2.紅葉の昔話
昔から、こくりのには鬼がよーけおったんやって。
昔って言うても、百年とか二百年やなくて、ここに人が住むずーっと前からな。山とか森とか、川があるやろ。そこの暗がりに、鬼とか神様とか化け物とか、とにかくそういう、何かよく分からん不思議なもんがゴソゴソ、いっぱいおったんやって。
ほんで、そん中で一番大きくて、一番偉かったんが、スクナ様やったん。
スクナ様はな、大きな体に、角を二本生やして、眼が四つもあって、口は耳元まで裂けとったんやって。耳も大きかったってひいばあちゃん言うてたし、イヌみたいな顔なんかなあ。布に穴開けて頭から通すような簡単な服を着て、森の中に一人、棲んどったんやって。
で、ものすごく強かったん。腕の一撃で山を削り取り、足を踏み鳴らすと湖が涸れる、ってばあちゃん言うてたけど、ホンマかな。せやけど、スクナ様はめっちゃ素直で、優しかったんやって。
ほんで、人間がここらに住むようになってからは、スクナ様が守ってくれとったん。暗がりに潜む悪い鬼が暴れたりせんよう、スクナ様が睨んどったんやな。
まー守るって言うても、スクナ様は別に人間に興味はないから、勝手に人間が、力のあるスクナ様の山の近くに住んどった、ってだけなんやけど。ホンマにスクナ様に会うたことのある人は、実は誰もおらんだん。それでも、人間はスクナ様に感謝して、お祀りするお社を建てたりしたんな。それが、このお寺の一番最初の始まり。
せやけど、その~、ヘイアン時代? ぐらいになって、だんだん人間の生き方がややこしくなってくるやろ。偉い人が弱い人を使うようになったり、人と人との繋がりも増えたり、町も大きくなったり。それから、仏教が広まっていって。
そしたら、人が発する悪い「気」がこの世の中に充ちるようになって、今までにない新しい悪い鬼、強い鬼がいっぱい出てくるようになったんな。
そんで、村や町の中にも、鬼がうろつくようになって。スクナ様は元々、自分から人間を守ろうとしてなかったから、そんなことになっても、気にせぇへんやん。新しい鬼はそれをええことに、好き勝手して、人を殺したりし始めたんやて。
そこで現れたんが、「行者様」なん。
この賀茂寺でお祀りしてる、偉い人。行者様が、うちのお寺のご先祖様に力を授けてくれたんやって。この力のおかげで、ご先祖様は悪い鬼と戦うことが出来るようになったんて。それ以来、ウチでは行者様をお祀りするようになって、ウチの名字も行者様からいただいたものらしいよ。
で、うちのご先祖様は、そうやって悪い鬼を退治して封印しとったんやけど、あるとき、どうしても倒せへん、ものすごく大きくて悪い鬼が現れたんやって。どこから出てきたんか分からん、見たこともないような恐ろしい鬼で、手当たり次第に人を捕まえては、身体を引き千切って、食べては捨てとったんやって。怖いなー。
そうするうちに、その辺の町角にバラバラになった人が落ちてるような状態になって、それと一緒に悪い「気」も広がって、病気で死ぬ人や、頭がおかしくなってしまう人も増えたんやって。しまいには人と人とが殺し合うようにもなって、大変なことになってしもたん。
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