聖女と半端者
マズい事態だ。
コウカはフォールンにおける神器使い間のいざこざに首を突っ込んでしまったことに、今更気付いていた。
もっとも……今回に関して言えばコウカばかりを責めるのも酷であろう。聖女ジネットはこれまでのコウカの常識を外れた存在である。
まず、神器も使い手も魔女の弟子であるコウカに敵意を抱いていない。
つまりは神器の大本たる神が魔女を敵視していないということになるのだが、近頃はそこらの賊や獣との不幸な出会いすら増加中の半端者にとっては想像もできない。
魔女と直に接していた弟子たちは〈才なき者〉を除いた全員が魔女を嫌っているのだ。その一人であるコウカからしてみれば、アレを好きになる者などいてたまるかと言いたいところであろう。
次にジネットが弱いという点も不可解であった。
神器使いは強い。単純かつ極端だが、真実である。何せ神という超が付いて巨大な存在と接続して、その力を受け取ることができるのだ。
直接戦闘に向かない神器もあるであろう。それぐらいは浅慮なコウカにも想像可能だ。しかし同時にこれほどまでとは想像することができなかったのだ。
この二点が神器使いとしては希薄な気配として現れる。真っ当な常人よりは流石に上であろうが、それすら違和感という形でしか現れないのだ。
「……ん?」
そこまで思い至って、コウカもまた状況が奇妙なことに気付く。
現在のコウカとジネットはコウカ達の住居に向かうことは既に諦めている。現時点で立場を危うくしているのがコウカ一人であるために、仲間二人を巻き込まないためだった。
……だが未だに聖騎士の気配が樹槍の探知圏内ギリギリに現れては消える。どれほど速く走ろうとも、不規則な道筋を辿ろうとも、思い出したように気配が現れては消える。
魔器と結合した魔女の弟子の身体能力は神器使いと大差ない。劣化神器使いである聖騎士を撒くことはさほど難しくないはずだが……
「これが……この国の神器使いの特性か? ……おい、アンタ。アンタの神器はどんなものだ?」
「アンタではなくジネットです。ええと、どういったものと言われても傷を直したりとか……」
「追いかけてきてるのは配下の聖騎士だろう? 止められないのか? 神器の接続を切るとかやりようはいくらでもあるだろう?」
「え? ああ…私には騎士はいません。彼らはサリオンの騎士達ですので、止まってくれと言って止まるような方たちでは……私はサリオンに余り好かれてはいないようですし」
こうなるとコウカの小さい脳みそではよくわからなくなってくる。
ともあれこの国には神器使いが二人いて、追ってきているのはもう片方の神器使いと接続した騎士らしいことは分かった。
コウカは一気に力を足に込めて全力で飛ぶ。聖騎士達が再びこちらを補足するまでの僅かな間で、拙い文字を紙片に書いてレンガの隙間に押し込んだ。
そのレンガには奇妙な印が描かれていた。どこから見ても目立つが、関係者以外は誰も触らない。そういうことになっているのだ。
「連絡はコレでよし。とりあえずアンタはどうする? 連中と適当なところで折り合いたいか、もしくは物見遊山を続けるかという意味で」
「ええっと……もう少し見て回りたいとは……って物見遊山じゃないです!」
「似たようなものになると思うよ? 一口に世間って言うが街もここだけじゃないしなぁ……まぁ乗りかかった筏、いや丸太? 途中まで送っていこう」
再び聖女を抱えて、飛び上がる。堕落の国にも光は差すと見えて珍しい晴天が近づいてくるのが見えた。
一旦街の外へと出て、さらに距離を取る。そうすれば発信源の神器使いとの距離が離れて、聖騎士達の探知能力にも陰りが見えるだろう。そこでさらに持てる限りの速さで一気に撒く……というのがコウカの作戦だ。
単純な考えを固めるコウカの胸元で、甘い声が優しく囁いた。
「コウカ様は良い人ですね」
「それは無いと思うがなぁ……旅をする気ならもっと人を見る目を身に着けた方がいいと思うぞ。うん」
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