雨の中のきみ#19

「江藤先生、いま少しお時間よろしいですか」

「なんですか、新垣さん」

ゼミ終了後、江藤教授を捕まえて不審者の話をする。なんとなく間宮さんの存在については黙っていた方がいい気がしたので、自分がそういう人を見かけたのだという言い方にした。

「不審者ですか。それは気にした方がいいですね。わかりました。教えてくれてありがとう。学生課に話をしておきましょう」

「お願いします。江藤先生もお気を付けください」

江藤教授は真面目に話を聞いてくれて、きちんと取り合ってくれた。そういうところが江藤教授のいいところだ。しかし江藤教授はふとこちらを向いて思いがけないことを言ってきた。

「ところで笹垣さんがよく話している長身の男性は誰ですか? 彼もうちの大学の人間ではないですよね?」

「え? いえ、えっとその、わたしも詳しくは知らないんです。時々鉢合わせるから会話しているだけで……。うちの大学の生徒ではないのですか?」

「違うと思いますよ。どの授業でも見かけませんし、笹垣さんと会話をしている以外で姿を見かけたことがありませんから。そこまで親しくないなら構いませんが、一定以上に仲良くなるのであれば、相手の素性はきちんと確認しなさい。世の中なにがあるかわからないのですから」

それだけ言うと江藤教授は学生課に行くと言って部屋を出て行ってしまった。そりゃまあそうだよね。江藤教授からしたら間宮さんも立派な不審者だ。間宮さんに対して危機感を持たないわたしがどうかしているのだろう。

そして江藤教授は莉々と同じことを言っていた。

『笹垣さんと会話をしている以外で姿を見かけたことがありませんから。』

それってつまりどういうことかというと、やっぱり間宮さんはわたしにしか見えない幽霊で、わたしと接触している時だけ他の人にも認識できるとか、いやいやいや、それどこのオカルト小説よ!

「由依、江藤教授となに話してたの?」

悩みながら自席に戻ると、ゼミの友達が声をかけてきた。そこで悩むのをいったん止めて、江藤教授に話したのと同じ、不審者の話をする。うちのゼミは女の子が九割なので、みんなに話して注意喚起をしておいた方がいいだろう。

「不審者かあ。うちの大学にもそんな人いるんだ」

「夜は早めに帰った方がいいかもね。あとできるだけ単独行動しないようにしないと」

「うちの大学、茂みが多いからそこに隠れられたらわかんないしね」

等々、みんなそれなりに危機感を持ってくれたようだ。友達になにかあったら嫌だものね。各自が自分で防衛をしてくれるのならそれでいい。あ、間宮さんもそう思ってわたしに話してくれたのかな。だったら彼の言葉には従うとしよう。江藤教授が彼のことを不審に思っているというのは気になるが、それについてはおいおい対策を考えなくては。

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