Episode 40 池崎正人の受難
40-1.人は変わる
卒業式は独特な緊張感に満ちていた。
だが歴代の中でも破天荒を極め、傍若無人の限りを尽くしてきた彼らのこと、やはり最後は滅茶苦茶だった。
安西史弘と白石渉がなぜか百メートル競走を始め、池崎正人もそれにつき合わされた。
尾上貞敏は武道系の運動部員たちを集め講釈を垂れている。
澤村祐也は最後の演奏をリクエストされ芸術館に移動していった。
一ノ瀬誠や綾小路高次は生徒会や委員会の後輩たちに囲まれて切々とアドバイスを求められていた。
中川美登利は、絶対に泣いてしまうとさんざん予防線を張っていたわりには泣きもせず、延々と写真撮影の求めに応じていた。
今までこんなサービスはしたことがなかったから、同級生も後輩たちも満面の笑顔で歓声をあげていた。
気に入らない様子の坂野今日子が順番待ちの整理をしながら、くれぐれも肖像権侵害に気をつけるよう念を押していた。
最後には片瀬修一と森村拓己に花束を渡され、そのときには少しだけ瞳を潤ませていた。
正人は離れた場所から美登利を見ていた。気がついて目を合わせ、少しだけ微笑んでくれた。
それで十分だった。
一週間後。合格発表を確認し、報告にもう一度学校を訪れると、他にも大勢の卒業生が職員室にたむろしていた。
その中に綾小路の姿を見つけ誠は手を挙げた。
「終わったな」
「ああ」
「高校生活もな」
「そうだな」
「楽しかったよ」
綾小路の言葉に誠は驚く。
「おまえらときたらまったく人を飽きさせない。おかげで退屈しなくてすんだ。面白かったよ」
「そうか」
「中川に話すのは癪だからおまえに言っておく。ありがとう」
「ああ、こちらこそ」
「紗綾が中川になついてるからな。これからも仲良くしてくれ」
本当にびっくりさせられて誠は無言で頷いた。あのコチコチの堅物だった綾小路がここまで話のわかる男になるとは。
人は変わる。心も体も変わっていく。
この三年間、まざまざとその変化を思い知らされた。
そしてきっとこれから先も変化の加速は止まらない。
彼女も、自分も、そしてまわりも。
新生活の準備の合間を縫って約束通りレジャーに出かけた。
「おおー、ほんとにアイランドリゾートだ」
いつもの乗換駅から船で三十分。
「近いのに来たことなかったね。まだまだ知らない場所がたくさんある」
「そりゃあ、まだ人生二十年足らずだからな」
「百までとして、まだ五分の一でしょ、やだなあ、疲れたなあ」
「死ぬのか、おまえは」
「そんなもったいない」
笑ってつないでいた手を揺らす。今日はずっとこうしている。
嬉しいが常にはない行動が不気味だった。
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