雨の中のきみ#20

「間宮さんも大概不審者だと思うけど」

莉々にまでそう言われてしまった。まあ、そうだよね。うちの大学関係者でもない人が、雨の日だけ大学内にいるというのはあやしいものだ。

「そうなんだけどさ。でもわたしは間宮さんのこと疑いたくない」

「なんでそこまで間宮さんを信用しているの?」

なんでって……。彼と居ると安心するからだ。でもそれって詐欺師の常とう手段でもある。最初は安心させておいて徐々に搾り取って最後はとんずらする。よくある手口だ。

「間宮さんは不審だけど危ない人ではないと思う。だってただ話してるだけでわたしのこと心配してくれるし気遣ってくれるし、お金を請求されたこともないし」

「今はまだね。あんまり肩入れしない方がいいよ。これからも付き合いたいなら一定の距離を置いた方がいい。少なくとも間宮さんが何者かわかるまでは」

莉々の言うことももっともではある。確かに、そうなんだけどさ。それでも間宮さんのことは疑いたくないなあ。疑いたくないというよりは信じていたいな。間宮さんにはわたししかいない。他の人とのかかわりがないのであれば、なおさらわたしだけは信じていたい。

「由依は好き嫌いがはっきりしてるからね。嫌いな人はとことん遠ざけるけど、好きな人にはとことん甘いっていうか」

「間宮さんが悪い人には見えないもの。妄信してるわけじゃないけどさ。でもまあ莉々の言うことだから気を付ける」

「そうして。大学の外では会わないこと、家に入れないこと、過剰な連絡もしないこと」

莉々はわたしのお母さんかなにかなのだろうか。でもそこまで心配してくれている莉々の言葉を無下にするわけにもいかない。間宮さんが何者かわからなくて、しかもわたし以外の人には、わたしが一緒に居る時以外は認識できていないらしいのも事実なのだから。

「にしても不審者か。それってもしかして学生の親戚だったりとかしないよね?」

「親戚か。それはありえるかも」

一瞬わたしの両親のことが頭をよぎった。まさか、ね。うちの親が大学までわたしを探しに来るとは思えない。あれだけ見栄を張りたがるのだから、人目のあるところで問題は起こさないだろう。

「なんにせよ一人で出歩かないことが一番だと思う。莉々も気をつけなよ。放っておくとすぐ単独行動するんだから」

「だって集団で動くの疲れるし効率悪いんだもん。大丈夫よ、由依みたいに早朝一人で大学の中うろついたりしないから」

「早朝は間宮さんが一緒に居るから大丈夫。日中は人目があるし夜は莉々かゼミの友達が一緒だし」

そう考えるとわたしが一人でいる時って少ないな。移動時間くらいのもので、あとは誰かしらと一緒に居る。でもだからって油断はしない。


考えることは二点。

間宮さんの素性を確認すること。

江藤教授が間宮さんを不審に思っていることを解決すること。

さて、どこから手を付けようか。

間宮さんの素性に関していえばわたし個人はあまり気にしていない。大学の近隣住民だろうし話していればわかる通り普通の男の子だ。

問題は江藤教授が間宮さんを不審がっていることだ。これは間宮さんの素性にもつながる。そもそもわたしがきちんと確認していないから、江藤教授の誤解を解くこともできない。

まず間宮さんにそのことを伝えようかどうしようか。伝えたところで間宮さんを困らせてしまうだけではないのか。それはわたしの本意ではない。それで間宮さんが大学に来なくなってしまってはわたしが寂しいから嫌だ。でもそれで間宮さんに注意喚起をすることができるならその方がいいのかもしれない。

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