Episode 21 ミス・ロマンチック

21-1.これが最後ということ

 卒業式は独特な緊張感に満ちていた。

 それも仕方ない。卒業生の大半がこの後まだ国立大学の合格発表や入試そのものを控えているのだ。

 この時間にだって勉強したいというのが本音だろう。


 それでも送辞、答辞、校歌斉唱と式が進んでいくうちに皆がしんみりした表情に変わっていった。

 出入り口のそばに立って後方から様子を眺めていた池崎正人もそれは同じだった。


 場の雰囲気に弱いと言われればそれまでだが、あまり交流のなかったこの学年に対してこうなのだ。来年はもっと寂しい気持ちになったりするのだろうか。


 思っていたら隣に立っていた中川美登利がそっと扉から出ていった。

 学校長の挨拶が終わりそうになっても戻ってこない。


 追いかけて玄関ホールを見渡したが姿が見えない。

 正人は外に出てみる。ステップの段差に座って美登利は額に手をあてて俯いていた。

 思わず手を伸ばしていた。


 触れそうになった正人の手を美登利の手が遮った。

 予想に反してしっかりした視線で顔を上げる。

「具合、悪いのかと思った」

「大丈夫。もう終わりそう?」

「ああ」

「じゃあ、誘導に行こうか」




 各クラスで最後の終礼を終える頃には気持ちが盛り上がり卒業生たちがあちこちで写真撮影を始めていた。

 驚いたことに佐伯裕二にまで女子生徒が群がっている。場の盛り上がりというのは恐ろしい。

 だけどこれが最後ということ。


 見送りのために校門前に立ちながら美登利がぼんやりしていると、岩下百合香が寄ってきた。

「一緒に写真撮らせてちょうだい」

 他の卒業生女子も寄ってくる。


「ねえ、みどちゃん」

 美登利の腕を抱いてレンズに向かって微笑みながら百合香が小声で話す。

「あなたには随分な目にあわされたけど、全部忘れてあげるわ」

「……」


「お兄様が作った学校だものね。あと一年、せいぜい頑張って」

 最後にぎゅっと抱き着かれた。

「まあまあ楽しかったわよ」

 魔女にここまで言ってもらえば本望かもしれない。

「卒業おめでとうございます」



    *     *     *



「あれ? ホワイトデーって今日」

「そうだよっ。だから早く、何か買ってこないと。部活やってる間に戻るんだよ」

 森村拓己に腕を引っ張られて校門を出た。


「遊園地行く計画だろ?」

「それはそれ、これはこれ」

「……」

「池崎、めんどくさいとか思ってるんじゃないよ」

 大通りで信号待ちしていると、ぷぷっと後ろから笑われた。

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