雨の中のきみ#23
ある日、莉々と映画を観に出かけた。と言っても見る映画は別々である。わたしと莉々は映画の趣味が合わない。莉々はアメリカンなアクション物が好きで、わたしはアニメか恋愛ものが好きなのだ。一緒に行く意味はまったくないが、その後ごはんを食べたり買い物をしたりするので一緒に出掛ける。
「由依の方の映画どうだった?」
「泣けた。親子愛が感動的でね、偉大なお父さんの影を追う主人公が頑張ってるんだけど報われなくて、でも最後にお父さんから『お前は俺の息子だから』って言われてて、そこで泣いた」
「いい話じゃん。こっちもよかったよ。アクションが派手で見てて興奮した。内容はよくある地球が侵略されそうになって主人公が不思議な力に目覚めて戦って、最後はヒロインとキスして終わりなんだけど、演出がよかったなあ」
「演出がいい映画って見ていて楽しいよね。ごはん行こうか」
映画館に併設しているショッピングモールでお昼ごはんを食べられそうな場所を探す。ちょうどいいイタリアンがあったのでそこにした。そこでも互いの映画の感想を言い合ったり、噂話をしたりとだらだら過ごす。こういうのを間宮さんとしてみたいんだけどな。でも友達じゃないって言われてしまったから難しいだろうか。
「ねえ、莉々。友達になるのに必要な条件ってなんだと思う?」
「気が合うとか趣味が合うとか性格が合うとかじゃないの。なにをいきなり」
「この間、間宮さんにわたしと間宮さんが友達かどうか聞いたら、友達になるのに必要なことが欠けているから友達じゃないって言われた」
「それがなんだかは聞けなかったの?」
「聞いたけど、今は言えないって教えてくれなかった」
本当になにが足りないのだろう。莉々は難しい顔をして黙り込んでしまったし、自分で考えるしかないのだろうか。間宮さんもわたし自身に気づいてほしいって言っていたしなあ。
「由依はさ、そこまでして間宮さんと友達になりたい?」
「なりたいよ」
「なんで?」
「間宮さんと一緒に居ると落ち着くから」
それが何でなのかはわからないのだけど。それでも一緒に居たいものは居たいのだ。たぶんそこに深い理由はないと思う。間宮さんの雰囲気とか気配とかそういうものに惹かれているのだろう。
「それならしょうがないか。そういうのって感覚だからねえ」
「そうなんだよ。言葉じゃうまく言い表せない」
「この間も言ったけどさ、言い表さなくていいんじゃない。それがちゃんと由依の中にあって、大事なものならそれでいいんだよ」
莉々はあっさりと引き下がる。きっとなにを言ってもわたしの意思は変わらないとわかっているからなのだろう。この先どうやって間宮さんと仲良くなっていくかなんて決めていないけれど、友達になりたいという願いだけはぶれずに大事に持っておこう。
「じゃ、買い物行きますか」
「うん、莉々はなに見たい?」
「サンダルとルームウェア」
「なら二階のレディースファッションコーナーかな」
二人でお店を出て移動する。適当に靴屋さんやルームウェアのお店を冷やかしながらぶらぶらしてたわいもないことをしゃべる。こういうとき莉々との外出は気楽だ。歩く速度が一緒だし、服の趣味も合う。たまに無言になってもそれが息苦しくない。ちょいちょい買い物をしてカフェでお茶をして、やっぱり雑談をする。
莉々との会話はキャッチボールというより手渡しだ。距離が近いから投げたら痛いし。
じゃあ間宮さんとの会話はどうだろうか。中距離のキャッチボールかな。でも時々ボールじゃないものが飛んでくるので受け取り方に悩む。あとこっちが投げても躱される時がある。受け取ってもらえない言葉はどこか遠くに転がって行ってしまって、行方不明で、探して見つかる時もあれば、見つからない時もある。どうして受け取ってもらえないのか悩むこともあるけれど、たぶんそれは間宮さんにとって受け取ることのできない、投げ返すことのできないものだったのだろう。わたしとて投げられる言葉のすべてを受け取って投げ返すわけではないから、一概に間宮さんを責めることはできない。でもできれば、もう少し返球率を上げてほしい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます