点呼
「それでは点呼を開始する。呼ばれたトイレは返事をするように」
目の前には様々な形をしたトイレが並んでいる。
「じゃあ、まず男子から。
「はいっ」真面目なトイレが答える。
「
「はい」古風なトイレが答える。
「くみ取り式ー」
「うーす」体格の大きいトイレが答える。
「
「うむ」坊主頭のトイレが答える。
「
「はいなー」オネエなトイレが答える。
「サニタリー」
「Yeah!」ハーフなトイレが答える。
「
「ちょっと、ちょっと。せっちんって呼ばないで下さいよー。それはあだ名ですよー」
雪隠と呼ばれたトイレがふて腐れる。
「あぁ、悪かった。水洗トイレだな、お前は。今のことは水に流せ。水洗だけにな」
「ええ、そうします」水洗トイレは不機嫌に返事する。
「続けるぞー。男子トイレー」
「はい」生徒会長風のトイレが答える。
そのまま点呼は続き、女子の番になった。
「よーし次、女子いくぞー。化粧室ー」
「はぁい」メイクを整えながら返事をする。
「女子トイレー」
「はい」メガネのトイレが答える。
「
「は、は……い」消え入るような小さな声で答える。
「手洗い所ー」
「……」
「おい、手洗い所はいないのか?」
すると、他のトイレが答えた。
「手洗いさんは、今、トイレに行ってまーす」
「そうか手洗いは手洗いか。じゃあ、続けるぞー」
「
「えぇ」遠慮がちにトイレが答える。
「
「ぷぅー」音のような声でトイレが答える。
「
「あら。あたくしも? あたくしはトイレじゃなく糞なのよ」
こうしてさらに点呼は続いていく。
御手洗、ウォータークローゼット、仮設トイレ、厠、くみ取り式、化粧室、後架、公衆トイレ、御不浄、サニタリー、小便器、女子トイレ、女子便所、女性用トイレ、女性用便所、水洗トイレ、雪隠、男子トイレ、男子便所、男性用トイレ、男性用便所、手水、手洗い、バイオトイレ、憚り、屁厠、洋式トイレ、レストルーム、和式トイレなどと、トイレを意味する名称は多数存在しているのだ。
このように、ひとりひとり名前を呼んで確認しているわけではないが、ここ大手トイレメーカーのトイレ工場では、今日も様々な場所で使われる、様々なトイレが、世に出て行くのであった。
――十一月十日は「トイレの日」。
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