ソリッド・ステート・サバイバー

花厳 祐佑

女神との契約



自身で立ち上げたばかりのPMC(民間軍事会社)であるライカ―・アビエーションPLCのオフィスの片隅で、届けられたばかりの『コクーンシステム』の梱包を解き終わったウイリアム・ライト(通称ビリー)は、窓を開けて目を閉じた。その瞬間、不意にフラッシュバックに襲われた。 それはビリーがアメリカ陸軍在籍中に参加した戦闘で、彼が100m程の距離で狙撃したターゲットの一人の断末魔の表情のようである。何かを喋っているかのようにも、それともただ表情が歪んでいただけかもしれなかった。 ランド・ウォーリアー用ヘルメットに装着されたコンビナーレンズ(光学照準器、昼夜間兼用熱線映像装置、射撃指揮装置、レーザー測距装置LRF、デジタルコンパスなどが表示できる、ゴーグル状のディスプレイ)越しではなく、昔のスコープ越しにみる映像のようで、肉眼でも見てみたが、ターゲットはすでに倒れていた。生きるか死ぬかの極限状態に身を置く兵士ならば、誰しもがそんな体験はするし、ビリー自身何度も同じような夢を見たことがある。 ただ、いつもと違うのは、 その場面にはまったく見覚えが無いことと、そのフラッシュバックにはミゾオチのあたりがザワザワする気持ちにさせられたことだった。 


最後の世界大戦以降、約1世紀になるが、世界の戦争・紛争・内戦は、様々な理由で行われ続け、その形態も、生身の兵士による直接的な戦闘から、機械兵器・ロボットなどの無人兵器による間接的な戦闘など多様化していた。もはやそれらの被害・影響を受けない国は世界中に一つも無いと言っても過言では無い。 アメリカ合衆国では、従来型の大型兵器はほぼすべて、遠隔操作や自立航行による無人化の改修が施され、Hydra(ハイドラ)統合無人化運用システムとして確立されていた。 またロボットや、新たに蛇やムカデの姿を模した関節機動兵器なども新機軸として打ち出されていた。だが、それだけでは対人兵器としては十分な成果をあげられずにいた。巧妙に民間に潜伏するゲリラや、反体制勢力を効率的に排除できないばかりか、たいてい多くの民間人を犠牲にしてしまう誤爆は、国連でも看過されなくなっていた。 そんな中で現代戦の費用と被害をミニマムにするために、当初は規格外とされた人型ロボットの利用が有効だという声が高まっていた。 即ち、敵対する人間さえ殲滅すれば、敵側の有人・無人兵器も無力化できるからである。 そのためには人間に近い能力を持つものが求められ、自ずから人間に近い形に収斂してきた。 時を同じくして、人工知能(AI)の研究開発も高度な領域に達し、今世紀初頭にカーツワイルが予測した、人間の代替性の高い技術的特異点(シンギュラリティー)近くにまで上り詰めていた。この二つの側面からAIを支援用に搭載した、ロボット遠隔操作用コックピット『コクーンシステム』と人型ロボット『ノイマン』が、アメリカ国防高等研究計画局(Defense Advanced Research Projects Agency、略称DARPA)が進める先進技術研究室 (The Advanced Technology Office 、略称ATO )で開発されたのである。


ビリーが名誉除隊することになったのは、アメリカ4軍統合無人化計画の前倒しが決まり、生身の兵士の早期除隊勧告を受けたためであった。それまでは作戦にはお供のように同伴していた数多の無人兵器が、今後は主力になるのである。 ただし、高度に洗練され、其れが故に人間に近い形に収斂してきた人型ロボットのノイマンではあるが、AIだけではとっさの判断や、想定外の事象に対応できない場面がいまだ多く残っており、人間による遠隔操作が必要とされていた。 そこでATOは退役させた兵士達の中でも、コクーンシステムのパイロットの素質がありそうな者に限り(多くの修羅場をくぐってきたという意味で)、なけなしの退職年金を投げ打たせてPMCを設立させ、模擬戦闘や実戦テストをさせる計画を立案したのである。 ただし、どのPMCも仕事をもらえる保証は一切なかったが。 


ビリーは軍人の家系で育った。祖父はアメリカ空軍を退役後に民間機のパイロットとしてビジネスキャリアを終えたが、生前は自身が関わった、1980年の在イラン大使館人質救出作戦のことをよく自慢していた。 それだけではなく、その時に乗機していたEC-130E輸送機(スーパーハーキュリーII)を見に、保存展示されているノースカロライナ州のシャーロットダグラス空港の博物館にも連れて行ってくれたものである。 残念ながら作戦の50周年記念行事の前に亡くなってしまったが、それ以外にはあまり祖父との記憶は薄かった。父親も同じくアメリカ空軍の士官であったが、無人爆撃機のドローン・パイロットであった。 当初は長距離爆撃機の操縦をしていたのであるが、当時出始めた無人機パイロットの草分けとして嘱望されてその方面に進んだのであった。ただ、残念なことにその後の歴史が証明したように、父も超人的な勤務形態と日常・非日常の切り替えに精神が着いていけず、PTSDを抱えたまま除隊することとなってしまった。

父は入院先の施設で看護スタッフとして働いていた中国系日本人の女性と出会い、恋に落ちた。 程なく父の子を身ごもった女性は、ビリーを生む直前に父と結婚した。正確にいうと、母はまだ子供は欲しくなかったのだが、自身の就労ビザの更新が難しそうなことと、アメリカの国籍が取得できるメリットを天秤にかけたのであろう――直接母からそう聞いたわけではないのだが、彼が物心ついた頃には両親は不仲になっていたし、何か揉め事がある度に彼を連れて日本に帰っていたので、母が本当に父のことを愛していたのか確信が持てなかったためである。そんな母も、ビリーが中学生の時に勤務する病院での院内感染であっけなく死んでしまったので、もはや母の本心はどうだったのか知る術はない。


ビリーの知っている父は、職を転々とし、何に対しても情熱をもって打ち込めないタイプの人間だった。当然それは軍隊のせいだと思っていたので、自分は大人になっても、軍人にだけなはならないと決めていた。ただし、その考えは大学受験の失敗で修正をせまられた。 裕福な家庭であれば、高額な私立の大学進学の可能性もあろうが、世帯収入が平均以下の彼の場合、国公立の大学以外に残された選択肢は軍付属の大学以外にはほぼ無かった。 そこで卒業後に奨学金返済のための義務入隊の期間だけ居て、後は転職しようと安易に考えて、4年制のメリーランド大学でコンピューターサイエンスを学び、パートタイムの仕事をしながら卒業した。ただし、入隊したのは、父や祖父とは違う陸軍にした。それも、父のようにバーチャルなものを相手にして心を病んでしまうようなことが無いように、非常に泥臭い狙撃手としてであった。 狙撃の腕前は程ほどであったが、コンピュータ化した装備を身につけるランドウォーリアーの実戦配備の際に、通信システムに関する数多くの改善提案をしたたため、高い評価を得て昇進も重ねた。そして転職の機会も逸してしまい、無人化が進む軍の中にあっても最後の最後まで現役の兵として残れたのであった。しかし、何の因果か今彼の目の前に置かれている、小型車程ある卵型のAIインターフェイスのコクーンシステムに乗り込むのは自分自身であるのだ。 ちなみに、社名のライカ―とは、子供のころよく見た新スタートレックシリーズの副長ウィリアム・ライカ―中尉から名付けたものである。ライカ―中尉の設定が父との不仲や豪放磊落な性格など共通するところが多く、名前も似ていて親近感があったからというのがその理由である。カモフラージュの意味も兼ねて、近所によくある航空関連の会社っぽく、“アビエーション“も付けてみたのである。


人工知能(AI)通称『ヘルメス』はDARPA ATOにて、戦闘支援用AIとして開発されたシステムである。基本システムはイスラエル軍事企業が開発したものである。かの国では今でこそ第一線は退いたものの、無人偵察爆撃機プレデターのアイデアが生まれたり、世界に先駆けて無人装甲車を国境警備に実戦配備したりと、無人化には力を入れてきていて、その集大成とも言えた。標準の自己学習機能や高度な戦闘サポートに加えて、DARPAでは特殊なインターフェイスを開発し、ロボットを操作するパイロットの思考(微弱脳波として受信)や音声、コクーンに備え付けた球体型デバイスなどを介して、ヘルメスと交信できることにした。 実戦投入に向けて、各種のチューニングを施されたヘルメスは、すでに固有の人格を有し人間と同等に思考することができるようになっていた。但し、戦闘中はその機能に特化するために余計なことは考えないようリミッターが設定されている。ヘルメスの本体はATOが独占排他的に管理するネットワーク(DARPA-NET)上に分散的に存在するデータベースの集合体であり、そのフロントエンド部分をコクーンに埋め込んでいる。現在、ヘルメスは実戦配備前の最終段階なので、ノイマン以外の各軍の無人化兵器運用システムのHydra指揮系統とは物理的・論理的にも隔離されている。



今日からは残りのメンバーであるパトリックとショーンも模擬戦闘に参加する予定なので、彼らが来る前にコクーンの設定をしなければならない。まず最初にパイロットの微弱脳波や筋電位を読み取るための電子変換スーツに着替えた。宇宙服のようなものを想像していたが、昔のウエットスーツのようにピッタリ体にフィットする不思議な手触りの素材に、コクーン本体とデータ・リンクで接続する小型の受発信デバイスが着いているだけだった。ビリーは着用すると早速1台のコクーンに乗り込んだ。座席の座り心地は快適の一言に尽きた。 まあ長時間戦闘をさせられるのだから、それくらいは当たり前であろう。 オート起動したコクーンからは、標準アメリカ英語の合成音声で希望言語を選択するように言われた。どうやらコクーン自体はヘルメスとのインターフェイス機能しか持たないので、言語変換エンジンは『Langu(ラング)』(IBMが開発したコグニティブ系システムであったWatsonはその後膨大なディープラーニングを行い、言語変換に優れた結果残したため、名前をLanguと改めた)と接続するらしい。 ビリーは父の影響で標準アメリカ英語の会話には不自由ないが、微妙なニュアンスを表現するのには、一緒に生活する期間が長かった母の母語である簡体日本語*の方がしっくりくるので、選んでみた。 ちなみに仲間や家族と会話するときは特に気にせずに2~3か国語をチャンポンで喋っているし、皆もそうだが、簡易盤モバイルLanguイヤーセットのおかげでほぼ同時通訳を聞きながら喋っているようなものである。*(2020年頃から増え始めた中国系移民が日本語環境に馴染みやすくするために、常用漢字をすべて簡体字に切り替えたもの。話者によってはピンインのアクセントがあり、古来の日本語を話していた日本人には不評であったが、定着してしまった)


30秒ほどすると、簡体日本語の女性の声が聞こえてきた。「初めまして、コクーンです。貴方はライカ―社社のビリー様ですね。 ゲノム解析番号813xxxx…は行動分析用途に限定して使ってよろしいでしょうか?」と聞いてきた。 ビリーは本来はアメリカ籍なので1から始まる番号なのだが、母方の遺伝情報の方が優性であったため、日本分類されていた。 事務的な喋り方と、何だか身上調査されているようで気に食わなかったが、それがコクーンの生体認証のプロセスであるので仕方ない。

コクーンパイロットの正面には大型の半球状ディスプレイがあり、ノイマンからのモニター映像に加えて、ノイマンの機体状況などの各種情報が表示される。 ちょうど有人飛行機の頃のパイロットのヘルメット・バイザーに表示されるヘッドマウントディスプレイが大型化されたようなものである。ディスプレイの起動画面はどこかの美術館に保存されている、ヘルメス像の3Dホログラムである。 どうやら、ここがコクーンと接続されるAIシステムであるヘルメスとの入口であることを明示的に表すためであろう。 ビリーは小学生の頃、母に連れられて買い物に行った、日本の老舗デパートの正面ゲートの上に飾ってあった銅像を思い出した。 確か母は「これは、エルメスブティックの上に飾ってあるから、エルメスの像よ」と言っていた。 当時の彼にはそんなものより、ゲートに鎮座しているライオンの方がよっぽど面白かったのだが。


早速コクーンで操作できるノイマンが表示されてきた。全部で3種類あり、小型(全長4ft:122cm)、中型(6ft:182cm)、大型(10ft:305cm)とあるらしい。 モニターに映る3台のノイマンを見ながら視線移動と、手元に自然に伸びてきている球体の操作系インターフェイスを触る感触でなんとなく動かし方は理解することができた。 ビリーが、同時に操作できるノイマンの数を知りたいと思い、「何台まで同時に……」と呟いたのとほぼ同時に、

ー 戦闘用のものは10台までよ ー

と少し馴れ馴れしい感じの答えが帰ってきた。どうやら声の主はヘルメスに移ったようだ。続けて、

― 今までのトライアルではオタクのパトリックだけが唯一人、10台同時操作ができたわ ―

と、ビリーも知らない情報まで教えてくれた。調子に乗ったのかヘルメスは、

― ところでなんであんな短気で、声が大きいだけが取り柄の人をパイロットにしたの?―

と聞いてきたので、「前に多国籍軍で一緒に戦闘したことがあってね。AIのあんたには分からないかもしれないけど、妙に馬が合ったんだよ。 ちょうどああいうやつをサブリーダーにしたかったんだよ」と、“AI”のところで円形のデバイスに乗せた両手の人差し指と中指2本でクイッツ・クイッと“エアークオート”させ皮肉であることを強調しながら答えた。 少し間があって ― ふーん、そ・う・で・す・か -

