるでしょうが。今の由依を指し示すのに他にいい言葉が思いつかなかったの」

「そうだねえ。プラトニックな愛かどうかと言われるとちょっと自分でもわからないなあ。友愛とプラトニックな愛ってなにが違うの?」

「異性として好きか、友達として好きかの違いじゃないの」

そう言われるとどうなのだろう。別にわたしは間宮さんを彼氏に欲しいわけではない。異性が好きなのではなく間宮さんが好きなのだ。だからたぶん違うのだろう。もちろん間宮さんは男の人であって、それはわかっているけど、異性という感じはしない。安全パイとかそういうわけでもないのだけれど。

「もし間宮さんに襲われでもしたらどうするのよ」

「間宮さん、そんなことしないよ」

「もしもの話。襲われないまでも頭撫でられたりキスされたりいろいろあるんじゃないの」

「そんなことされたら……、どうするかなあ」

ただただびっくりするだけな気がする。間宮さんは草食っぽいからそういうことしなさそうだし。それでもそういうことをされたら。驚いてどうしていいかわからなくなって、ひとしきり驚いた後になかったことにしてしまいそうだ。それはそれで間宮さんに失礼なのだけど。

「由依が間宮さんのことを異性として見ていなくても、間宮さんがどう思っているかはわからないでしょう」

「それはそうだね。考えたこともなかったけど。間宮さんもそういうこと考えるのかなあ。考えないことないか。男の子だもんね」

「そうだよ。だから由依はもう少し警戒心を抱きなさい」

ああ、話はそこに落ち着くのか。莉々はたぶんわたしのことを本気で心配してくれていると同時に、間宮さんに対してあまりいい感情を持っていないのだろう。話したこともないし当然と言えば当然だろう。でも逆に話したことがないとそこまで警戒するものなのだろうか。

「莉々は間宮さんに対して警戒しすぎじゃない?」

「話したことなくて、正体不明で、自分のことを碌に話さないような人がいたら警戒して当然だと思うけど」

「まあ、そうね。相手のことをよく知らなければ不安にもなるか。それこそ一度話してみればいいのに」

「わたしには由依と一緒の時じゃないと見つけられないもの。わざわざ二人で声かける? それに由依は間宮さんと二人きりで話したいんじゃないの」

それはどうだろう? 間宮さんと莉々と三人で会話。……確かにあまりイメージわかないな。やっぱり間宮さんとは二人でのんびり話す方がいいかもしれない。最近では間宮さんと二人で過ごすことに慣れきってしまったからあまり感じないけど、もともと間宮さんは知らない人に警戒心を抱く人だ。最初に話した時なんて警戒心丸出しの猫のようだったし。だったら無理に莉々を混ぜて間宮さんを困らせるようなことはしない方がいいだろう。

「莉々の言う通りだ。間宮さんは人見知りしそうだし莉々もそこまで間宮さんに興味ないだろうし、二人を引き合わせるのはやめておく」

「それが正解でしょうね。友達の友達って友達じゃないから」

「うん。わたしはわたしで間宮さんとの時間を大事にするよ」

後どれだけの時間を間宮さんと過ごせるかわからない。だったら一緒に居られるだけ一緒に居て間宮さんにわたしのことをきっちり覚えておいてもらわないとね。

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