雨の中のきみ#17

「おはよう莉々」

「おはよう由依」

大学について教室に行くと先に莉々が席についていた。挨拶を交わして隣に座ると、その席からはいつも間宮さんが立っている構内の入り口が見えた。といっても今日は晴天なので間宮さんはいない。

「由依、次の授業の予習してきた?」

「統計学? 多少ね。確か尺度水準の話だったと思うけど」

「しゃくどすいじゅん?」

「尺度水準。データの尺度をどのように分類するかって話」

「難しいかな」

「そうでもないと思う」

純粋な成績だけでいえばわたしより莉々の方が成績がいい。莉々は授業中にきっちり話を聞いて理解するタイプで、わたしは予習復習はきっちりやるけど授業中は寝ているタイプだ。そりゃ莉々の方が成績がいいのは当然だろう。高校生の時から試験前は莉々のノートに頼りっぱなしのわたしである。そのかわり、実技や実習はわたしのほうが成績がいいのでちょいちょい莉々の手伝いをする。たぶんわたしは考えながら手を動かすのが得意なのだろう。そういう意味で今の引越し屋のバイトは性にあっている。

「莉々はさ、愛情と友情の違いってわかる?」

「性欲が伴うか伴わないか」

「わあ簡潔」

まったくもってわかりやすい説明である。そうか最初からそう考えればよかったのか。そういう意味で言えばわたしは間宮さんに対して性欲を抱いていないから愛情ではないと言える。うん、明瞭快活わかりやすい。

「でも幼いころの恋だったりとか、年配になってからの恋もあるから一概にそうとは言い切れないけど」

「う、そうね。話が振出しに戻った」

「何の話?」

「わたしと間宮さんの話」

「ああ、それ」

莉々にわたしが間宮さんに抱いているのは友情で会って愛情ではないこと、でもそれをうまく言葉で表せないことを説明する。

「それ言葉にしようとするからわからないんじゃないの」

「でも言葉にしないと曖昧にならない?」

「曖昧じゃダメなの?」

言われてみればそうだ。別に明確に分類する必要なんてないのかもしれない。

「……最初に恋じゃないかって言ったの莉々じゃん」

「そうだけど。由依があまりにも熱心に間宮さん間宮さん言ってるから好きなのかと思って言っただけだよ。別に恋じゃなくてもいいし、友情じゃなくてもいいし、両方でも構わないし」

そう言われるとそんな気がする。気持ちにラベリングする必要なんてないんだよね。わたしは間宮さんの隣に居たい。間宮さんはそれを許してくれている。それだけで十分ではないか。この先どこまでそれが続くかわからないけれど、そういう関係があってもいいのだから、そのまま続けていこうと思う。

「あ、先生きた」

「じゃあ授業受けますか」

「由依は寝てるだけじゃん……」

「睡眠学習なんですよ」

一応寝ないで頑張ろうとは思っている。思っているだけでそれが成功したことがないだけだ。

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