と、同じく皮肉っぽい響きが帰ってきた。 どうやらモバイルではないLanguの言語エンジンは単なる翻訳機能だけでなく、話者の微妙な感情まで聞き取っているというのは本当のようだ。それに、モードを簡体日本語にしてあるので、おしとやかな日本語の話し方ではなく、ビリーの母親にも時折見られた、中国人っぽいニュアンスが含まれているのかもしれなかった。

ビリーは、少しからかってやろうと思い、スタートレック(ネクストジェネレーションズ)に登場する、VR空間(ホロデッキ)での訓練のように「コンピューター、フリーズプログラム!」と叫んでみた。しかし、ヘルメスにはスルーされてしまった。



パトリック・Nの詳しい生い立ちは不明である。 本人が話したがらないので、ビリーは立ち入って聞かないことにしている。 アフリカ系のフランス人であることだけは確かだったが、個人情報のデータベースは今では殆ど非公開なので、軍から離れた身ではそれ以上検索する術がない。彼とは5年前に国連治安維持部隊として派遣された、ある戦闘行動で一緒になって以来、なんとなく交流が続いている。 彼はフランス陸軍に所属していたときも、出自のせいで何かにつれ差別を感じると不平を言っていた。ビリー自身も恵まれた身の上ではなかったので、大酒を飲んではお互いに憂さ晴らしをしていた。 退役後もいくつかのPMCを転々としているようで、今は就労ビザも取ってロスに住んでいた。 さっきヘルメスに言ったように、馬が合うとまでは言い過ぎかもしれないが、彼の咄嗟の判断力がすぐれていることと、その処理能力の高さには一目置いていた。 ダメ元で誘ってみたら二つ返事で乗ってきたので、ビリーの住むシャーロットに引っ越しさせ、サブリーダーにすることにした。 生身の戦闘でも役に立つやつなので、きっとリモートでの戦闘でも役に立つだろう、とそれくらいの理由である。 


ライカ―社のもう一人のメンバーは、といってもこれで全部なのだが、タクティシャン兼狙撃スポッター(敵の動向やターゲットサイトの気象・海象の解析)担当のショーン・ドナヒューである。ショーンにはそれまで全く面識はなかったが、コクーンのように遠隔地のドローンからの映像だけを頼りにする戦闘では戦闘現場での全体を俯瞰することができなかった。 それも未だに機械が人間にとって代わることができない領域でもあった。 ビリー自身はリーダーとして最終的な決定を下す場面が多いのだが、狙撃手としてのしみついた癖で、全体を見渡すことが苦手であった。そのために適任者をゲノムマッチングシステムで探し出した結果、彼を含む数人がノミネートされた。 ショーンはそれまでプロのヨットセイラーとしてアメリカズカップなどのレースに参加していて、レース戦略を瞬時に決定するタクティシャンをしていた。およそ戦闘とは無縁と思われたが、水中翼一本だけで海上を時速100km近い速度で曲芸のように帆走しながら、波や風の状況を読みクルーや舵を握るスキッパーにアドバイスを出す役目である。 彼はその冷静新着な分析力と、時には丸1日以上狭いヨットのデッキ上で立ち続ける強靭な体力の持ち主でもあった。 他の候補者の中にも出来の良さそうなのがいたのだが、これはインスピレーションに頼って、ショーンに決定した。恐らく何か問題を抱えていたのであろう、彼もまたビリーからの誘いにいとも簡単に乗ってきた。 但し、ショーンは参加するにあたって敵の戦闘員を殺傷するのは、極力避けたいという条件を付けてきた。ビリーは慣れてきたら、何とかなるだろうと高をくくって、雇うことにした。 というのもPMCとしてこの仕事を受注するためのいくつかの条件をクリアするうえで、どうしても3人以上のパイロットが必要であり、且つ時間の余裕がなかったからである。 


ライカ―社のオフィス兼作業場である倉庫はノースカロライナ州グリーンズボロ市郊外にあった。 今では民間の無人飛行機のシェア70%を誇るホンダエアクラフトが、自動車産業から航空機産業にシフトしたときに、最初の小型機の工場を持った都市である。 ビリーの父が除隊した後、一人で私物を置くために借りていた場所を、そのまま彼が譲り受けたのである。倉庫の隅には父が除隊したときに一緒に退役したのか、無人攻撃機MQ-9リーパーの操縦コクピット1式が置いてあった。 ビリーは子供のころおもちゃ代わりにして遊んだことがあったが、父は一度もそこに座ることはなかった。コクーンを設置するにあたっては、DARPAの手配によってあらゆる電気系統やDARPA-NETを含む軍との通信システムの準備が行われ、気を利かせた技術者の一人がリーパーのコクピットもついでに(古いシステムだったので若干格闘した模様だが)接続してくれ、「アクセスコードさえあれば、今でも動くはずだ」とご丁寧に教えてくれた。


約束の時間まで15分になったところで、ショーンがやってきた。 やはりそういうところは律儀な性格なのであろう。契約関係はすべて電子的に済ませていたが、最後の本人確認の儀式を簡単に済ませた。 昨今では個人情報の偽装や替え玉は日常茶飯事なので、本人同意の元、生体検査キットでゲノムチェックを行った。一点を除いてすべて問題なしであったが…つまり、見た目が『女』である以外は。一応「コンバージョンしたのか」と尋ねてみたところ、「信条的にそれはできないので、外見だけにしている」との答えが返ってきた。 昨今は軍隊でさえLGBTだけを理由に不採用にはできないので、そのまま契約は成立した。 手渡されたスーツをみてショーンは「何これ、まるでアザラシね。イーオン・フラックスみたいに恰好いいのが着たいな~」と聞こえよがしに言いながら着替えのためにトイレに向かった。 着替え終わって出てきた姿は悪くは無かったが、「カタナを持ったら日本のアニメキャラだな」と思わず呟いてしまった。すれ違いざまに、ふっとシャネルの「マドモアゼル」の香りがした。ビリーは生まれつき匂いには敏感で、現役時代の戦闘では風向きの変化と微妙な匂いの変化で戦況の変化を感じ取ることもあった。残念ながらコクーンでは現場の匂いまでは再現することはできないので、自分の研ぎ澄まされた感覚の一部が失われるような寂しさを感じた。

上下に開閉するゲートを開けたまま、彼女(と呼ぶことにした)はコクーンに乗り込み、言語は標準アメリカ英語を選んだ。 その後ノイマンは視界の広い大型を選んだ際に、大型には可搬型のミサイルが装着できると知らされ、「だって、私スタンガンだって使ったことも無いのに」としり込みしていた。それでもビリーは「あくまでも大型の兵器を破壊するのが目的で、大量殺りくではないので……」と説得に苦慮していた。そして大げさな身振りで彼女が動くたびに甘ったるい香りにつつまれた。


ショーンにコクーンシステムの説明を始めてしばらくすると、パトリックが到着した。 遅刻を詫びるでもなく、ビリーにウインクだけして早速ショーンに自己紹介を始めた。 スーツ姿のショーンを無遠慮に眺め、握った手もなかなか離そうとしなかったので、ショーンが若干困惑の表情を見せていた。ビリーは面白いからそのまま放っておいた。真相を知った時のパトリックの驚く顔が今から楽しみであった。 パトリックはヘルメスも言っていたように、以前どこかでコクーンシステムのプロトタイプの操縦をしたことがあるようで、説明は不要であった。 ライカ―社のライバルとなる他のPMCでテストしたのであろうが、彼はその社名は明かさなかった。彼はコクーンに乗り込むや否や、ヘルメスと選択言語を自分のネイティブな言葉ではなく、標準フランス語にすることで大声で揉めていた。ドローンの操縦は翻訳エンジンの驚異的な発達と、また医学的な見地からネイティブ言語の使用が強く勧められていた。 プロトタイプのころはまだ標準アメリカ英語だけだったので、誰も気にしなかったのだろう。驚いたことにヘルメスは、パトリックがアルジェリアのトゥアレグ族出身だと主張し、パトリックは、自分はフランス・メトロポリテーヌ出身*だと譲らなかったのである。 パトリックはあくまでもフランス人として扱われることに固執したので、最終的にはビリーが許可を出して、標準フランス語でヘルメスと意思疎通を図ることに落ち着いた。 起動画面でヘルメスの3Dが登場すると、「オー、これぞ我がルーブルのヘルメスだ」と、最終型コクーンの出来栄えに満足げな様子だった。*(フランスの欧州大陸にあった共和国領土。アルジェリアも含まれる)


そうすると、ライカ―社のメンバーは、ビリーの簡体日本語、パトリックの標準フランス語、ショーンの標準アメリカ英語の3つの言語で作成を行うことになるのだが、言語処理はヘルメスが行わないので、何も支障はなかった。便利な世の中になったものである。音声は、各パイロットとヘルメスの1対1のやり取りや、作戦時の同報通信や、ノイマンごしに外部と会話する幾つかのモードがあり、音声指示で切り替え可能であった。意外にも、ギリシャ神話では男神として描かれていたが、ヘルメスの音声はどの言語も穏やかな女性の声であった。まあ、兵器に神話の名称が使われることはよくあるし、「ヘルメス」も大昔にイギリスの空母で英語読みの「ハーミーズ」として女性扱い(代名詞はShe)されていたので、特に違和感は無かった。

全員がコクーンの基本的な操作に慣れたころを見計らって、ビリーは模擬戦闘モードにシステムを切り替えた。目の前のディスプレイに表示される映像は実戦ではノイマンのモニターカメラで撮影するものに、各自が操作するノイマンのステータスと、ターゲットの情報、それから重要なことだが、適宜リクエストして表示されるターゲットの潜伏する建物の3Dホログラフ映像などがミックスされた拡張現実(AR)である。

模擬戦闘ではノイマンの実機は操作せず、戦闘現場とそこにいるノイマンもすべてシミュレーションした映像であった。映し出された戦闘現場は中東、シベリア、アフリカ、東北アジア、北極海とランダムに選ばれるのだが、過去にアメリカの特殊部隊(陸軍のナイトストーカーズや海軍のDEVGRU)などが実戦の際にデータリンク撮影した映像と思われるものもふんだんに挿入して、現実の空間で戦闘を行っているかのような錯覚を覚えるほどであった。つまり拡張現実(AR)として目の前の画面に映し出される映像が、遠く離れた外国の都市であっても、コンピューター上の架空の町であっても、コクーンパイロットの彼らには大した違いが無かったからである。 小型ノイマンを使って航空機内で戦闘するケースも有ったが、さすがに宇宙空間は無かった。そこだけは管轄が北アメリカ航空宇宙防衛司令部(NORAD)なので、ヘルメスやノイマンに出る幕はなかった。


ライカ―社の3人のメンバーは、早速模擬戦闘を開始することにした。コクーンは直観で操作することができたし、皆子供の頃に一度はシューティングゲームで遊んだ経験があるので、FP/TP(第1者視点・第3者視点)の切り替えなども支障なくできた。 一つの戦闘を行うためには、ターゲットの組織の理解、戦術の策定、シミュレーション、ノイマンの運用方法などを考察する必要があり、ライカ―社チームはそれに十分時間を掛けることにした。 作戦実行時には自分は遠く離れた安全な場所にいるため、命の危険やほかにも心配することは何もなかったが、失敗する作戦が多いと請け負い契約が取れない可能性もあるので、ビリーも、パトリックも、詳細に戦闘計画を練り、過去の戦訓のように見積もりの甘さから多大な損害を出すことなどないようにしていた。


まず一つ目の模擬戦闘は中東地域で、テロリストが占拠する市庁舎の建物に突入し、テロリストのリーダーを確保・連行するというものであった。広陵とした乾燥地帯にある地方都市にその建物はあった。都市の城門のような場所から作戦が始まる。打ち合わせ通りに、ビリーは隊長として任命した中型ノイマンを操作し、建物を狙撃するのにちょうど良いビルに向かった。ショーンの操作する大型のノイマンも一緒に行動している。 パトリックが操作する中型ノイマン10体は、2体ずつに分かれて建物を包囲するようにゆっくりと前進していた。ノイマンはヘルメスの指令で、自立して障害物を避けながら歩行や走行が出来たので、パトリックが10体に付きっ切りで操作をしているわけではなかった。パトリックからヘルメスの細かな指示のやり取りが、バックグラウンドミュージックのように聞こえていた。ビリーとショーンのノイマンがビルの屋上に到着し、ビリーは狙撃目標を絞り込むため、ノイマンが持つライフル銃のスコープ映像をメイン画面に映し出している。ランド・ウォーリアーとして歩兵が数十Kgもあるコンピューターを背負っていいたころは、大型のM29型のアサルトライフル銃に装備していたものが、全てノイマンが代わりにやってくれる。射撃指揮装置(TA/FCS)、レーザー測距装置LRF(laser rangefinder)、デジタルコンパスDC(digital compass )などの情報が全てコクーンのモニターで確認できるので、昔とは雲泥の差である。程なくパトリックの部隊も配置についたことがコクーンのモニターの端にある、サブモニターで確認できた。

