謀は兄弟とともに
運命を信じて生きている人は多い。世界には自分に見えない大きな力があって、己に定められた轍の上を歩けと強制してくる。
こうした考えは救いにも絶望にも対応する。
成り上がれば自分は運命に選ばれた偉人であると思え、失敗すれば自分のせいではないと言うことができる。
しかし、運命から解放されてしまった者達がいる。深遠な計画を練り上げた魔女の弟子たち。
何をしても自己のせいであり、加えて運命の操り手をその目で見てしまった者たち。彼らにとって、生とは綺羅びやかな破滅だった。何をしようと、美しきおぞましさを持つ魔女の手のひらの上なのだから。
実力は隔絶し、練り上げた計画も着実に進行しているようだ。さらに、その最終目標が不明というのも恐ろしい。
それでも、気絶しそうな恐怖を抱えながら〈半端者〉で無くなったコウカは人知れず反撃を開始していた。
もっとも……その方法を反撃と呼べるのかは疑問が残るだろうが。
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フォールン国の世俗騎士となったコウカは、手に持った紙をひらひらと振った。投げ出したくなるが、理性で耐える。
そもそも、こうした手紙のために裏の世界の関わりなどを抱えたまま公的な身分を手に入れたのだ。
裏社会にいる人間が国に仕えるなど、という考えもあるが実際にはさほど珍しくない。不正をした方が利益が多いと考える者は多い。
コウカの場合は、身分を準騎士としていたため、正式な任命式を経てフォールンに所属している。フォールンの裏社会を仕切る“店主”は心底嫌そうだったが、彼も表向きの身分は持っている。
ついでに言えば、最高戦力の“斧女”まで“白髪頭”と組んでいるのだからどうしようもできない。魔女に鍛えられたことで、変なところで恩恵があったことを複雑に思う。
愛憎入り交じったまま同志となったサリオンが純粋な疑問に毒を垂らしながら言う。神器を失ったサリオンは現在、ただの政治屋だ。
非効率的と思いながらも健全な国造りに不承不承働いている。
「……お前に、そんな知り合いがいるとはな」
「いい表現だな。知り合い。仲は全く良くなかった……いや、向こうは親友と思っているらしかったが」
手紙は〈完璧なる者〉サエンザからのものだった。戦闘能力を除いてしまえば何も残らないような男に、強国ナリーノの四王家の友人がいるというのは確かに不可思議なことだろう。
公的な身分に滑り込んだ理由は、同じ弟子仲間の兄弟達と連絡を取りやすくするためだ。少なくともサエンザとラルバ、アルゴナといった故郷がはっきりしている者とは連絡が取れる。
それでも手紙越しでは会う日取りを決めるだけでも一苦労だったが、その甲斐はあった。よりによって対の存在であったサエンザと、最も早く都合がついたことはコウカの顔を奇妙に歪ませた。
「旅に出なければな……顔を合わせ無ければ、挑戦もできない」
「本当にアレと戦うのか? 神器を指でへし折った女だぞ」
「正直に言えば怖い。というか全力で御免被りたい。そして俺たちが一番アレの異常性を感じ取っている。だが、もう怯え続けることをやめてみたい」
語るコウカの脳にはサリオンに言っていない言葉もあった。
そんな凶悪極まる怪物が、何かの計画を遂行しようとしている。それも魔器と神器を融合させた創世器なぞという代物を使ってだ。
誰も知らないその計画が発動した時、自分たちは生きていられか? もちろん何の変化も無い可能性はあるが、それを期待するのは無理だろう。
コウカは意外にも、その計画をある程度推測していた。しかし、魔女に勝つためには自分の
それでも不足する未来を想像する度に震えが来る。あの女はこちらの頭の中身などとうに弄っていておかしくはないというのは、弟子たちの共通認識だ。
「ジネット様はどうする?」
「しばらくはお前たちに任せる。“斧女”がいれば護衛に不足はない。セネレには怒られるが、こればかりはな……」
「俺を信用しているのか?」
「ああ、お前は遠くから見ていたい系の男だから信用はしている。それにあの子達が幸せになれるのなら誰でも構わんさ」
サリオンの執務室から一時離れ、暗くなってきた廊下を進む。半ば開いたままの扉からセネレを娘のように抱いて眠るジネットの姿を見て、コウカは静かに扉を閉めた。
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