28-5.涙が出そうだ


     *     *     *


「おはよう、唯子ちゃん」

 翌日、ストールのお礼だと包みを渡すと唯子は少し困ったような顔をした。

「お返しなんてよかったのに。私はただ、励ましたくて」

「え?」

「美登利さん元気がなかったから、やっぱりショックなんだと思って。ずっと伸ばしてたものね」

 ああ、髪のことか。

「でもありがとう。わあ、クリスタルのお花だ。とってもキレイ」


「おーい、美登利さん」

「おはようございます」

 またね、と手を振る唯子とすれ違いに船岡和美と坂野今日子が近づいてきた。


「ごめんね。この前、なにも言わずに帰っちゃって」

「いいよ、いいよ。大丈夫? 疲れてたんだよね」

「美登利さん、これ」

 今日子が差し出したのはあの、憧れの高級チョコレートメーカーのものだ。しかも最上級コレクションの大箱だ。

「クラスのみんなからです。早く元気になってもらいたいって」

 なんだこれ。涙が出そうだ。嬉しくて。


 大事に抱えてロッカーにしまっていると、おそるおそる声をかけられた。

「中川先輩」

 須藤恵と森村拓己だ。

「放課後、調理室に来てくれませんか?」

「うん、いいよ」

 ぱっと頬をほころばせてふたりは予鈴の鳴る廊下を戻っていった。

 付き合うようになってからふたりの雰囲気はますます似てきた。杉原と唯子もそうだ、お似合いの幸せそうなカップル。


 昼休みには安西史弘に声をかけられた。

「なんだい、いつもと変わらないみたいだね。元気がないって聞いたから、景気づけに一緒に卓球でもと思ったのに」 

「それ、嫌がらせだよね?」


「みどちゃん」

 安西の後には澤村祐也がやって来た。

「大丈夫?」

「もう大丈夫だよ。ありがとう」

 どこまでも穏やかでどこまでも優しい人。彼にだっていつまでも甘えてはいられない。

 優しい分、浮世離れした彼にはしっかり者な船岡和美がお似合いだ。


「中川よ」

 放課後、中央委員会室に顔を出すと、綾小路高次が深刻な顔で告知してきた。

「申し訳ない。おまえさんが髪が短くなって落ち込んでいると紗綾に話してしまったら、予想以上の反応でな。週末あたり強襲してくるかもしれん」

「それは大歓迎だよ。急ぎの仕事がないなら、今日は帰らせてもらうけど」


「かまわないが明日には選管選出の通知が出される。今回はどうする?」

「考えてることがあるの。明日聞いてくれる?」

 いつになく静かな物言いに綾小路は意外そうな面持ちをしたが、黙ってすぐに頷いた。

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