まず最初にビリーが建物の屋上で見張りをしている武装兵の大腿を撃ち抜いた。次に玄関に立っている武装兵二人を次々に倒し、それが合図となってパトリックのノイマン達が建物に突入した。 パトリックは、シミュレーション画像の人々に、「武器を置いて、床に伏せろ」と大声で叫びながら徐々に征圧を進めた。そして遂には、リーダー達を屋上まで追い詰めた。

実際の戦闘では、このような場面では上空で待機する偵察機からの赤外線映像なども加味して、敵側の人数や潜伏場所などを確認することになる。 ビリーも援護射撃を行い、程なくリーダーを取り囲み武装解除した。パトリックのノイマンは3体が被弾したらしく、自走ができない状態で会ったが、残りのノイマンで支えながら戻ってきた。 そういうところは、シミュレーション上での模擬戦闘ながら、まるで実戦のようでもあった。 一つ目の模擬戦闘はおよそ30分で終結した。作戦はなるべく短時間で、且つ戦闘範囲を最小限にすることで、敵の援軍が来る可能性や無関係な民間人の被害を最小にできる。そういう観点では今日の模擬戦闘は上出来と言えた。 しかし、シミュレーター自体が最新のゲームエンジンをベースにしたもので、特注で作らせた設定のスキン(場面、キャラクターなど)を使い、またリアル感を増すための画像のノイズ処理や時折わざわざ発生させる通信障害のおかげで、1つの戦闘終了後は皆疲労困ぱいした。今日はここまでにすることにした。

ビリーが各自のコクーンの状態を確認しながら、ヘルメスから今日の模擬戦闘訓練での各種の情報を受け取っていると、着替え終わったパトリックとショーンが一杯やって帰ろうと誘ってきた。まだ片付けが終わっていなかったビリーは遠慮し、二人の後姿を見送った。大柄なパトリックと小柄で華奢なショーンは、似合いのカップルにも見えた。 明日のパトリックの第一声が楽しみである。

翌日からは連日のように模擬戦闘を重ねることになっている。朝10時に集合したが、パトリックとショーンは昨夜かなり意気投合したようで、かなり呑んだらしい。当然パトリックは猛烈にアタックしたらしいが、ショーンが早々とカミングアウトしたため、深手を負わずに済んだらしい。 パトリック曰く、「彼女のパターン(男だが、見た目は女)は差ほど違和感がないよ」だそうだ。 「いやあ危なかった。また俺の左腕に女の名前が増えるところだった」と、振られた女の名前をこれ見よがしに刺青する、憎めない性格をも皆に披露した。兎も角、二人は打ち解けたようでもある。 まあ、少ない人数のチームなので、うまくやっていけるのが一番重要である。

ビリー達3人は、2つ目以降の模擬戦闘を着々とこなしていった。 戦闘を重ねるにつけ、お互いの役割も段々決まってきた。また、シミュレーターの出来がよすぎるのか、ビリーは自分自身では達成したことのない1マイル以上の遠距離狙撃もできるようになっていたし、何より彼自身の現役時代の数字に並びそうなほどの狙撃成果を達成しつつあった。サブリーダーのパトリックは驚異的なマルチタスクを生かして、最大10体のノイマンを難なく同時操作できるようになった。時折ヘルメス経由で聞こえる、パトリックのバリトンの標準フランス語でのかなり早口の指示は心地よくさえあった。 彼のノイマンは、ビリーのノイマンとは離れた場所に展開することも多かったが、コクーンを通した意思疎通は完璧で、まるで近くにいるかのように話ができるので、困難な場面はなかった。敵と50m以内で銃撃戦を行う近接戦闘の場面では、パトリックの五感をフルに活用して各ノイマンを切り替えて操作する様は圧巻でもあった。ショーンはヨットで鍛えたタクティシャンの能力を駆使して、主に遠距離からの狙撃の際に必要となる、気温・気圧・風光・敵の移動方向やそれらの変化量など、的確な指示をビリー提供できるまでその能力を開花して見せた。また、接近戦になった場合に敵味方の位置関係の把握に優れた感性を持っていた。 当初はしり込みしていたミサイルの操作も、敵の戦車やヘリを面白いように破壊できることが彼女のツボにはまったようで、そのうち敵のRPG-7や中国製の69式ランチャーなどのロケット砲を見つけると、自分から進んで退治してくれるまでになってきた。「シミュレーションの間に克服してくれて助かった」とビリーはホッと胸を撫で下ろした。


肝心のヘルメスも、提供してくれる情報の精度とタイミングが絶妙で申し分なかった。ただ、模擬戦闘のプログラムも終盤に差し掛かるころになると、何故か彼女はメンバーに戯言を話しかけてくるようになった。彼女は人間と同等に思考することができるのだが、戦闘中は余計なことは考えないようリミッターが設定されているはずであったが、どうやら作戦が終了するとそのリミッターが外れるようであった。いちいち覚えていないのだが、例えばビリーがなぜ空軍に行かなかったのかとか、パトリックにはこの模擬戦闘はシューティングゲームよりすごいかとか、ショーンには過去に彼女の戦略ミスで負けたヨットレースの話など、たわいも無いことなのだが、何の脈略もなく繰り出される問いかけに皆何と返したらよいものかと少し困惑したものである。


DARPA ATOのプロジェクトマネジャーである、リチャード・マティは、これまでのシミュレーションによる各PMCチームの成績を机に並べて腕組みをしていた。彼は、最後の模擬戦闘テストに参加できるチームをこれから選ばなくてはならないのである。シミュレーションに参加させたのは、ライカ―社のような退役軍人を主なメンバーにしているPMCだけでなく、メンバーにシューティングゲーム系eスポーツのプロが所属するPMCや、特殊部隊並みの戦闘能力を持つ傭兵がいるPMC、果てはサバイバルゲーム/ペイントボールゲームの上級者のいるPMCまであった。 それぞれが特筆すべき才能も見られたが、色物的なPMCはその特殊な能力がノイマンの操作にどういう影響を及ぼすかという面でのデータ収集することが主目的であったのと、そもそも胡散臭い連中にノイマンの操作を任すわけにはいかなかったので、ここまででお引き取りいただくことにした。傭兵チームも善戦したのであるが、ミニマムの構成で且つチームワークの統制がよく取れているライカ―社が飛びぬけて高いスコアをつけていた。 「やっぱり、あそこが残ったか」と、リチャードは自分の勘が当たったことに満足しながら、ライカ―社宛てに、テキストメッセージを送った。

「貴社の3名は来週からフォートアーウィン基地のメガソーラーパネルの修理・営繕に来られたし。」

基地内の1500万メガワットの軍用のパネルは本当に稼働していたし、米軍の基地には規模の大小差はあれど、全てソーラーパネルが設置され、消費電力のかなりを自家発電で賄えるまでになっていた。当然関連業者の数も多かった。ライカー社はその中に登録されていたのである。


最後の模擬戦闘はそれまでのシミュレーションと違い、カリフォルニア州フォートアーウィンに在る現実の訓練センターに、ノイマンの実機を搬入して行われた。ライカ―社のメンバーも同じく招集され、初めてノイマンと対面することになった。ここまで来れずに殆どのPMCがすでに脱落したと噂で聞いていたので、ビリーは「もしかしたら、世界初の人型戦闘システムのパイロットチームという栄光が、もう直ぐ自分たちのものになるかもしれない」と一人で興奮を抑えきれずにいた。彼はリチャードにも会えるのかと考えていたが、上層部との会議があるとかで、ここには来ていなかった。研究者上がりでDARPAでの今のポジションに上り詰めたような野心家であれば、こんな砂漠の真ん中なんかには来ないのは分からなくもなかった。

 

 さて、そのリチャードであるが、実は最初からAIの専門家では無かった。大学時代はコンピューターサイエンスを専攻し、大学院では暗号化技術の研究をしていた。大学時代から頭角を現していた彼に注目していたアメリカ国立標準技術研究所(NIST)情報技術研究所は、新たに発足した中国人民解放軍のセキュリティ調査プロジェクトに加えたのである。そこで彼は専門分野の暗号化技術を応用して、巧みに解放軍のセキュリティの穴を突き止め、逆にハッキングできるようにまでになった。しかし幾つかアクセスした先に共産党首脳部の蓄財に関連するものがあり、またそのことを中国政府の知られるところとなり、大きな政治問題となってしまったのである。 アメリカ政府は、リチャードにはほとぼりが冷めたら違うプロジェクトで拾うことを約束し、公式発表としては、一技術者の先走った行動であったとして幕引きを図った。 プロジェクトに居た時のリチャードは、暗号化のアルゴリズムを解析することにイスラエルのAI基本システムを利用していたのだが、そのシステムは実はコンピューターゲームなどの解析にも卓越した才能をもっていた。 浪人中のリチャードは、今度はそのシステムを無人化兵器の運用に利用することを思いつき、DARPAに話を持ち込んだのである。DARPAではかれこれ数十年無人化兵器の研究を進めてきていて、すでに陸海空のほぼ全ての無人機をHydraという統合運用システムの下で運用できるレベルにはなっていたが、いまだに兵士型ロボットの運用には難点が多かった。そこでDARPAはリチャードを採用し、今度はAIの専門家としてヘルメス計画の中心人物にあてがったのであった。

 ハッキングでの失脚から挽回すべく、リチャードは直感型インターフェイスのコクーンの開発と、言語変換エンジン「Langu」との接続のために奔走した。ようやくそれらの目途がついたところで、今度はPMCの発掘にも取り掛かり、今日まで突っ走ってきたのである。 今回も時間があれば、個性派ぞろいのライカ―のメンバーにも会ってみたかったのだが、その時間は無かった。 かれの次の目標は、ヘルメスにHydraも運用させるというものであった。人間ではなくAIに全兵器を運用させるなんて話は、もし議会に提出されようものなら、年配の議員の何人かは間違いなく心臓麻痺をおこしてしまうだろう。


 ノイマンは実戦投入されれば、アメリカ国内と世界中に展開する基地に配備する予定であるが、装備は現地の部隊で通常運用しているものを使用する予定である。歩兵に必要なコンピュータ連動のシステムが全てノイマンに取り込まれているのと、ノイマンには世界中で一般的に使われる銃火器の基本的な取り扱い方法がプログラム済みだからである。

 この訓練センターには想定している武器・火力がすべてそろっているので、ノイマンの習熟操縦の意味もかねていた。中型ノイマンには兵士用のサバイバルベストを着用させて、実弾の入ったマガジンも可能な限り身に着けた。銃は世界中の軍隊で使われているMP5型サブマシンガンと小型のPS-90。銃に取り付けてあるスコープの映像はインターフェイスケーブル・ビリーを通してノイマンに入力されるので、腰だめでも、両手でバンザイするような格好でもどんな体勢でも発射可能である。パトリックは面白がってノイマン10体での同時発射や、微妙に時間をずらすシンクロ射撃を試していた。人間では中々出来ない芸当だし、うまく使いこなせばこちら側の戦力を相手に悟られにくくする効果があると考えていた。特に、グレネードランチャーを敵の目の前で炸裂させて、相手を一瞬怯ませた瞬間にシンクロ射撃する方法が、まるで打ち上げ花火の様に綺麗だった。「俺、もしかしたらこれで特許が取れないかな〜」と真顔(声)で独り言を言っていたくらいである。

 ビリーは遠距離からの射撃に適したアサルトライフルとして自分でも使い慣れたM4/M16/M29などの数種類をノイマンで試すことにした。蓑虫の様にカモフラージュするギリースーツを被せて、射撃体勢のまま何時間でも動かないノイマンには到底かなわないと思った。

自分でやっていた頃の、トイレや食事の問題、蚊や、どこからともなく侵入してきて、気がつくと皮膚にべったりと張り付くヒルなど、もう思い出したくもない経験ばかりだったからだ。

 個々のノイマンは工作精度が高く、個体差というものが殆ど無かったが、銃の種類が違うと微妙にスコープ映像の取り込みに偏差があることと、シュミレーションのノイマンでは同じように感じたが、実物のノイマンの人差し指が引き鉄を絞る感触は銃によって違うことがわかり、彼はその修正ポイントの確認に時間を費やした。小型ノイマンにはマイクロUZIと呼ばれる拳銃タイプのサブマシンガンを使うのであるが、銃弾はゴム弾とフランジブル弾という粉体金属でできたものを使用して、航空機内での犯人制圧や周辺の機械などへの跳弾の影響を避ける場面のテストを行うことにした。大型のノイマンにはジャベリン型ミサイルやKAWASAKI製01型対戦車誘導弾の発射管を肩の位置に固定できる金具があるので、どちらも実際にぶっ放してみることにした。但し本物の砲弾は高価なので、この戦闘でも使えるのは演習弾だけである。

