雨の中のきみ#24

最近はあまり雨が降らない。そのせいで間宮さんに会えない。寂しいことこの上ないけど仕方ない。仕方、ないのかな。そろそろなんで雨の日にしか現れないのかを聞いてみてもいいのかもしれない。前に聞いたかもしれないけど、その明確な答えはもらっていないわけだし。

大学で、いつも間宮さんがいる喫煙所を眺める。当然のように誰もいない。そういえばここの喫煙所で間宮さん以外の人が煙草吸っているのは見たことないな。構内の入り口にあるから人通りが多くて吸いづらいのだろうか。それにこんな目立つところで煙草を吸っている人がいたら誰かしら気にしてもよさそうなものだけど。

雨の日にしか現れない。

誰の目にも止まらない。

まるでおとぎ話に出てきた妖怪のようだ。雨の日にしか現れない妖怪ってなんだっけ。雨ふらしとか雨女とか? いやそれは雨が降る前に、雨を降らせようとしてでてくる妖怪か。別段妖怪に詳しいわけじゃないからそれ以上のことはわからない。

そういえば間宮さんは雨の日に現れるけど濡れているところは見たことないな。それに傘も持っていない。ていうか手ぶらだ。お財布と鍵と煙草をポケットに突っ込んで家を出てきました、っていう格好をしている。だからたぶん近隣住民なのだろう。でも男の人って結構ラフな格好で移動したりするからわからないかな。

いろいろとわからないことだらけだけど、最近は間宮さんに恐怖を覚えることも少なくなってきた。以前は間宮さんお化け説とか、わたし以外の人に認知されないこととかで、怖いなって思ってしまうこともあったけど。

麻痺してきているのかもしれないし、諦めているのかもしれないし、信用しているのかもしれない。きっと信用しているのだろう。間宮さんとあれこれ話してみた結果、悪い人ではないとわかっているわけだし。だったらわたしに出来ることはいつか話してくれると信じて待つだけだ。それは明日かもしれないし、来年かもしれない。もしかしたらそんな時は永遠に来ないのかもしれないけれど。

考えてみれば間宮さんはわたしのことをどれだけ知っているのだろうか。名前と学年と所属ゼミは最初に話したけど、それ以上のことは言ってないのではないか。失敗した。自分のことも話さずに相手のことだけを聞こうだなんてムシがよすぎる。今度会ったらわたしのことを話そう。それから間宮さんにいろいろ聞いてみよう。

でも雨の日はなかなか来ない。もうすぐ梅雨入りするだろうから、そうしたら毎日会えるようになるだろうか。間宮さんは携帯電話を持っていないから連絡を取ることもできない。会いたい人に会いたいということすら伝えられないのがこんなにも辛いとは思わなかった。この行き場のない感情をどこにぶつければいいのか。

莉々には散々間宮さんの話をしているからこれ以上話したらウザがられてしまいそうだし、ゼミの友達にはそもそも間宮さんの話をしていないから、いまさら言うのも難だし。それに話したら色恋沙汰方面に話を持っていかれてしまいそうで、正直面倒だと思う。そういう話じゃないのだ。純粋にお友達として関わっていきたいのだ。でも恋する乙女なお年頃の女性陣にそういう話をしても無駄だろうとわかっている。わたしが友達からそういう話をされたら、きっと恋なのかな? って思ってしまうだろうし。

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