雨の中のきみ#5


「へえ、仲良くなったんだ」

「うん、まだ挨拶するくらいだけどね」

「名前聞いた?」

「聞いた。間宮月夜さん。綺麗な名前だよね」

間宮さんと話した後、学食で莉々と落ち合う。早速間宮さんのことを報告すると莉々は驚いた様子も見せず、話を聞いてくれた。間宮さんのことでわかったことは少ないけれど、それでも一歩近づけたことは嬉しいことだ。

「由依はさあ、間宮さんと仲良くなってどうしたいの?」

「別にどうもしたくないよ。普通にしゃべって並んで歩いてみたいだけ」

「それが難しそうに聞こえるんだけど。結局何者なのかはわからないんでしょ」

そうなのだけどね。それでもいいと思うのだ。一過性の仲だとしても、お互いの記憶に残ればそれでいい。間宮さんは少なくともわたしのことを個人として認識してくれて、名前を憶えてくれた。だから今はそれで十分なのだ。欲張りになるのはまた後でいい。

「いつまで無欲でいられるのやら。ま、今の段階であまりがっつくのもよくないか」

「そうそう。間宮さんって猫みたいだから執拗に近づくと逃げられちゃいそうだしさ」

「あー、聞いてるとそんな感じするかも。ほどほどにね」

「うん、そうする」

三限の授業は莉々と一緒なのでそのまま一緒に移動する。今日はもう間宮さんと会うことはできないだろう。次に雨が降るのはいつになるだろうか。それを心待ちにしている自分がいた。

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