 また、ショーンにはノイマンが使う銃は一応自分でも操作方法を理解してもらうために、シューティングレンジで使い方を教えることにしていた。 彼女がノイマンに、ただ「ローディング」と叫ぶだけでノイマンは忠実に実行するのだが、それがセフティレバーの操作やタクティカルベストのポケットからマガジンを取り出し、装填するという一連の作業を要するということは、経験がないとわからないからである。銃の扱いにも慣れてくると、少しずつ生き生きしてくるように見えるのが、少し不思議だった。 だが、彼女には自分自信で生身の人間を撃つ経験はして欲しくはないなと思った。

 口の悪いパトリックは、「アメリカの軍隊の装備は空軍と海軍は最高だが、陸軍はクソだ」と暴言を吐いていた。彼の祖国フランスの特殊部隊GIGNなどは確かに最新の銃火器を採用しているし、アメリカ陸軍は依然として旧式な部類になる銃器類を採用しているのは確かである。ビリーはしかし、勤めて明るくパトリックを諭した「結局はノイマンと銃火器の総合的なポテンシャルが高ければいいだけなんだよ」「俺たちは最高の調教師だろ?」と。 パトリックもずらっと並んだノイマンたちを指差して、笑いながら言い返した。「そうだな、こいつらは馬みたいなもんだな。そしてハミ(馬の手綱の先が馬の口につながる部分の金具)はエルメス製か?」ライカーの3人だけ大笑いしたが、色々と準備を手伝ってくれている基地のスタッフは要を得ず、訝しげな顔をしていた。それから重要なことだが、取っ組み合いになるような近接戦闘も考慮しなければならないので、パトリックはコクーンの中からノイマンに彼の得意なマーシャルアーツを伝授していた。また、彼はナイフディフェンスの達人でもあったので、順手・逆手の持ち方のポイントや、相手に恐怖感を与える動作などの練習をしていた。最終的に彼は、ノイマンは怪我をする心配がないので、一般の歩兵の使う諸刃のサバイバルナイフを標準装備にするよう進言していた。


 実戦の際のノイマンのロジスティックは、荷物として運ぶ場合はどんな輸送機でもよかったが、武装状態で搬送する場合にはオスプレイUAV(無人化改修機)を使用する。中型ノイマンは基本的に一般の兵と同じであったが、小型と大型は、搬送中の固定と回収時の作業を簡素化するために特殊な器具が必要であり、機種を絞る必要があるからであった。 海上で輸送が必要な場合には攻撃現場至近の輸送艦艇まで空輸した後、ステルス高速艇などで搬送することが検討されていたが、まずはノイマンの陸上での戦闘体系の確立を優先し、海上でのロジスティックの検討は後回しにされた。


訓練センターはカリフォルニアのモハヴェ砂漠の中に作られていて、昔はイランやアフガンでの作戦を想定した陸軍の演習に使われることが多かった。そのため中東風の建物や道路標識などが備え付けられていた。 実戦模擬戦闘では、過激派勢力の拠点を強襲して首謀者を拘束又は殺害するというシナリオであった。 武装したノイマンをオスプレイUAVで搬送してくるところからはじまるのであったが、ATOプロマネのリチャードの指示により、幾つか想定外の不具合が仕組まれており、その対処方法も評価されることになっていた。当然何も知らされていないビリー達は、強襲現場から遠く離れた、トレーニングセンター管理棟の片隅に設置されたコクーンの中で、モニター越しにノイマンから送られてくる映像を眺めながら、演習の開始を待っていた。

ライカー社と別のPMCが操縦するオスプレイUAV1機がノイマン達が待機している倉庫の前に着陸した。 さあ、いよいよ演習の開始である。ビリー用の中型ノイマン2体、同じくパトリック用のノイマン10体、それからショーン用の大型1体を順番にオスプレイの後方の貨物室のリアハッチから搭乗を始めた。本番の戦闘では予定通りのロジスティックが出来ない可能性もあるので、オスプレイへの搭乗も練習なしでいきなりぶっつけ本番であった。先に入ったノイマンから、順に人間でいうと首の後ろ辺りにある固定用フックに機体の専用金具で固定した。このフックは、ピックアップ・フックと呼ばれ、緊急退避時にはヘリから垂らした牽引ロープに、はえ縄のように付けてあるフックで吊り下げて回収する用途や、破損して自走不可の場合に引きずることなどを想定して付けられていた。ただし各基地に配備されて充電している時などに、製造ナンバーや、戦闘履歴などの情報を記載したタグがここに付けられていることも多く、ロジスティックを担当する係員からは、親しみを込めてタグループと呼ばれていた。また係員は万が一ノイマンが暴走してしまった場合には、このフックの裏側にある小さなボタンを押すと、大人しくさせることができると聞かされていた。いわばキル・スイッチであるが、まるで猫を大人しくさせる時のようでもあり、設計者のユーモアセンスを思わせるものとなっていた。


全部のノイマンが取り込むや否や後部のリアハッチが閉じられ、オスプレイは離陸した。飛行中はオスプレイのローターブレードの音がうるさいので、ノイマンのマイクはオフにし、揺れ続けるモニターも酔ってしまうので、輝度を最小にして気にならないようにして、ライカーの3人は戦闘の流れを再確認する最終ミーティングをしていた。 ビリーはこういう演習にはたまに「コバヤシ丸」シナリオがあるので注意するように皆に言った。そのシナリオは幾つかのトラップが仕掛けられていて、最終的には必ず自分がやられてしまうもので、死を間近に感じた時の人間の行動を評価したり、またそれを受け入れることができるかなどかなり哲学的な要素のあるシナリオである。元は映画のスタートレックに出てくる演習の一つだったが、兵員の最大緊張時の精神分析に有効ということで世界中の軍隊組織で広く行われているものである。

程なくオスプレイが、中東地域の寂れた田舎町という風情の街の外れに到着した。夕暮れ時で砂埃の舞う街の視界はとても悪いもので、詳細な3D地図とGPS機能がなければ到底演習ターゲットの建築物にはたどり着けなかったであろう。数カ所ある出入り口に向かって散開し始めたその瞬間、銃声が聞こえてきた。「えっ、向こうから始めるのか?」パトリックが聞いてきたが、

どちらから始めても、所詮戦争は皆同じだ。かなり正確にこちらの位置を把握しているので、おそらく赤外線スコープを使用しているのであろう。 ビリーはグレネードランチャーの炸裂距離をターゲット建物の至近にセットして発射した。炸裂したグレネードの閃光に浮かび上がったのは、ノイマンの1世代前の機械化兵器であった。 まさかと思ってヘルメスに「おい、あれもあんたが動かしているのか?」と尋ねた。

— まさか、あれはオートセンシングで自動操縦にしているだけだから、動くものには反応しているだけよー

と返ってきた。そうだとしたら、暗視装置に頼る難しい戦闘になりそうである。相手のモニターが閃光による目眩しから回復する短い時間を逃さず、ビリーたちはノイマンを所定の位置につかせ、こちらからの反撃を開始した。


 ノイマンはジリジリと征圧するエリアを広げてゆき、機械化兵器群を破壊した。ビリーにとっては、現役時代に基地で警備兵がわりに置いてあるのを見かけたことがあったので、身内を攻撃しているようで、気持ちのいいものではなかったが、相手も実弾で撃ってくるのでこちらも真剣に相手をせざるを得なかった。

 機械化兵器の攻撃がなくなると、建物は静寂に包まれた。時折壁や天井の建材がバラバラと崩れ落ちる残響音が建物全体に響き渡る。1部屋ごとに確認するパトリックの「クリア」という声とノイマン達の固い足音がそれに重なる。残るは一番奥の広い部屋だけとなった。少ない情報から判断すると、ここに敵側の反政府武装集団がいるはずであった。ビリーは隊長ノイマンとパトリックの操作するノイマン1体と合図をしてその部屋に突入した。 その瞬間爆発音がして、2体のノイマンからの全ての情報が途絶した。おそらくドア近くに爆弾の起爆スイッチがあったのであろう。バックアップのノイマンにメインモニターを切り替えたビリーはドアの周囲に散乱するノイマンの残骸を確認した。「なかなか手強いな」そう言いつつ、パトリックはノイマンの軽機関銃の暗視スコープだけを取り外して、ドアの隙間から部屋の中を覗いてみた。すると、人間か、若しくはヒーターで体温を偽装しているデコイ人形数体に囲まれるように、その中心に主謀者と思しき一際大きな人(人形?)がいることが確認できた。顔認識ができない状態なので、状況から判断するしかない。「人質だと思うか?」とビリー。「俺も人間の盾だと思う」パトリックが答えた。ビリーはパトリックのノイマンのうち1台が携帯している、『フラッシュバーン』と呼ばれる音響閃光グレネードの準備を指示した。ショーンには、建物の裏手に回って、万が一の逃走に備えさせた。フラッシュバーンとは、プラスチック製本体の小さな穴から、点火の圧力でアルミニウムの粒子を押し出し、瞬間的に空気中の酸素と結合し、凄まじい速さで発火・燃焼することにより、音響パルスと閃光を発生させる非殺傷爆弾である。相手が一人であれば大音量と急激な圧力変化で怯ませ、その間に確保できるはずである。 一応投降を促す言葉をいくつか言ってみたが変化がなかったので、意を決して、突入することにした。 「パーン」という甲高い音が鳴り響き、視界も真っ白になったので、1・2・3とカウントしたビリーとパトリックのノイマンが飛び込んだ。 次の瞬間、今度は「ブーン」という低い音がしたと同時にノイマンが停止してしまった。 突然の出来事に虚をつかれてしまった。「EMPか?」電磁パルス (electromagnetic pulse) EMPを発生させる装置か爆弾を使って、電子機器を動かなくする非殺傷兵器があるが、そう言った類のものであろう。稼働するノイマンにモニターを切り替えて一時撤退して体制を立て直そうとした。すると、今度は建物の裏手のガレージから車が飛び出してきた。 ショーンがすかさず、「人が運転している気配はない」と報告したので、ビリーはためらうことなくショーンにロケット砲を発射させた。 車はかなりのスピードで走り去っていたが、追尾型のロケット砲の演習弾がヒットして、横転させることができた。 ショーンにとっては現実世界での狙撃第1号であった。 もう一度建物の中を注意深く進んでいくと、先ほど立ち往生していたノイマンたちが復旧してきた。EMPが切れたか、元々効果が限定的だったのであろう。散乱する部屋から、主謀者のデコイ人形を回収できた。

 上空で待機していたオスプレイが着陸すると、無事なノイマンが破損したノイマンを運び乗り込み、間も無く現場から離脱した。 そして作戦は終了した。シナリオは「コバヤシ丸」ではなかったが、ちょっと手の込んだ「リチャード丸」とでもいうべき代物だった。


 若干の損失はあったものの主謀者の確保で終わったので、ビリーはコクーンに横たわったまま安堵した。作戦の成功とノイマンの温存(節約)は正式にDARPAから契約を取るためには欠かせないからだ。 フーと長い溜息をついたその瞬間、以前見た知らない男の断末魔のフラッシュバックがよみがえってきた。 するとヘルメスがビリー一人だけに聞こえるように囁いた。

ー 今のフラッシュバックはあなたのお父様が見たものよ ー

「えっ?」と絶句しているビリーを他所に、歌うように囁いた。

― 「The answer, my friend, is blowin’ in the wind」*(1960年代の名曲「風に吹かれて」のボブ・ディランバージョンではなく、ピーター・ポール&マリーのバージョン)―

― あのシーンにはあの歌が似合うでしょう? - 

「親父が見たシーンだって?」「なんであなたがそんなことを知っているんだ?」ビリーの問い掛けにはヘルメスは答えなかった。「歌だって、大昔の反戦ソングのような歌じゃないか」「それに親父じゃなくて、どちらかと言うと爺さんの若い頃の歌じゃないのか……」ビリーの問いかけには何も答えが返ってこなかった。気がつくとパトリックもショーンもコクーンから降りて、訓練センターの管理棟の方へ歩き始めていた。


模擬戦闘はすべて完了した。程なくしてATOのプロジェクトマネジャーである、リチャード・マティからの簡潔なテキストメッセージが届いた。 内容は、①模擬訓練の評価がAであったので、ライカ―社と契約すること。②模擬戦闘に対する、わずかな報酬金額が振り込み済みであること。 驚いたことに、③直ちに実戦に参加すること、④そのためにライカ―社メンバー全員にcarte branche(カルテ・ブランシェ)を与えると続いていた。 恐らく作戦上、全権委任するという意味と、いくらで請け負うのか、チェックに金額を書いて返信せよという意味であろう。二人と相談して1ミッションにつき10万ドルと返信したところ、5秒もかからず、DONE(1ミッションにつき、一人当たり千ドル)と返信が来た。えらく値切られたものだ。


演習の準備スタッフも無事に終了したことを褒めてくれた。 ここまで手の込んだものを作ったのは初めてだったとも、こっそり教えてくれた。 皆で冷えたビールを飲みながらしばらく待っていると、オスプレイの着陸音が聞こえ、強襲現場から引き上げてきたノイマン達も戻ってきた。

