第12話
あれから。
ぐっすり眠ったあたしは、腫れぼったいブサイクな顔で朝を迎えた。
あまりにも寝ぼけた顔をしていたから、それを見た純也くんはくすくす笑いながらコーヒーをいれてくれた。
何もせず、服さえも脱がずに迎えたホテルの朝。
いろんなお店が開く時間まで何もせずにぼーっと待って、開きたてのユニクロで場違いな喪服を脱ぎ捨て、カジュアルな服に着替えた。
喪服はクリーニングに出し、そのまま近くのマクドナルドで朝ごはんとも昼ごはんともつかないごはんを二人で食べた。
あまりたくさん話はしなかったけれど、もう一生分話し尽くしたような気持ちで食べるフライドポテトは妙においしかった。
そして、何をするでもなく、ひたすら明るい街をぶらぶら歩いて、辺りがオレンジ色に染まる頃、いつの間にか昨日の公園にたどり着いていた。
「ナオちゃん」
改まった様子で話しかけてくるから、思わず身構えてしまう。
「お、お友達から、始めてください!」
ものすごい緊張感を醸し出していた彼の、あまりにも間抜けな一言に、思わず吹き出してしまう。
「ダメ…かな?」
あまり可愛くない上目遣いを可愛いと思ってしまったあたしは、もう大分イカれてしまっているのだろう。
「喜んで」
そう言って改めて手を差し出したら、両手に握り混んでぶんぶん振り回された。
「よかったぁ…」
本当に安心したように、満面の笑みを見せる。
体からまず繋がってしまったあたしたち。
いろんなことを間違えながら、あたしは今ここにいる。
それでも、今感じているこのぬくもりは決して間違いじゃないと本能が言っているから、その思いを信じてみたい。
「あたしは、ろくでもないことばかりしてきて今ここにいる。それでも、そんなあたしで良かったら…」
彼の目を見る。やさしく包み込むようなまなざし。
「あたしと、つながっていてください」
伝えられた言葉。
それはバカなあたしが何より望んでいたことで、空っぽのあたしを満たすもの。
「喜んで」
握った手に力を込めて、彼は言った。
なんとなく微笑み合って、空を見る。
キレイな夕焼けが、少しずつ群青色に染まっていく。おだやかな時が二人の影を包み込む。
「美咲ちゃんに、お礼言わなきゃね」
ぽつりと彼が言う。
「そーだね」
知らない間にあたしを見守ってくれていた友だち。ものすごくニヤニヤしながらいろんなことを突っつかれるんだろう。
「舞ちゃんにも報告しなきゃ」
「舞ちゃん?」
「職場の後輩なんだ。すごくいい子」
あのとき心配させてしまったから、きちんとあたしが大丈夫になったことを伝えたい。
「いろいろ、心配かけてたんだね」
まわりのことなんて、何も見えていなかった。
「そーだね。でも、いいんだよ。生きてるんだから」
彼はそう言って、空を見た。
薄暗くなってきた空には、キレイな満月。
「キレイだね」
「キレイだね」
まだ少し怖いけど、あたしは今月を見ている。
月はあたしだ。
あたしの愛した人、あたしを愛してくれる人、それぞれが思う月。
「満ちても欠けても、夜を照らす月でありたい、そう思うよ」
今真摯に月と向き合い、本気でそう思った。
あの頃のあたしみたいに、闇の中でしか息が出来ないような子たちを、そっと照らす光みたいになれたら。
「大丈夫。オレは充分照らされたよ」
そう言って、やさしく笑ってくれる人が、隣にいるから。
だから、あたしはもう、夜も月も怖くない。
-終-
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