最後の手紙

美希、渡へ


 これはパパからの最後のメッセージになるかもしれない。時間がないから手短に書くぞ。

 美希、愛している。普段、口にすることはなかったが、愛している。これから先もずっと愛している。

 渡、ママの言うことをちゃんと聞くんだぞ。お前は良い子だ。人に感謝されるような大人になれよ。それからママのこと任せたからな。

 パパには今からやるべきことがある。今から1時間前にパパの働く役場で人質立てこもり事件が起きた。犯人は40代前後、男。帽子とサングラス、マスクで顔を隠している。

 パパがちょうどトイレに行っていた時、パンッと乾いた銃声が2発なった。外が騒がしくなった。女の悲鳴がして、もう1発銃声。静かになった。生ぬるい音。誰かが撃たれた。

 犯人の要求で、役場にいた全員がフロアに集められた。小さな役場だから、職員と客で10人程。正面の出入り口はシャッターが降り、窓のブラインドも閉められた。

 パパは運良く犯人に気がつかれなかった。だからこうして持っていたボールペンでトイレットペーパーに手紙を書いている。

 そしてここからが大事な話だ。

 犯人は金銭を要求。1億円。既に警察に連絡を取っており、警察は夕方までに準備すると言っている。

 犯人はもうひとつ要求を出していて、その金を引き渡す際の刑事を名指ししている。

 これが問題なんだ。犯人の狙いは金じゃない。この刑事が本当の狙いだ。犯人が人質の前で話していた。国とこの刑事に恨みがあると。そして、刑事が交渉に来たときに建物ごと爆破すると。

 この事実を外にいる警察に知らせたいが、連絡手段がなく、外への脱出ルートもない。

 人質はみんな縛られている。自由に動けるのはパパだけなんだ。パパが止めるしかないんだ。

 人質には渡のような小さい子供もいる。

 パパにはちゃんと作戦があるから大丈夫だ。だからあとはまかせたからな。

 美希、愛し

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