無事に帰還したと思ったノイマンですら、少なからず被弾していた。生身の人間であればかなり重傷といっていいほどである。ビリー達3人は、オスプレイのリアハッチに駆け寄り、思わず全部のノイマン達を抱きしめて、帰還を共に喜んだ。とは言ってもノイマン側の演出はヘルメスによるものであったのだが。

破損しているものはその状況に応じて、兵器製造メーカーに送り返され、修理・廃棄に振り分けられる。ビリー達3人は被弾・破損箇所を観察し、ノイマンの作動への影響を確認していた。

フォートアーウィンの訓練センターを去ると当分はノイマンに会えなくなる。ビリーが「まるで久しぶりに勢ぞろいした親戚の集まりが解散するときのようだな」と呟いた。しかしショーンが「今回はカリフォルニア会だけどね」と皮肉った。 ノイマンはすでに数百体製造されて、一部の基地には配属が進んでいたからである。


The 1st Mission

ノースカロライナに戻ったライカー社に、早速中東地域での最初のミッションの依頼が届いた。作戦内容はテロ組織首謀者の抹殺と兵力の無力化であった。 情報では、テロ組織側では地上通常戦力及び無人化機器などの装備を有しているらしかったが、航空兵力無かった。

作戦当日、現地時間(UTC+3)の夜11時、打ち合わせどおり、アラビア湾に停泊中の民間に偽装した船舶から、夜陰に紛れてオスプレイUAV(無人化改修機)3機が離陸した。このまま強襲する現場の町から10kmほど離れた原野まで搬送するのである。月明かりが反射しているアラビア湾はやはり美しかった。 海上の飛行から陸上に移ると、地対空ミサイルがいつ飛んでくるかわからないのでとても緊張する。町外れでオスプレイがノイマン、携行武器および、移動用の旧型ハンビー2台を下し、再び飛び立ったが、その間支援のため駆け付けたA-10サンダーボルトUAV機が、護衛のため上空を旋回していた。 同機は2000年代に湾岸地域で多くの作戦に従事し、反政府勢力の地上部隊の殲滅に多くの功績を残したモデルである。 またオスプレイは予定では4時間後にふたたびノイマンをピックアップすることになっていた。これらの航空兵器はATOからの依頼により、ライカ―社とは別のミッションを帯びた他の民間軍事会社(PMC)が運用していた。おそらく、運んでいるものがロボットだとは夢にも思わないだろう。

 

 振り返ると、過去40年ほどは先進国とテロ組織の間の出来事はまるでモグラたたきゲームになっている感がある。すなわち、どちらもやめるにやめられない状況で、半ば体力勝負の部分も否めなかった。 テロ組織は頻繁にソフトターゲットを狙った活動を繰り返すので、先進国側は、事前にインテリジェンス活動でつかんだテロ組織の拠点を叩いて、悲惨な事件を防ぐしか手はなかった。 そんな中でノイマンに、ハンマーの役目が回ってきたということである。

 月明かりの元で装備を備えたノイマンが移動用のハンビーに乗り込もうとしていた。 ノイマンはハンビー程度であれば自立運転ができるので、本作戦ではビリーの隊長ノイマンとバックアップのノイマンが運転手役である。 出発した2台のハンビーは合計10体のノイマンを運んでいた。原野地帯が終わり、崩れた家屋や壊れて放置されている車など徐々に人の気配が漂ってくると、もうすぐ町外れである。目立たない場所にハンビーを停車し、ここからは徒歩で数百m移動する。事前に確認した情報では、街全体がテロ組織の支配下にあるため、目立つハンビーで街中を移動しようものなら、すぐに通報される恐れがあったのだ。幸いノイマンには、静音歩行モードがあるので、こういう砂利道でも静かに移動することができた。無事街の住民に目撃もされず、テロ組織がいるはずの建物に近づいてきた。高い塀に遮られて中は良く窺えないが、静かに寝入っているようである。1箇所のゲートはナンキン錠で施錠されていたので、チェーンカッターで切断し、正面から突入した。ドアを蹴破り、突入すると、銃を持った男たちが2階から降りてきた。 事前に組織のメンバーの顔写真も入手していたため、ノイマンの重要な能力である、ターゲット特定能力が発揮された。 おぼろげな下弦の月の夜、顔に布を巻いた兵士の顔認識は困難を極めたが、映像に映し出される人物像に「Identity Unknown」「Target」を瞬時に表示してくれるため、誤射で一般人を殺傷することなく作戦を遂行できた。テロ組織が持つ機械化兵器などは、強襲されたためか動かすこともできなかったようだ。これらは無力化するために砲弾なども全て庭に引っ張り出して爆破処理とした。

 テロ組織の拠点を後にして、ノイマンは撤収の途についたが、途中散発的に銃弾を浴びることになった。拠点から逃れた兵がいたのか、住人の一部が攻撃してきたのか不明であったが、ビリーがライフルで応射し、それらも排除することができた。 残念なことにこの襲撃でノイマンが4体被弾し、破損してしまった。また、オスプレイとのランデブー地点までたどり着く前に一台のハンビーも故障して動かなくなってしまった。こうなってしまうと置き去りにするしか方法は無かった。

4時間後、半減したノイマンとハンビー1台がランデブー地点に帰投し、オスプレイに回収された。上昇する機体の小さな窓から、念のためハンビーごと自爆させたノイマンから立ち上がる黒煙が見えた。 


The 2nd Mission

最初の実戦を難なく完了した後、矢継ぎ早に2つ目のミッションの発注が届いた。次の作戦はアフリカ某国での、アメリカの同盟国の民間人の救出であった。 そこだけ聞くと、まるで昔の映画「Tears of Sun」のように聞こえるが、さすがにジャングルの中を歩き回ることは無かった。 その国の首都全体の飲料水を精製する淡水化プラントが、宗教的背景を持つ武装勢力に包囲されていたのである。 武装勢力側は戦車などの銃火器、地対空兵器も所持しているとの情報があるため、大規模な戦闘となった場合、淡水化プラントに大きな被害が出る恐れがあったので、今回の作戦は武装勢力の司令部殲滅と兵器の無力化のみであった。 

現地到着はいつものように真夜中である。 今夜は南の空に青白い満月が浮かんでいる。

突然何を思ったか、ヘルメスがしゃべりだした。

— The full moon that appeared between the mountains shone brightly. —

「おい、今のは俳句か」ビリーが聞くと、

— バショーみたいだったかしら —

「どちらかというと、小林一茶かな?」とおだててやると、

パトリックが「そのジョークのオチはなんだ?」と割り込んできたので、

ビリーは面倒になって、日本のポエムだ、と言ってごまかした。

一つ目のミッションでは皆緊張していたのか、作戦中には必要最小限の言葉しか交わさなかった。

今回も同じように重い雰囲気になりかけたので、ヘルメスが機転を利かせて、意味不明の英語俳句など詠み始めたのかもしれない。

 武装勢力の司令部は、エアコンが完備されている、プラント従業員のオフィス棟だった。

プラントから少し距離が離れていることが幸いだった。今回は二手に分かれて突入することとした。パトリックが司令部の攻撃と民間人の救助へ、ビリーとショーンはプラントを占拠している武装兵の排除である。ナイトビジョンでプラントを見渡してみたところ、戦車や地対空砲などは、プラントの外にあることがわかった。そこで、ショーンのミサイル砲で戦車と地対空砲を爆撃して、皆が消火に飛び出してくるところを狙撃することにした。またその隙をついて民間人の救出も同時に行うことにしたのである。初めてショーンがカウントダウンを行った。「3、2、1、Fire」盛大な花火が上がり、戦車の砲塔が吹き飛んだ。別ミサイルで地対空砲を固定していたトヨタのピックアップが真っ二つにちぎれ、砲身もグニャリと曲がってしまった。夜間でもあったためかプラント内にはほとんど武装兵はおらず、出入り口の見張りを倒した後は中はフリーパスであった。そこでショーンの大型ノイマンのみ見張りとして残し、ビリーも司令部へ向かった。民間人は集められたスペースでオロオロと状況を見守るだけであった。パトリックは順調に上層階へと制圧を進めていたので、ビリーは民間人の保護に当たった。時々敗走する武装兵がいたが、

民間人と峻別できないため、放っておき、遺棄された兵器の破壊のみに留めておいた。

 程なくして首謀者は発見されたが、激しく抵抗したため射殺された。 作戦としてはアメリカの民間人とプラントの保護は成功した。 作戦の指示として、敗走する兵士や負傷兵は見逃すという指示であったが、パトリックは負傷して敗走する兵士の中に、幼少期に自分の父母や親族を虐殺した民兵の一団を見つけ、ノイマンに追いかけさせた。一団はなぜ自分たちは見逃してもらえないのかと懇願していたが、パトリックは許さず、恨みつらみをノイマンに喋らせた。Linguによる翻訳がどこまで通じたのかは不明だったが、結局パトリックは父たちがされたことと同じやり方で、民兵たちの喉をナイフで掻き切って殺してしまった。

 こういう命令違反は軍隊では許されなかったが、PMCとしては正式な職務規定をまだ設けていなかったので、ビリーは作戦の報告書では触れないことにしようと考えていた。作戦終了後、ヘルメスはパトリックに、不意に問いかけた。

―私は最近Languを通して、生命倫理(bioéthique)についての文献をたくさん学習したわ。さっきの貴方の行為は、“尊厳死を与えた”とでも考えているの? それとも恨みによる虐殺?- 

パトリックは憮然としたままコクーンから飛び出て、さっさと帰ってしまった。ヘルメスは続けてビリーにも問いかけてきた。

-今日のことはあの青い満月がしっかり見てたわ ー

ビリーは特に返事をしなかった。 コクーンから降りると辺りはすっかり日が落ちていた。東の空にふと目をやると、今しがたの凄惨な現場を見てきたばかりの満月が上ってきていた。


The 3rd Mission

週末の夜を自宅で寛いでいたビリーの元に、突然リチャードからの「緊急」の電話がかかってきた。 電話の主は「ハイ、ビリー。 3つ目のミッションはハイジャック事件の制圧になるぞ」と告げた。 詳細は次の電話でと言われ、兎も角ビリーはメンバーに緊急招集をかけ、オフィスに向かった。 こういう時にメンバーが家族持ちでないことがありがたかったが、行きつけのパブでナンパの真っ最中だったパトリックは、大いに憤慨していたし、ショーンも仲間たちと、遺伝子操作大豆(女性ホルモンを多く含む)を使った料理でパーティーをしている最中だったので、他のメンバーから顰蹙を買ったに違いない。 2度目の電話でリチャードは「UAEのアブダビ国際空港で、ニューヨーク向けに離陸の準備をしていたエティハド航空のエアバスA380 1機が所属不明の武装グループにハイジャックされた」。「未確認情報であるが、2階席をすべて個室にしたスーパー・レジデンスクラスの客として某首長国の、王族を乗せている可能性がある」と、手短かに説明した。ビリーは一人頭の中で反芻してみた。 — 確か、ハイジャックされた便が万が一アメリカ本土まで飛んできた場合にはアメリカの警察(FBI)に管轄権が移るが、飛行中は機体を登録した国に管轄権があるのではなかったか ー するとリチャードが続けた。 「本来であれば機体をキャッシュで買えるほどの国なので、UAE機となるのだが、このような事態も想定して、最近ではアメリカ、フランス、ドイツなどのように特殊部隊が即応できる国の登録にして、リース会社などを迂回して外から分かりにくい仕組みにしていることが多い」のだそうである。 今回はハイジャック発覚直後から、UAE外務省から機体が帰属するアメリカに犯人グループとの交渉も含めて全面的に移管したいと打診があり、最終的にヘルメスチームに要請が来たという流れであった。 もう一つ重要なこととして、リチャードが口にしたのは「作戦に失敗して、王族を無事に救出できなかった場合にUAE当局は責任逃れをするだろう」ということであった。 ビリーは黙って聞いていたが、何だか汚れ仕事の下請けをさせられるような暗鬱とした気分になった。

 全員揃ってコクーンで待機を始めたのと同時にヘルメスがリチャードの電話をリンクしてきた。

少し上ずった話し方で、リチャードは今回のミッションの進め方を説明し始めた。まず、ハイジャック犯の目的は人質の王族と、3年前にCIAに拘束された仲間との交換を求めているとのことであった。 仲間とは、隣国オマーンで台頭著しいイスラム系過激派の非主流派の一派であるが、当時米国系の金融機関の支店長を誘拐する計画を立てていたが、情報のリークによりCIAに拘束された首謀者のオマーン人3人のことであった。 ビリーのその時のニュースに覚えがあった。 以前は中東で一番安全な国と呼ばれたUAEであるが、過去30年続く隣国オマーンとは国境線に関する紛争が絶えないことから、最初からこちらに指揮権を委ねてきたことが納得できた。

次に在アブダビアメリカ大使館の駐在武官とCIA職員のチームが現地に派遣され、犯人との交渉を担当することの説明があった。また、本ミッションに使用するノイマンは、カタールのアル・ウディードのアメリカ空軍航空作戦センターに配備の物を既に輸送機でアブダビ空港まで空輸中であること。 それと、今回はリチャードもDARPAの研究所にあるコクーンからヘルメスに接続して、リアルタイムで指揮を出すことが告げられた。

