29-3.最良の作戦
「いいか。おれたちとあの人たちとはまったく違うんだ。根本的に、まったく違う。それを腹に叩き込め」
――同じようにやれだなんて言わないよ。あなたはあなたのやり方を見つけてほしい。
「おれたちにはおれたちのやり方を活かした戦い方があるはずだ。同じ土俵で戦おうとするな。うまくそこへ誘導されて勝手に自滅していった連中を嫌というほど見てきただろう」
まだ頬を白くしたままこくりと頷いた本多だったが、目には力が戻ってきていた。
「できるぞ、本多。大丈夫だ」
うんうんと本多が頷く。
「いつまでも、先輩たちに寄りかかってるわけにはいかないんだよね」
彼らしい解釈で戦いの意義を見出したようだった。
候補届出者告示の直後に真っ先に本多支持を明言したのは一年生のグループだった。
三年生の強さをいちばん間近で目撃してきた二年生がすぐには動けないのは仕方がない。それでもまずは支持を得られたことが励みになった。
「派手に騒動を起こして良くも悪くも衆目を集めるのが先輩たちのやり口だ。俺たちは絶対にそれにのったらいけない。こつこつ地道に、これあるのみだ」
それは本多崇の持ち味でもある。片瀬は最良の作戦を打ち立てたといえる。
方針が決まればあとは突っ走るだけだった。
だんだんと二年生の間にも「本多支持・打倒三大巨頭」の気風が広がっていく。少しずつでも確かな手ごたえを感じる。
「仕掛けてくるなら今だ」
意気揚々と運動員たちと校内を回る本多を送り出し、片瀬は表情を引き締める。それに正人も頷いた。
「平山くん」
階段を下りていたところを上から声をかけられた。半階上の手すりから中川美登利が顔を覗かせている。
「調子はどう?」
「ぼちぼちっすかね」
「君は私の味方だと思ったのに」
「なんでか本多陣営に引きずり込まれてて、なんでですかね」
そこではっと平山は手で口を覆う。
「片瀬先輩に中川さんと口きくなって言われてるんすよ」
「そんなの、言わなきゃわからないじゃない」
「ああ」
「そっちはどんな感じ? どんな顔ぶれが出入りしてるのかしら?」
「いや、でも……」
「教えてくれたらキスしてあげる」
「まじっすか!」
喜色満面になった平山和明だったが、不意にげしっとローキックを食らって涙を浮かべてその場に蹲った。
「この阿保が」
「池崎先輩」
くっと正人はこぶしを握る。美登利は静かにそれを見下ろしている。
一瞥を投げて正人は平山を引きずってそこから離れた。
残された美登利は手すりに頬杖をついて息を吐き出す。
「落ち込むなら最初からやらなきゃいいだろう」
後ろから突然言われた。気配なく近づいてくるのはやめてほしい。
「落ち込んでないし」
顔も上げずに答える彼女に、一ノ瀬誠はやっぱりため息をついて反対側の壁に寄りかかった。
髪が短くなってから美登利の肩がやけにか細く見える。
髪くらいで、と思っていたが実際いかにも彼女は何かを払い落としたような口ぶりで、そしてますますなにを考えているのかわからない。
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