ヒミツのことば
(※このエピソードはナゾトキ要素があり、縦組み推奨です)
●にいる有名な動物を答えろ。
30 に う ● お あ か と ゆ し は た た し
私たちの目の前には次の謎解きが書かれたパネルが現われた。
パネルを見てB作が腕を組む。
「動物、ですか……」
私もパネルの内容を読んでみるが、さっぱり答えが分からない。
「C香さん、分かりますか?」
「んー。さっぱり」
「これは『30』がヒントですね。ひらがなは、十二個しかありませんが、これはあるものの頭文字を表しています」
「え、B作はもう分かったの?」
「えぇ。最近ニュースになったので分かりやすかったです」
私たちは体験型謎解き脱出ゲームに参加していた。この春休み限定で開催しているようだった。
謎解き好きのB作は楽しそうだ。私は手を伸ばし、B作の手を握った。握った手をB作は握り返してくれた。
九月に起こったあのコテージの惨劇から半年。直接的な原因が私たちではなかったものの、あの場に居合わせたメンバーの一人として、それなりに仲が良かった友人の一人として、今なお事件の傷が癒えたわけではなかった。
だからあれ以来、サークルには顔を出しにくくなってしまった。
たぶん他のメンバーもそうだろう。連絡も疎遠になってしまったから実際のところは分からないけれど。
ただ、あの事件がキッカケとなり、私たちの関係は確かに変わった。
事件以来、B作は私のことを気遣って連絡をしてくれるようになり、秋にはデートをして、冬にはB作から想いを伝えられて付き合うようになった。
「これはある駅名の頭文字ですよ」
「駅名?」
「そう。ほら『に う ● お あ か と』……なんか見たことありませんか?」
「んー。なんだろう」
「西日暮里、鶯谷、御徒町、秋葉原、神田、東京、有楽町……」
「あ、山手線?」
「そう。山手線は駅が三十個……正確にはまだ二十九個ですけど、ね」
「あ、分かった。『は た た し』は浜松町、田町、高輪ゲートウェイ、品川だね」
「そうです。最近、駅名が話題になりましたからね」
「てことは、『●』に入るのは……上野?」
「はい。上野駅になりますね」
「有名な動物……パンダだね!」
「正解」
こうして私たちは順調に謎を解いていった。と言っても、B作のヒントなしで私が解ける問題はなく、順調に謎を解いていたのはB作だったけれど。
ただ、そんなB作でも解けない謎があったようで、もう少しのところで制限時間となり、「脱出失敗」となってしまった。
脱出率は十パーセント前後らしく、中々難しいようだった。
「楽しかったね」
「えぇ。脱出は出来ませんでしたけど」
「ちょっと、トイレ行ってくる」
「僕も行きます」
私たちはそれぞれ施設内のトイレに入った。
そしてそこには奇妙な文字が書かれていた。
← イウトレ
文字が書かれているのは、個室の扉、カギを掛けるレバーの青い部分だった。
もしかして、謎を解かないとトイレを使えないのだろうか、一瞬そう思ったのだが、扉は普通に開いた。
扉を開け、そっと個室内を見るが特に変わった様子はなかった。普通に使えそうだ。良かった。
用を足して個室から出ると、隣の個室のレバーにも文字が書かれているのに気がついた。隣の個室には人が入っているようで、レバー部分が赤くなっている。その赤い部分にはこう書き記してあった。
↑ カキネハキ
私には何を表しているのかさっぱり分からなかった。B作ならすぐに分かりそうだ。
トイレから出ると、すでにB作が待っていた。
「ねぇ、ねぇ。トイレに謎解きあった?」
「ありましたよ。『イウトレ』と『カキネハキ』ですか?」
「そう、それ。あれはなんて書いてあったの?」
「そうですねぇ。どこに書いてありました?」
「青と赤のレバーのところ。『イウトレ』って並び替えるとトイレって文字が入っているけど、これもヒント?」
「なるほど。そう考えましたか。でも、今回は並び替えは必要ありません」
B作はまたニヤニヤと笑顔で楽しそうだ。
「矢印の方向がヒントですよ。書いている文字をある表に当てはめて矢印の方向に読むと答えが出てきます」
「表?」
「えぇ。ちなみに僕がC香さんに伝えたいのは『← イウストレ』ということです」
「んん? どういうこと? 余計分からなくなった」
「そうですか。では、ちょっと待ってください」
B作はそう言うとスマートフォンを取り出し、ある画像を表示した。
「これが最後のヒントですよ」
そこに表示されていたのはあいうえお表だった。
あいうえお
かきくけこ
さしすせそ
たちつてと
なにぬねの
はひふへほ
まみむめも
や ゆ よ
らりるれろ
わ を ん
私は矢印の方向に従いながら文字を読んでいった。まず『← イウトレ』は上矢印が書いているので……
「えっと……あ、い、て、る……「空いてる」か!」
「そう、そう」
「じゃあ、『↑ カキネハキ』は、あ、い、て、な、い。「空いてない」だ!」
「正解」
だから青と赤のレバーに書かれていたのか。正解が分かってスッキリとした。
「じゃあ、B作の言っていた『← イウストレ』って言うのは……あ、い……」
「さ。行きますよ」
B作は見せていたスマートフォンをしまい、そそくさと歩き出してしまった。
「え。ちょっと待ってー」
私は頭の中であいうえお表をイメージし、続きの文字を拾い上げた。
「……あ」
正解が分かった途端、急に嬉しさと恥ずかしさが吹き上げてきた。
口元と耳で感情がバレないように、すっぽりとマフラーを巻いて、私は彼の元に走っていた。
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