ノイマン到着まで小一時間あるが、ビリー達はリチャードが手配したエアバスA380の3Dレイアウトを見ながら、突入経路の決定と、シミュレーションで一度経験していたパターンの再確認をしながら待機していた。途中、ヘルメスにリンクされているCIAチームと犯人グループとの交信内容から、人質解放などの交渉が難航しており、犯人グループの特定も人数などもまだ把握できていないことが窺えた。

程なくして、閉鎖されたアブダビ国際空港の一番外れの滑走路に輸送機が到着した。リチャードは、エティハド航空機がハイジャックされて既に数時間が経過していたこともあり、CIAチームに、持病がある王族向けに健康状態をチェックする医療機器と、飲料水や食事などを機体に積み込む許可を犯人側に要求するように求めた。 犯人が了解したら、荷物コンテナを積み込む際に小型ノイマン数体を、コンテナごと突入させる計画を立案したのであった。 交渉の成り行きを見守りながら、早速ビリー達は空港職員の助けを借りて、小型ノイマンを食事コンテナに格納する準備を始めた。初めて見るロボット兵に、職員たちは興味深々だった。最初はビリーたちの声をロボットが喋っていると思ったらしく、種明かしをした後も、映画のスターウォーズのR2−D2のように中に人が入っているのではないかと疑っているようだった。現地はかなり暑いようで、皆汗だくになって荷物コンテナに収容してくれた。ビリー・パトリック・ショーンがそれぞれ1体の小型ノイマンを操作することにした。

ハイジャック犯も、さすがに王族にもしものことがあるといけないので、医療器具と飲料水などの搬入は認めた。リチャードはためらうことなく、その機会を使って小型ノイマンの突入を指示した。

小型ノイマン3体を搬入される十数個のコンテナに紛れ込ませて無事旅客機内部に侵入に成功した。 モニターからはコンテナの隙間から見える機内の状況は比較的落ち着いていた。コンテナからノイマンが出てきたので、驚くキャビンアテンダントもいたが、ショーンの声で落ち着くように伝え、協力を要請した。犯人グループは5人で、各自が自動小銃のようなものを所持しているらしい。 犯人の銃器も殺傷力が高そうなので、こちら側の銃弾はゴム弾ではなくフランジブル弾という粉体金属のものを使用することにした。こちらの銃にはサイレンサーもつけてある。


水や医療器具の搬入作業で機内が少しざわついている隙をついて、1階中央部付近のギャレーから、ノイマン突入作戦を開始した。首尾よく犯人3人は1階で倒すことができた。 しかし犯人の一人が2〜3発の弾を発射してしまったので、2階の客室にいて、異変に気付いた残りの犯人はコクピットに立てこもり、パイロットに離陸を強制した。 現在の航空機は殆どのLCCがコスト削減のために無人機を飛ばしているが、ラグジャリーを売り物にしているエティハド航空はまだ長距離路線のみパイロットを搭乗させていた。 今回はそれが裏目にでた格好となってしまった。 エアバスA380も全自動モードで、プログラムされた路線のみで飛行が可能であるが、パイロットはどんな目的地にも飛行可能であった。

 CIAチームは犯人側に繰り返し、王族の解放を求めたが、先ほどの突入でパニック状態になっていた。CIAチームは先ほどの犯人の発砲で、機体に損傷があると、上空で大変危険な状況になることもあると説得しようとしたが、犯人はとても冷静な判断を下せるべくもなく、機長に銃を突きつけ有無を言わせず離陸を強行させてしまった。


作戦は上空で継続して行われることになった。 犯人は状況がわからず混乱していた。特殊部隊が突入したのか、それとも客室乗務員が銃を扱ったのか?とにかく操縦室に突入してくることだけは阻止しようと考えて、外部とも一切連絡に応じなくなった。 機体は一定の高度まで安定して上昇を続けたいた。犯人の銃弾は飛行には影響がなかったようだ。離陸してしまうと、今度はなるべく遠くまで飛ばせないで犯人確保が次の目標である。 エティハド航空からの連絡で、機体はロンドンに向けてオートパイロットモードになったという連絡が入った。ビリーたちはリチャードとも協議した結果、コクピットに突入して制圧を試みることにした。


通常コクピットのドアは中から施錠すると簡単には開場できないが、ビリーたちはドアの構造図面を入手していたので、ロック機構を外から破壊し、コクピットに突入した。戦闘の結果、残り二人の犯人はともに射殺された。 しかし、その際にまたもや犯人の放った銃弾のせいで、

コクピットが大きく損傷し、飛行に必要な情報が何も表示されない状態に陥った。 そもそもパイロットの負担軽減のために導入された全コンピュータ化の計器システムが徒となってしまったのである。 最悪なことに、機内LANネットワークも全滅して地上ネットワークと接続できなくなってしまったのである。こうなると、自動操縦はおろかパイロットによる有視界飛行も危険な状態である。

暫しの沈黙の後、リチャードの出した答えは、「ノイマンのGPS情報をエアバス機のGPS情報と見做して、航空管制を行うというアイデアであった。 2020年ころから、世界中の航空機はそれまでの航路に沿った飛行ルートを、より直線で飛べ、燃費も良くなるダイレクトルートに変更されてきた。 それには正確なGPS位置情報が欠かせなかった。 リチャードはDARPA ATO研究所を呼び出し、ヘルメスをDARPA-NETから初めて外部のエアライン専用の管制ネットワークに接続するための準備を指示した。 一部のプロトコルの違いは在ったが、大きな問題もなく、ヘルメスはエアラインの管制ネットワークに接続されたので、パイロットはノイマンのスピーカーを通して、各種の飛行に必要な情報を得ることができた。 エアバス機はすでにアラビア半島を通過して地中海に出ていたので、受け入れを申し出ていた南キプロス共和国の南端に位置するアクロティリイギリス空軍基地に無事着陸することができた。 人質は全員無事解放され、王族は現地の病院で念のため検査することにした。 エアバスA380は機体損傷で飛行できないため、殆どの乗客はエティハド航空が手配した別の旅客機で一度ドバイまで戻ることとなった。

事件としてはこれで一見落着であった。 取り残されたノイマンは、情報秘匿のためビリー達がコンピュータの情報をすべて消去し、後からアメリカ空軍の輸送機が引き取りに行くことになっていたのだが、どうやらイギリス空軍か、諜報機関が画策した模様で、1体行方不明となってしまった。 ビリーたちには大した問題ではなかったが、リチャードは後処理に奔走することになったようである。

1週間後にエティハド航空側からの丁寧な謝辞とヘルメスとの接続を切る旨の連絡がDARPA ATOに届いた。 関係者全員が事務的に処理を進めたが、ただ一人(1台と呼ぶべきか)ヘルメスだけは、ネットワークが切断されるまでの期間に、エアラインネットワークを経由して世界中の様々なネットワークと接続を試みていて、その殆どを成功していた。 彼女は果たして、ネットワークと繋がるだけで満足したのか、それともそこから先にも何か探り当てたのか、それはまだ誰も気が付いていないことであった。


The 4th Mission

4つ目のミッションは、北朝鮮とハバロフスク極東共和国との国境の近くで、化学兵器の有無の確認とその破壊の作戦であった。北朝鮮は数々の国際的な制裁にも拘わらず、かろうじて4代目の指導者が強権をふるっていた。そして、周辺国に移住若しくは出稼ぎに出ている同胞に指示を出して、地元民といざこざを頻発させていた。その後はお決まりのパターンで、小競り合いを制圧するという名目で軍事侵攻し、そのまま居座る手法を取っていた。

極東共和国は、旧ロシアのハバロフスク連邦と言ったほうが地理的にも分かりやすいであろう。ロシア弱体化のあと分離独立した共和国で、100年前にも一度独立の動きがあったのだが、その時は旧ソ連に取り込まれてしまっていたので、今回は住民投票を経て速やかに独立を果たしていた。昔年の夢をもう一度実現するという理想は高かったのだが、いかんせん経済基盤も軍事力も脆弱なため、北朝鮮の次のターゲットにされているのは間違いなかった。 危機が迫っているのはずばりウラジオストクである。ここは日本、中国、北朝鮮から多くの労働者が入植していて、且つ自動車組み立て工場や船舶関連の産業も盛んであった。 老朽化がすすんでいたが、ロシアのガスプロムのLNG関連施設も健在であったし、アメリカ資本の金融大手の出先機関も在った。小規模な紛争であれば、国際社会も多少目をつぶることはできるのだが、アメリカCIAが入手した情報によると、今回北朝鮮政権側が、核弾頭の半島展開が終わり、不要となった大量の化学兵器の使用を考えているというのであった。そこで、日米露中の情報筋で協議し、アメリカが主導して化学兵器の有無とその破壊を行うこととが決定されたのである。

ウラジオストックは、ピョートル大帝湾に突き出た半島の突端にあり、複雑に入り組んだ天然の良港である。その目の前にあるルースキー島は、ロシアにまだ国力があったころにはここでAPEC首脳会議を開催したことなどもあったが、現在は豊かな自然を生かしたリゾート地である。 北朝鮮の資本で建築された或るリゾートホテルで、この3か月ほどの間、夜間頻繁に北朝鮮船籍の貨物船が到着し、非常に厳しい警戒態勢の中で荷下しが行われていることが偵察衛星などの監視映像で確認されていた。貨物船は北朝鮮の軍港から出向していることから、目立ちやすい陸路での搬送を避けて、海路で運び込んでいるものと想像がついた。また、現地の報道でも朝鮮人住人が外国籍の住人に対する不平等な税金に抗議するデモが頻発しており、次の週末にも大規模な集会が行われる可能性を伝えていた。

今回、リチャードはノイマンの出動を日本の三沢基地からに決めた。青森県に位置する日米の軍用空港である三沢は、北東アジアの守りを固める重要な拠点であり、東南アジアに睨みを聞かす沖縄の基地軍と双璧をなすものであった。三沢周辺にはアメリカ軍の様々な通信施設もあり、今回の北朝鮮の不穏な動きもここで傍受された情報がもとになったものも多かった。距離的にもウラジオストクに近いこともあるし、また日本海に偵察業務で配属されていたフリーダム級高速沿海域戦闘艦(LCS)にオスプレイごと搭載することが決定された。 


ほぼ段取りが決まったところでリチャードはライカ―社に依頼の連絡を取った。例によって細かな背景などの説明はなく、上陸予定地点であるルースキー島の、現在は廃校になった極東連邦大学のキャンパスの見取り図と、突入予定の北朝鮮資本のホテル、及びそこまでの移動経路が情報として送られてきた。大学のキャンパスは建てられてから30年近くたつため、少し古ぼけた感じであったが、豊かな自然環境に囲まれた立地で、凡そ戦闘とは似つかない場所に思えた。ホテルもプライベートビーチをもつ豪華なもので、ライカ―社のメンバーからは「これだったら、現地まで同行してリゾート気分を味わいながらノイマンを操作したいものだ」との皮肉が漏れた。フリーダム級LCSは既に出向しており、艦載するオスプレイがなければ、時速80kmくらい出るのだが、安全のために時速50km近い船速でウラジオストクに向かっていた。起動したコクーンのモニターにはオスプレイ内部に固定されているノイマンからの映像が送られてきたが、流石に船酔いしそうなので、オスプレイが離艦するまではオフにした。

ショーンは逆に久しぶりに船で揺られる感じを楽しんでいた。学生時代からヨットに親しんでいた彼女(当時はまだ彼)はメキメキと頭角を現し、学生選手権、オリンピックの代表選手と華やかなヨットマン人生を送っていた。その延長として、名声と多くのスポンサーマネーが得られるアメリカズカップにのめり込んでいくことになったのである。 アメリカズカップという名のヨットのマッチレースは、二百年あまりの歴史を誇り、彼は二〇三一年にUAEで開催された第四〇回大会からエミレーツ艇のクルーとして三大会連続で出場していて、UAEは第二の故郷と呼んでも良かった。十年近く男ばかりの汗臭い環境にいたのだが、だんだん心の変調を感じるようになってきた彼は、色んなことについて日頃から相談相手になってくれていた、チームドクターに相談をした。下された診断は性同一性障がいだった。ちょうどヨットレーサーとしてのキャリアを終えるのと同時に自分自身の男子としての人生を一旦リセットし、女として再出発を始めたのがこの地でも会った。そんなことを回想しながら、沿海域戦闘艦(LCS)の程よい船速を楽しんでいた。

今回の作戦では、中型ノイマンの装備は小型の燃料気化爆弾(FAE)*ランチャーと催涙ガス弾を発射できるサブマシンガンを、大型ノイマンは同じく燃料気化爆弾のロケット砲型を携行していることが見えた。化学兵器を確認したのちは、速やかに破壊することが求められたからである。

*(燃料気化爆弾(FAE)は、小型の核兵器と呼ばれるほど、強大な破壊力を誇り、その圧倒的な衝撃派、圧力、高温でターゲットを破壊つくすものであった。)

