第二の掟

「第二の掟。学ぶ準備のない者に、魔法を教えてはならない」

「学ぶ準備のない者に、魔法を教えてはならない」

「これは、いたずらに魔法使いを増やさないための掟だ。さっきも言ったが、魔法には危険がともなう。心得こころえのない者に軽々しく魔法を教えてしまうと、その者は魔法を悪用して、世の中に不幸の種をまき散らしかねない。だから魔法を教える前には、相手にちゃんと学ぶ準備ができてるかどうか確かめる必要があるし、準備ができていても、十才になるまで教えてはいけないんだ」

 これはよく分かる。他人をあやつる力を悪い人が手に入れたら、大変なことだ。

「じゃあ、あたしは学ぶ準備できてるってことでしょう? だからお父さんはこうやって魔法の秘密を明かしてくれてるんだよね」

「その通り。お父さんはこの十年間、美由に魔法使いの適性てきせいがあるかどうか、ずっと見守ってきた。お前は少し引っこみ思案でおとなしい子だけど、そこが魔法使いに向いている。悪ふざけが好きだったり、やたらと目立ちたがったりするような子は、まだ魔法を学ぶレベルに達してないんだ。でも美由は、真面目まじめで、つまらないうそもつかない、思慮しりょ深い子に育ってくれた。魔法使いになる準備は、じゅうぶん整っているよ」

 よかった。あたしは安心した。が、すぐに逆の可能性に気付いてしまった。

「待って。じゃあ、もしあたしが魔法使いに向いてなかったらどうなってたの?」

「そのときは、魔法の秘密は明かさなかった。美由のことはふつうの女の子として育てていたし、幼稚園のときの魔法の話も、全部うそってことになってたね」

「ひどーい。だます気だったんだ」

「もちろんそうならないように、お父さんは美由のこと、赤ちゃんのときからちーゃんと魔法で育ててきたんだよ。だって、お前が生まれる前から、お母さんと約束してたんだから。この子をきっと、りっぱな魔法使いにしてあげようねって」

「お母さんと?」

「そうだよ。お前が魔法使いになることは、お母さんの望みでもあったんだ」

 それを聞いて、あたしはむねのおくのほうから、温かいお湯がいっぱいあふれ出してくるように感じた。心がお湯で満たされて、おふろに入ってるみたいに幸せだった。

「でも、どうするかは美由が決めることだ。まだ決断するなよ。今日の話を最後まで聞いたら、気が変わっちゃうかもしれないんだから」

「分かった」

「それから、もし魔法使いになったとしても、お父さんがいいって言うまで、絶対だれにも魔法を教えちゃだめだぞ。人に魔法を教えるのは、一人前の魔法使いになってからだ」

「はい」

「では次」


          *

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る