雨の中のきみ#25

数日後。ようやくわたしの住む地域が梅雨入りした。よし、これで毎日間宮さんに会える。張り切って大学に行くと、いつもの場所に間宮さんはちゃんといてくれた。

「おはよう、間宮さん」

「おはよう、笹垣さん」

「間宮さんは朝早くから学校にいるけど、家近いの?」

質問があるなら、まず自分から話そうと決めたものの、いきなり自分の話をするのも変なのでとりあえずなんでもない質問から入ってみる。そこから徐々に自分の話をしていく作戦なのだ。

「近いと言えば近いかな。笹垣さんも朝早いけど近いの?」

「近いよ。電車で三駅。三十分くらいかな。一人暮らししてるのは前に言ったよね。大学に入るタイミングで一人暮らしを始めたから、大学に近い場所にしたんだ」

「そういえばそんなことも言ってたな。じゃあ家事とか全部自分でやってるんだ」

よし、いい感じに間宮さんが食いついてきてくれた。この調子でわたしに関する情報を流して、なんとなく間宮さんも話した方がいいのかなっていう流れに持っていこう。我ながらせこい手段だが他に方法が思いつかないのだから仕方あるまい。

「そうだよ。実家にいた時から家事は一通りできたから、今でもそんなに困ってないんだ。掃除はちょっと苦手だけど、料理と洗濯は好き。あとベランダで家庭菜園してるんだ。と言っても唐辛子育ててるだけだけどね」

「唐辛子? 辛いの好きなんだ」

「好き好き。ラー油と山葵とタバスコは常備してる。カレーとかも辛口が好きだな。間宮さんは? 辛党とか甘党とかある?」

なんか途中、家庭的なわたしアピールみたいになったけど、決してそんなつもりはないので聞き流していただきたい。単に母が家事が苦手な人だったから自分でやらざるを得なかっただけである。それに自然な流れで間宮さんに食べ物の好き嫌いを聞けたから結果オーライだろう。

「あまり辛すぎるものは好きじゃないな。甘いのは好きだ。チョコレートとか金平糖とかな。甘いのは好きか?」

「好きだよ。わたしもチョコレート好き。全食べ物の中で二番目に好き」

「一番と三番は?」

「一番はあん肝で、三番はほうとう」

「……渋い好みだな」

それは言わないでほしい。自分でもおっさん趣味だなとは思うけど、好きなものは好きなのだ。にしても間宮さんは甘党なのか。なんかちょっとかわいいかもしれない。甘いものが好きな人に悪い人はいないっているしね。

「じゃあ間宮さんの好きな食べ物ベストスリーをどうぞ」

「……そうだな。三位が生クリームで、二位があんこで、一位がチョコレートだ」

わあ、本当に甘いもの好きなんですね。三位と二位はまさかそのまま食べるとか言わないですよね? 発言が意外すぎて思わず敬語になる。だって外見は背が高くて男っぽいのに、好物は甘いものですよ。かわいいじゃないですか。

「甘党ですね。じゃあお汁粉とかも好き?」

「好きだ。お汁粉は好きだ。あと饅頭と団子と大福も好きだ」

「お汁粉はたまに作るんだ。簡単だしおいしいしお腹膨れるし」

「あんこから炊くのか?」

「まさか。炊いてあるあんこが売ってるからそれを溶くだけだよ。水じゃなくて豆乳で作ると味がまろやかになっておいしい」

……まさか間宮さんとあんこトークをするとは思わなかった。予想外の食いつきだ。なんだ、最初からこういう話し方をすればよかったのだ。やっぱり一方的に聞き出そうっていうのはよくないよね。その後も穏やかな甘味トークが続く。

「チョコレートのカカオ99%はちょっと食べるの大変だったよね」

「あれはチョコレートじゃない。別のなにかだ。甘くないチョコレートなど俺は認めない」

「あはは、だよね。カカオ何パーセントくらいが好き?」

「55%くらい。それくらいじゃないと甘さを感じない」

「それくらいなら確かにチョコレートって感じするものね。ザッハトルテとフォンダンショコラならどっちが好き?」

「ザッハトルテだな。あのチョコレート感が好きだ」

とまあこんな感じで会話が続くのである。結局その日聞き出せたのは間宮さんが無類のチョコ好きであるということくらいだった。

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