20-6.秘密

 自覚してしまったら、あとはもう時間の問題だった。

 子どもの頃のように無邪気なだけではいられない。独占できない切なさを知ったときにもこれほどの苦しさになるとは思いもしなかった。

 甘かった。自分がいちばん自分の感情を甘く見ていた。


 あの日、世界を輝かしく変えてくれた愛情が今度は世界を蝕んでいく。

 だからといって捨てることなど考えられない。だけどこのままではどうにかなってしまいそうで。


 進学を機に距離を置くことを模索してもみたが、とんでもなかった。

 これまでなかった距離と時間とは、問題を増長させるだけだった。

 誰といてもなにをしていてもどんな関係を結ぼうとも、心はあの子に戻っていく。


 そしてわかってしまった。

 彼女の前で感じる胸の痛みなど、会えないつらさに比べればどうということはないのだ。

 ずっと守ると決めた誓いの重さに比べれば、こんな胸の痛みなど。


 一度はそう思いもしたが、生まれた歪みは隠しようもなく、それを悟られる前に巽は決意した。もっと遠くへ逃げ出すことを。


「なんでいきなり留学なんて」

「ごめんよ、急に思いついたんだ」

「しかも二年も……」

 荷造りする巽の後ろで美登利はずっと同じことばかり言っている。ベッドの上で服を畳んでくれながら重く息を吐く。


「どうしたらいいのかわからない」

「そんな深刻にならなくても」

 笑ってごまかそうとしたのに涙ぐむ顔を見てそれもできなくなってしまった。

「休暇にはちゃんと戻ってくるよ」

「それまで我慢できなかったら?」

「いつでも飛んでくる。約束する」


 そんなわがままなど言わないことはわかっている。約束など意味のないことを彼女も知っている。知っていて微笑む。

「じゃあ、ぎゅってして」

 笑って腕を伸ばす姿がかわいくて、いとしくて、これが最後と思いながら抱きしめる。


 ふたりだけの世界なら良かった。変わることの痛みも奪われる恐怖もなく、ただ満たされるだけの世界ならよかった。


 どうしたらいいのかわからないのは自分の方。今のままでは守ることすらできなくなってしまいそうだから。

 だから許してほしい、遠く離れていくことを。ほんの少し、心を強くできるまで、覚悟を決めるまで。


 愛してる。君がくれた自分の世界。

 そこから光がなくなって、ひとり取り残されることになったとしても、愛してる。

 君がくれたすべて、それだけは守ってみせる。そうやって生きていく。

 こんな自分をどうか許してほしい。

 絶対に、この想いは永遠に、秘密にするから。

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