雨の中のきみ#4

「間宮さん」

「こんにちは、笹垣さん」

予告通り一限を終えて構内の入り口に行くと、間宮さんはちゃんとそこにいてくれた。もしかしてわたしを待っていてくれたのだろうか。そうだとしたらすごく嬉しい。思わず頬が緩む。さて、間宮さんになにを聞いてみよう。今朝の感じからすると聞いても逆に質問を返されてしまいそうな気もするのだけれど。

「間宮さんは学生なんですか?」

「そうとも言えるし、そうじゃないとも言える。学校に通っているのが学生ならきっとそうなんだろうね」

間宮さんは難しいことを言う。なにも学校に通っている人すべてが学生ってわけじゃない。先生や事務員さん、掃除の人だっている。結局間宮さんが何者なのかはわからないままだ。

「笹垣さんは学生さん?」

「そうです。心理学科の三年生です。江藤教授のゼミに入っているんですよ」

「ああ、あの穏やかそうな人。大学楽しい?」

「はい楽しいです。知らないことが沢山あって、それを一つずつ知っていくのって好きです。間宮さんはなにを専攻しているんですか?」

「笹垣さん」

「はい?」

「敬語じゃなくていいよ。年近いし」

「では普通に話します。間宮さんはいくつなの?」

「うん、それでいい」

そして間宮さんはすうっと煙草を吸う。いろいろ話してくれるようになったのは嬉しい。嬉しいんだけど、こちらの質問はいつもはぐらかされてしまう。聞きたいことが沢山あるのに、知りたいことが沢山あるのに、それらが全てふわっと霧散していくようだ。

近くで見るとやはり間宮さんは背が高い。元から180センチ以上だろうと目星はつけていたけれど、身長150センチのわたしが横に並ぶとますます大きく感じられる。見上げる首は痛いけど、それでも隣に並んでいたいと思うのはたぶん間宮さんだからなのだろう。

「笹垣さんはさ」

「うん?」

「友達いるの?」

「いるよ。望月莉々っていう高校からの友達とか、ゼミの友達とかいる」

「なのに俺とも友達になりたいと思った」

「思った。理由はさっき言った通りそんなに深くない」

友達なんてそんなものだと思う。なんとなく仲良くなって、なんとなく一緒に過ごすようになって、気が付いたら並んで歩いているものだ。もちろん相手を不快にさせないように努力はするし、気も遣う、互いに居心地のいい関係でいられるように頑張るのだ。

「あー、そうか」

 「笹垣さん?」

 「たぶん間宮さんと一緒に居たら居心地がよさそうに見えたんだと思う」

 「居心地?」

 「そう。一緒に居たら穏やかな気持ちで、ずっと笑顔でいられそうだから間宮さんと友達になりたかったんじゃないかなあ」

 間宮さんにこの感覚は伝わるだろうか。誰かと一緒に居たくて、それは誰でもいいわけじゃないっていう気持ち。愛とか恋とかじゃなくて親愛とか友愛とかそういうの。

 「俺にはわからないな」

 「そっか」

それは残念だけど、その気持ちを押し付ける気はない。まあなんとなく一緒に居られればそれでいいのだ。これから徐々に仲良くなっていこう。

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