3.紅葉の昔話、続き
ご先祖様は一生懸命その鬼を倒そうとしたんやけど、鬼はどんどん大きく、強くなっていったから、どうしても退治することが出来やんだんやって。でも、その頃にはもう行者様は旅立たれて、こくりのにはおらんようになっとったし、他に助けてくれる人もおらんから、どんどん死んでいく人たちを、救うことも出来やんだんやって。
どうしたらええか分からんようになって、頭を抱えたご先祖様は、最後に、隠野の山に駆けこんだん。ホンマは、そんな勝手に入ったらアカン山なんのやけどな。にっちもさっちもいかんから、スクナ様に助けてもらうしかない! って思って、どこ行ったらええのかも分かってないんやけど、それでもどうしようもないから、山に駆け込んだんやって。
何にも考えずに森の中を走って、木にぶつかったり、洞穴に落ちたりして。それでも走り続けて、気づいたら全然どこか分からん、苔の生えた岩と草や木に囲まれた谷に、立っとったんやって。
そこに座っとったんが、スクナ様やったん。
スクナ様は、ご先祖様を片手で拾い上げると、のっそり立ち上がって、山から山へとまたぐようにして歩いていったんやって。人里に返したろと思ったんか、人間を初めて見て面白くなっただけなんかは分からんけど、とにかく、人の住んでるところまでどんどん何にも言わずに歩いていったんて。
そんとき、ご先祖様は恐る恐るスクナ様のお顔を見たん。怒っとるかと思ったけど、でもスクナ様は、ちっちゃい子どもみたいな楽しんでる眼をして、歩いとったんやって。
そんで、村に着いたスクナ様は、ご先祖様を下ろすと、その悪い鬼を見つけたんやって。悪い鬼は、その頃にはもうものすごく大きく、強くなっとって、誰にも手が付けられんようになっとったん。村中を壊し尽くしてた鬼は、新しい相手が現れた、って思ったんか、迷わずスクナ様に襲いかかったんて。スクナ様も、鋭い爪と腰に差した短い刀を武器に、鬼と戦ったんやって。もちろん、人間を守るためではないんやけどな。
それからスクナ様と悪い鬼は、三日三晩ぶっ通しで戦ったん。その間に空は曇り、雷は鳴り、今にもこの世が滅びるような景色が、広がったんやって。
ほんで最後に、スクナ様が鬼の左腕を切り落としたん。太く大きなその腕(かいな)を落とした途端、鬼は凄まじい叫び声を上げて、その場に倒れたんな。それから、見る見る身体が縮んでいって……最後には、ただの普通のおじさんになったんやって。
実はその最も悪い鬼は、人間が悪行を積んで、呪いを受けて、鬼になったものやったんやな。スクナ様はそれを見ると、急に興味を失ったみたいになって、くるりときびすを返して、お山の方へ帰って行ってしまったんやって。
それからウチのご先祖様は、その残された鬼の腕をお山の社に奉って、封印したん。それ以来、めっきり悪い鬼、強い鬼の数は減って、時たま鬼女とか、人間が鬼になった化け物が出るだけになっていったんやって。ご先祖様は行者様を奉(まつ)り、鬼の腕を奉り、スクナ様を奉って、それから何百年もの間、ウチがこの土地をずっと守っとるんやて。
でもスクナ様はそれから、お姿を現すことはなかったんやって。
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