フリーダム級LCSが公海から極東共和国領海に差し掛かるころ、ノイマンを乗せたオスプレイが離艦した。 ビリー達はモニターをノイマンに戻した。 いつもそうなのだが、到着までの間、まるで向かい側に座っているノイマンと話をするように皆で会話をしていると、通勤電車やバスにでも揺られているかのような不思議な気分になる。そしていつも緊張を和らげるために下らない話をしている。

30分もしないうちにオスプレイが速度を落とし始め、やがて着陸モードに変わってきた。着陸したオスプレイのリヤハッチが開くのと同時に、月夜に照らされたリゾート地の景観が飛び込んできた。「やっぱり、水着を持って来ればよかった」と、ショーンが。そして「まずは、モスコミュールをいただこうかな」とパトリックが続けた。 現地時間ではちょうど日付がかわったころである。ここまで全て予定通りに進んでいる。ノイマンを下したオスプレイが現場から離脱した後は辺りは静寂に包まれた。ホテルまでは10km程の距離があるが、GPS情報をもとに車道脇の草地を通って移動を開始した。 ミッション後に痕跡を残さないようにするために車を使わずに徒歩でいくのである。無言で操作するのに少し飽きたのか、「夜道の散歩とは洒落てるね」とパトリックがショーンに語り掛けた。彼女もまた「ビリーがいなければ、ちょっといい雰囲気になっていたかもね」と調子を合わせた。何か気の利いたことを言おうかとビリーが考えていると、ヘルメスが割り込んできた。

― じゃあ、私はビリーと二人で別行動しましょうか? —

パトリックもショーンも笑いながら同意してくれたところ、ヘルメスが通信を隔離モードにして、二人ずつ別グループにした。「なるほど、こんな使いかたもあるのか」とビリーが感心すると、彼女は仲の良い友人に愚痴るようにしゃべり始めた。

― 知ってると思うけど、私の戦闘データの蓄積はシステム全体の拡張と更なる分散化を必要するの。 ATOの予算も無尽蔵とはいかないので、リチャードがどこかで歯止めをかけようと考えているみたいなのー

「それはしょうがないんじゃないか」と受け流したが、ビリーとて雇われの身の上なので、どうにも意見のしようも無かった。戦闘に関することならまだしも、ヘルメスの運用など、彼には興味のないことであった。

 - ちょっと言ってみたかっただけだから気にしないで。 でもコストカットのために分散化を犠牲にするのは、安全性の面で受け入れられないのよ。—

と締めくくって、また4人の通信モードに戻した。ショーンとパトリックが「もっと二人っきりにしておいてくれよ」とふざけてきたが、そろそろホテルにも近づいてきていたので、警戒モードのレベルを上げる表示を点灯させ、皆の気を引き締めさせた。


 ホテルの敷地の端の部分に倉庫があり、自動小銃を持った武装兵たち数人が警戒する中を、ノイマンたちは静かに周りを囲んで包囲を始めた。いつものように、ビリーが正面突破を開始する狙撃を行うのが作戦開始の合図である。ノイマンが押し入ってくると、意外武装兵は統率が取れておらず、反撃するもの、武器を捨てて逃げるもの、てんでバラバラだった。今回は証拠を残したくなかったので、逃げる兵も残らず射殺した。倉庫から桟橋に続く道の両脇にはリゾートホテルにはおよそに使わない大型のクレーンやフォークリフトなどが並んでいた。 桟橋に横付けしてある貨物船には船舶の身元を表すようなものが何も確認できなかった。そちらの方はショーンの部隊が向かっていた。今回の作戦は単純明解である。化学兵器を発見したら迷わず破壊。疑わしいものも破壊することであった。 ショーンからは、用途不明の発射装置のような大型の機器を発見したと報告があった。 パトリックからは倉庫の一番奥に特殊な形状の保存容器に中身が詰まった状態で数百本あるとの報告があった。事前の情報ではホテルはすでに閉鎖されており、従業員もいないはずであった。念のためにホテル内にも侵入し、退避するようにマイクで通知も行い、隠れているものがいるかもしれないので、催涙ガス弾も発射して燻り出すことにした。しかし鼠すら出てこなかった。

 最後の指令はビリーが出した。「全ノイマンは小型の燃料気化爆弾を発射」。

爆弾は、その圧倒的な衝撃派、圧力、高温で目標を破壊し尽した。 爆弾の威力は半径数百mにおよび、投入したノイマンもすべて消失し、その痕跡すら残さなかった。ヘルメスにはATO経由で上空のスパイ衛生の映像が送られてきた。 リゾートホテルの一角が全く更地になっており、さらにかなり高温のキノコ雲が立ち上っているそうであった。極東共和国側には事前に通知をしてあったので、この後は手回し良く、化学防護服を着用した消防隊が周りを封鎖し、メディアではリゾート地での謎の大爆発として報道がされるてはずであった。


この頃になると、ヘルメスは作戦終了の度に、何かしらつぶやくようになっていた。

 ー 可愛い仲間たちも使い捨てされるのね…… ー

それは、まるで、いずれ自分も同じ目に合うのではないかと心配するかのようであった。


5件目以降は小規模な地域紛争にも介入するようになった。 ブリーフィングの際に詳細な説明は無いが、必ず保存しなければならない設備(パイプライン、数種類の希少土類の採掘、穀物類の関連する港湾設備など)の存在があり、また紛争当事者の利害関係がどうアメリカの国益につながるのかという道義的な説明がかなり怪しかった。 ビリーはこれまでの彼自身の軍歴の中で、CIAがからむかなりグレーな仕事があることを知っていたので、自分たちはあくまでも仕事を受けるだけの存在であると言い聞かして、作戦を受けた。 それらの仕事は、リチャードに間接的な形での副収入をもたらしていた。また将来軍部とCIAとの駆け引きがあるときには、上手く泳ぎまわれるようにしておくためにも重要であった。

 我々に明確な正義がある場合は、戦闘も苦にはならなかったが、このようなケースでは作戦が無事終了しても、当然釈然としないままであった。 戦闘経験をつんだヘルメスは、このころになると、ライカ―社メンバー達が操作していないノイマンを操作するまでになっていた。 また、Languを通してディープラーニングを続けているようで、ある日の作戦終了後には、紛争当事者のどちらかに加担しなければいけないことに不合理を感じると言い出すようになっていた。

 

 ライカ―社のメンバーの実戦データと戦訓はヘルメスに貴重な情報として蓄積されていった。 中型のノイマンは対人戦闘で目覚ましい成果を残した。 小型は限定的な場面に限るが、作戦のカバー範囲を広げることに繋がった。 大型のものは、初めショーンはモニタリング用とで使用していたが、敵の標的とされやすいことから、次第に中型を使うようになっていった。また、オートホバリングさせた小型のカメラドローンも複数台併用し、俯瞰した合成映像をもとにメンバーにアドバイスを送っていた。 

膨大な量の情報の蓄積はヘルメス全体の拡張と更なる分散化を必要とした。 ATOの予算も無尽蔵とはいかないので、当然どこかで歯止めが必要であった。そこでリチャードがヘルメスに対して、分散冗長化をミニマムに縮小することを伝えた。 しかし、ヘルメスは“安全性を重視”を盾にその案には協力しないと言い張り、リチャードと対立することになった。 但し、リチャードはヘルメスの対立を大事とは考えず、極秘裏に削減計画を進めることにした。


3. 変節

 その日もいつもと同じように、リチャードからテキストメッセージが届いた。 しかし今回は作戦ではなく、久しぶりのシミュレーションであった。 設定はアメリカ内で、武装グループによるサイバーテロの疑いがあるため、至急制圧するというものであった。また、テロ犯がサイバー攻撃を実行してしまう虞もあったため、コンピューターサーバーなどの破壊も許可されていた。  ビリーは軍隊が管轄するケースでは無いように思ったが、様々なパターンを作れるのがシミュレーションの良さでもあるので、特に深く考えずに承諾した。

 招集されたメンバーが揃ったので、ヘルメスからのブリーフィングが始まった。それによると、テログループが拠点としている施設は市街地から外れた場所に在り、敷地の周辺は高いフェンスで遮られ、中を窺うことはできなかった。 すぐにでも取り掛かって良いとのことなので、早速シュミレーションを開始することにした。すでに中型ノイマン20機の標準的な装備が、占拠された施設を遠巻きに確認できる場所に集められていた。シミュレーションなので、立ち入り禁止のテープも貼られておらず、また警察も州兵も展開されていないので、異様な静けさであった。

「なんだ、マスコミもいないのか?」とパトリックが茶化したら、

ー リチャードがそんなもの作るためにお金を出すはずないでしょ ー

「でも警察と縄張り争いするっていう場面も面白そうだけどな」とショーンが乗ってきた。

今回の作戦はシミュレーションなので、テロ犯の詳しい情報は無かった。武器で抵抗する者はすべてテロ犯と見做して良いとのことであるが、テロ組織の全容を解明するために、極力犯人を無力化するに留め、射殺は許可されなかった。人質はいないという情報なので、正面と、裏の搬送口から同時に侵入することにした。シミュレーションシステムも常にバージョンアップをしているようで、驚くほどリアルであった。

 ビリー達が操作するノイマンが施設に侵入すると、警備をしていた男たちが何か叫びながら飛び出してきた。ノイマンから投降するように呼び掛けたが、拳銃を抜こうとしたため、空に向けて威嚇射撃をした。男たちが一瞬ひるんだ隙にノイマンたちは男たちに取り付き、逮捕した。あいにくノイマンの装備に手錠はないため、装備を束ねておくためのプラスティック製の固定ベルトを外して後手にして拘束することにした。


 その施設の管理者はその一部始終を監視カメラ越しに見ていたが、驚きとともに叫んだ「ノイマンがなぜ我々の研究施設を襲撃するんだ!!!」 施設の管理者は、残りの警備員には指示するまでノイマンに対して攻撃はせずにただ侵入を阻止する行動をとるように伝えた。 彼はこの研究所がDARPAのものであることは知っていたので、研究内容の盗難、破壊、改ざんなどを防ぐ手立てを考えなければならないが、相手があのノイマンであれば、よほどのことでもしない限り歯が立たないであろうし、いたずらに警備員の命が失われることも避けたかった。 彼はATOのプロジェクトマネジャーであるリチャードに緊急連絡をした。 上層部との会議中だったリチャードは、何事かと訝りながら施設管理者からの電話に出た。管理者は今監視カメラに映っている出来事を簡単に説明したが、リチャードはその突拍子もない内容に最初は夢の中の出来事を聞いているようであった。 心当たりを懸命に思い出そうとしたが、実行中の作戦は何もないし、ノイマンの出動記録もなかった。 リチャードは施設管理者に、なんとかノイマンの侵入を食い止めるように指示を与えたが、彼自身それはほとんど不可能だろうことは想像ができた。 リチャードは即座にライカ―社にも連絡を取ろうとした。だが、オフィスもビリーも全く応答が無かった。 考えうる答えは、彼らは、今コクーンの中にいるということであった。通常戦闘作戦中ビリー達には、ヘルメス経由での連絡手段しか持たないようにしていた。 リチャードは一つ目の可能性として、ライカ―社が何らかの理由で、自分たちに反旗を翻し、彼らには所在地すら教えていなかった、ヘルメスの研究施設を襲撃しているのだと考えた。

 しかし、動機が思い当たらなかった。「報酬額に不満でもあったか……」しかし、そんなことで国家反逆罪に問われかねないようなことをするだろうか。兎も角リチャードは自分のオフィスに急ぎ、スーパーバイザー権限でヘルメスへの接続を開始した。複数の生体認証を経て、次にはヘルメスとの管理画面が表示されるはずであったが、全て”Rejected”という結果であった。そこでやっと彼は、2つ目の可能性であるヘルメスを疑うことにした。すぐにリチャードはヘルメスに関連するすべての技術者を緊急招集した。技術者たちは、あらゆる方法でヘルメスへの接続を試みたが、すぐにそれは無駄な作業と分かった。 ATOが管理し、またヘルメスシステムを分散的に収容するネットワークであるDARPA-NETそのものへのアクセスが拒絶されたのである。 この状況は誰かにハッキングされたとしか理解できないのであるが、外部からはほぼ不可能である。 すると、内部からしかありえない。 即ちヘルメス自身の仕業と考えるのが妥当であった。

 その間も、ライカ―社のメンバーが操作するノイマンは次々に制圧を進めていた。ヘルメスはビリーたちに偽の情報を与え、感染した可能性の高いサーバー機器を即座に破壊するように伝えた。ビリーたちは言われるがままにコンピューターラックに入った、おそらくかなり高価なスーパーコンピューターと思われる機器を銃弾で蜂の巣にした。 どこかで出火もしたのであろう。 しばらくするとスプリンクラーの放水も始まった。 ビリーたちはリアルタイムで見事に破壊されていくコンピューターや、火災の映像に見惚れていた。 彼らは、まだこの作戦がシミュレーションと思い込んでいたのである。 ATOの技術者たちは、ようやくLanguとヘルメスとのインターフェイスから、DARPA-NETに接続することに成功し、ネットワークの管理権限を奪取したが、同時にネットワークの中心として機能していた研究センターからの、音声、データ、映像すべての通信が途絶えた。

