第5話 キミをずっと探してる
こっそり潜り込んだ王族たちの晩餐会。
深い理由なんて特になかった。
ただ単に、吸血族と対立する相手がどんな奴等なのか……王族とはそんなにも凄いものなのか、この目で確かめようと思っただけだった。
初めて入る王家の庭には数々の彫刻が並んでいた。
単なる物珍しさで、暗闇の中を一つ一つ眺めながら歩く。
その時、その声が聞こえた。
『あなた、もしかしてヴァンパイア?』
分厚い雲に隠されていた赤い月が顔を出し、夜露に濡れた庭の草が宝石のように輝きを持つ。
闇から突然現れた彼女は、彫刻が動きだしたのかと思うほどに美しい人だった。
すぐに彼女に恋をした。
それが、生まれて初めての恋だった。
「その頃はまだ色ボケしてなかったのね!」
「「シーッ!!」」
「……なによ」
シルフは面白くなさそうに窓辺に腰をかける。その姿は有名なあの妖精そのものだった。
「……ただ、みんなも知っている通り、王家と吸血族は仲が悪くてね」
タマちゃんの父である魔王と僕の父との間には深い深い確執があった。
「魔王と吸血族の王が若い時に種族会議で揉めたんだろ?」
「ふんもお……」
それは、魔界に生きる者ならば誰もが知っている常識だった。
「あー表向きはそうなってるけど、それな」
いまだ腰に手をあてたままのタマちゃんが口を開く。
「……ふんもお!?(……違うのか!?)」
「うん。
「……ふんもぉ?(……取り合って?)」
「
あまりに簡単に常識を覆すタマちゃんのその発言にみんな一瞬にして固まったが…
「「「えぇぇぇぇぇぇ!!」」」
――と、すぐに声を揃えて驚いた。
「ふんもお!!(嫉妬かよ!!)」
「魔王、ダサっ!!」
ダセェだろ?と言いながら、タマちゃんはロッキングチェアに腰かける。
長い足を余らせたまま、もう一度「ダセェよな」と笑った。
「まぁ、とにかく僕とシャ・クーラは隠れて会うしかなかった」
――だが、祝福されない二人は会うことさえ儘ならない。
彼女が病に冒され、部屋から出られなくなってからは本当に数える程しか会えなかった。
「……警備も厳しくなったしね」
ただ、王妃――タマちゃんの母君が僕をこっそり城に入れてくれた日があったんだ。
「その夜……彼女は僕の腕の中で息を引き取った」
「ずっと抱き締めていたかったけど……」
「王妃が罪に問われたら……申し訳ないから」
そのあとの僕は深い悲しみに囚われ、何日も何日も血を吸わずに過ごした。
喉が渇き、腹が減って、頭がおかしくなりそうだったけど、女の白い首を見るたびに彼女の肌を思い出して……
「歯を立てられなかったんだ……」
静まり返る部屋の中で、ロッキングチェアのギィギィという音だけが規則的に響く。
「……キュウ」
「なぁに、タマちゃん」
「……
いつもの無駄にデカイ声ではなく、全てを黙らせる王族らしい落ち着いた声でタマちゃんが言った。
「あぁ。彼女は嘘をつかない人だったから」
「……もしかしたら本当に」
「この世界で生まれ変わっているんじゃないかと」
――――そう思って。
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