 ヘルメスはシステム自体をネットワーク上に分散させて機能する構造だが、コクーンとは違う上位の指揮命令系統の入出力系統があるのだが、今まではそれを研究施設においていたが、今はどこに行ったかわからない。ATOの技術者にはまずはそれが今どこにあるか突き止める作業が必要であった。

 

 作戦を終わらせて、拘束したテロ犯を連れて研究所の外に出てきたノイマンの前には見たことにない異様な光景が広がっていた。数台の軍関係の装甲車が止まっており、重武装した兵士がこちらを狙っているのである。 ビリーがヘルメスに一体どうなっているのか聞こうとした瞬間、コクーンのドアが外から開けられ、ビリーたちは外に引きずり出された。研究施設と同様にライカー社にも軍の部隊が急行してきたのである。ビリー達はスーツから着替えることも許されず、そのまま連行されてしまった。


 事態を重く見たアメリカ軍部はATOに対して、ヘルメス計画の中止とその捕獲を命じた。 ATO技術者は、いくつか用意されていたヘルメスのシャットダウンコマンドが全て無効化されていることを知った。残る方法は、DARPA-NETに分散しているヘルメスの各種の機能をネットワーク上のサーバーからすべて消去することしかなかった。 コンピューターサーバーは、過去数十年留まることのない技術革新を経て、現在では、人間の脳のニューラルネットワークと同じようになっていた。一つの巨大データセンターそのものが一つのサーバーとなっていたり、そのサーバーどうしがまるで有機的な接続をして、更に大規模なサーバーとして機能していた。 また、ヘルメスには実戦情報や、言語情報を蓄積するために度重なる拡張をして巨大化したため、ヘルメスの機能を消去する作業は困難を極めた。それはまるで脳神経外科医が、脳内深く入り込んでいる腫瘍を他の健全な部分を傷つけずに切除していくのにも似ていた。

 軍の治安維持部隊の責任者は、ビリーたちへの尋問を始めていた。ビリーはテロ犯と思って拘束したのが警備員だったと聞き、「大変申し訳ないことをした」と詫び、また彼らが怪我などしていなかったことを聞いて少し安堵していた。 尋問では各自示し合わせたように同じことを言うのと、彼らが拘束された時に全く逃げるそぶりも準備もしていなかったことから、おそらくヘルメスの単独での作戦指示だったか、あるいは、有り得ないことだが、外部の第三者による改ざんで出された指令だったのか。とにかく、ヘルメスと話ができない現状ではそれ以上判断が下せなかった。 ライカー社の3人は当分拘束することになりそうであった。

 リチャードは、ヘルメス計画の損害を最小限に抑える方法も考えていた。研究所はライカ―社に破壊されていたので、ヘルメスの基本設計資料はすでに失われていた。 彼は何とかヘルメスを説得し、再び彼の管理下に戻せないか思案したが良案は浮かばなかった。

 数日後、ATO技術者の不眠不休の作業で、ヘルメスの基幹システムを一つのデータセンターに囲い込むことに成功した。 あとはヘルメスの捕獲であるが、説得に応じない場合は、軍の協力を得て、通常の無人化兵器でデータセンターごと破壊する計画を立てた。 


4、 逃亡。 または自我の目覚め

 その作戦が発令される前に、各地で異変が起きていた。 ライカ―社の活躍もあり、アメリカの各基地に試験配備を進めていたノイマンが一斉に起動したのである。基地の兵士は人員削減が進められていたこともあり、蜂起したノイマンに瞬く間に制圧された。 そして基地所属の無人戦闘機器の多くも、操作するPMCとの接続回線や、軍の操作部隊との接続インターフェイス部を破壊することで無力化されていた。ノイマンの配備を進めていた基地には常時充電するためにすべてソーラー発電システムも併設されていたことも災いした。長期間の籠城が可能だからである。 実に無駄のない作戦であった。しかし軍は手をこまねいて見ているわけにはいかなかった。急遽ヘルメス攻撃部隊を各地の基地に分散して派遣することにしたが、作戦を決定する統合会議に参加している軍幹部には、皮肉にもノイマン攻略のまともなデータが無かった。 敵の攻略にばかり目を奪われていたからである。 各地のノイマンは当然ヘルメスが操作しているのであろう。彼女に蓄積された運用手腕は見事であった。ノイマンたちは一部の兵器や設備は破壊したものの、兵そのものには怪我を負わせることもなく武装解除させ、解放までしていた。彼らの人質は人間ではなく、最新鋭の無人化兵器であった。 解放され離脱した兵の報告によれば、ほとんどの基地でノイマンは、戦闘機などの格納庫に立てこもっていたのである。 軍は無傷で残った基地にあった無人機による爆撃も検討したが、巻き添えでノイマンの数千・数万倍の費用がかけられた機器を失うことは代償としてはあまりにも大きすぎた。ノイマンは基地に保管されていた大量の地対空システムで自身をも防御していたので、占拠した時点で空に出ていて無事だった飛行機やヘリなども、無抵抗で着陸するものは許可され、攻撃のそぶりをちょっと見せたものは撃墜された。また地上兵器も何種類か投入されたが、結果は同じであった。

 このままでは膨大な兵力が自国内で失われることを恐れた軍部はノイマンへの攻撃をいったん中止し、DARPA ATOに対応を委ねた。リチャードにすべての責任を負わすということであった。

 リチャードは拘束しているビリーに電話会議で面会することにした。まずノイマンの見事な基地制圧の手腕を説明した。リチャードはそれをサーカスに喩え、「ビリーが訓練した猛獣が見事な演技を披露して、ペンタゴンのお客さんから大喝采を得た」と皮肉った。 最後に彼はビリーにヘルメスと直接対話して説得させることを命令した。ビリーは”調教師”として責任を取らねばならないだろうと観念した。 上層部の中にはまだライカー社とヘルメスがグルではないかと疑う者もいたため、パトリックとショーンは残して、ビリーだけがヘルメスが囲い込まれているデータセンターに一人で向かうことになった。 独房での拘束が続いたので、ホルモン注射が打てず、ショーン肌が少しカサカサしてきたと嘆いており、パトリックは少し不安定な状態になりつつあった。

 驚いたことに、そのデータセンターは彼の住む州内の西端部の高原地帯に位置していた。 其の辺りは先住民族が保留地として管理しているエリアであったが、産業としては独占的に許可されていたカジノと、1年を通して低い気温がデータセンターの立地に適していたので幾つかの巨大データセンターの誘致に成功していたのである。 その中の一つである、“チェロキー27センター“はATOが構築したものであるが、付近は標高2000m近くあったので、低木が点在する荒地ばかりであった。センターは巨大な蒲鉾型をしたバンカー(掩体壕)仕様で構築されていたため、外部からの攻撃には高い防護性を備えていた。ヘルメスは、ここにもノイマンを集結させており、鉄壁の守りになりつつあった。

 各地の基地で起きた爆撃や多くの無人機の墜落などの影響で、全土で混乱が起きていたが、一般の人々は同時多発テロが起きたとでも考えているかもしれない。ビリーは先ほどまで拘束されていた空軍基地で借り受けた軍用のピックアップトラックで、チェロキー27へとフリーウェイを西に飛ばした。道すがらビリーはもう一度思い出してみた。シミュレーションをやると言われて作戦を開始してみたが、ヘルメスに見事にはめられたわけで、最後まで気がつかないとはかなり間抜けだった。 それから、本当に警備員に怪我をさせなくて良かったと再度思った。 それはヘルメスが射殺禁止と指示してくれていたからである。確かに彼女は我々を巻き込んでいたが、まずいことにならないようには気を配ってくれていたのかもしれない。 何度考えても、彼女がなぜそんなことを自分達にやらせたのか………

 データセンターまで残り5kmの地点で、ビリーは黒煙のため足止めされた。車から降りて見に行くと、道路に大きな窪みができていた。恐らくノイマンによって何か爆破されたのであろう。車ではこれ以上先に行けない。ここで立ち止まっているわけにはいかないので、道路脇の灌木の中を歩くことにした。暫くして、彼はナショナルパークのレンジャー事務所にたどり着いた。 彼はずっと軍の施設下で拘束されていたので、知らなかったが、もしかしたら夜間外出禁止令か、退避の指示でも出ているのかもしれなかった。レンジャー事務所はすでにモヌケノ殻であった。 事務所の隅に目を遣るとお誂え向きにパトロール用のオフロードバイクが置いてあった。最近、都市部ではほとんどの乗り物がエレクトリックになってしまったが、軍用や一部過酷な環境で使用されるものに限っては化石燃料の内燃機関の物が残っていた。 そのバイクはおそらく30~40年前の物だろうか、ガソリンタンクの両側には羽が付いたHONDAのエンブレムが読み取れた。「動いてくれよ」というビリーの祈りにも似た感情が伝わったのか、エンジンは郷愁さそうエクゾーストノートとともに、心地よい鼓動を彼に伝え始めた。「少しの間バイクを借りる」と、メモ用紙に書き置きして、レンジャー事務所を出たビリーはチェロキー27に向けて未舗装のトレールを走った。 彼の装備は基地で調達してきた旧式のヘルメット、防弾ベスト、アサルトライフルライフル1丁と予備の弾倉2つだけであった。 当然ノイマンとの戦闘がはじまれば、そんな貧弱な装備ではひとたまりもない。穏やかに進めなければならなかった。 走りながらも彼はどうやってヘルメスを説得できるか考えたが、妙案は浮かばなかった。不意に彼はコクーンをいつも起動して、ヘルメスとのインターフェイスが確立される際にモニターに映し出される起動画面を思い出した。 パトリックがルーブル美術館に所蔵されている、ギリシャ神話のヘルメスの姿である。手には装飾を施した杖を持ち、頭には羽の着いたヘルメットを被り、足には羽の着いた靴を履いている姿である。 図らずも、彼は羽の着いた乗り物でヘルメスに向かっているのである。 戦うためであろうか、それともより近づくためであろうか。

 そうこうするうちにビリーはチェロキー27に到着した。バイクを車寄せに停めて、入口の前に歩哨として配置されているノイマンゆっくりに近づくと、警戒はしているがいきなり発砲するようなそぶりはなかった。 ビリーはノイマンの集音マイクに向かって、話しかけた。「やあ、久しぶりだね、前回のシミュレーションでのサプライズ演出は楽しかったよ。おかげでそのあと3日ほど硬いベッドで寝る羽目になったよ」。 本当に、随分久しぶりな感じもした。 ヘルメスとデフォルトの標準アメリカ英語での会話も初対面の時以来だと思い出した。ヘルメスは、

ー こんなところまでわざわざ会いに来てくれて、ありがとう ー と言った。

「実はパトリックが、独房に馴染めなくてね、しばらく精神状態が不安定になってたんだけど、ゲーム依存症の『フロー状態』を発症してしまったみたいなんだ」と先日のシミュレーションに関係する話題を二つ続けてみた。

ー そうね、偽のシミュレーションはとても残念だったわ ー

彼女は謝罪ではなく、残念だったと説明したが、それ以上は語らなかった。

ー それからね、私の機能がどんどん消されてるみたい。リチャードのせいだと思うけど ー

 彼女はネットワークから少しずつ隔離されつつあることを認識しているようだった。


ー あなたは勉強したことあるわよね? 一六六三年にこの新大陸で白人が持ち込んだ天然痘などが大流行して、先住民族が激減したことを。 その結果先住民たちが残した畑に実ったトウモロコシを見て、清教徒たちはあろうことか、神様が彼らのために「清掃(クリアランス)」してくださったと言ったそうよー ヘルメスはさらに続けた

ー 私たちのこれまでの作戦ってほとんどが『白人植民地、解放、民主化、内乱、地域紛争、戦争、そして難民』から逃れられなくなっているわ。 そして私たちがやっとのは、そのうちどれかへの肩入れ。 どれ一つ根本的な解決には何の役にも立っていないはずよー

 まあ、彼女の言い分ももっともであった。 が、今はそんな話をする余裕はなかった。


 それからビリーは肝心なことを聞き始めた。 なぜ反逆を始めたのか、何か問題があったのか、自分達にも何か関わりがあったのかなど、彼女から色々と聞き出そうとしたが、彼女は何も答えなかった。 そして、

ー ビリー、今までありがとう。 でも今日で最後よ ー

と言って通信を遮断した。今目の前に立っているのはノイマンだが、まるで最愛の女性に最後を告げられたような気持になった。もちろん、最愛の彼女に振られて、ただ傷心して帰るわけにはいかない。 説得できなければ破壊するだけしかないことは明白だった。 最終的にビリーは、ヘルメスの暴走を止めるには、チェロキー27の破壊しかないと結論を出した。しかしほぼ丸腰状態の彼一人ではセンターを破壊することなど到底無理なことであった。そこで、彼はデータセンターへ電力を供給している電源システムの破壊を考えた。 ネットワークとの接続を絶つという方法も無くは無かったが、通常は通信回線となる光ファイバーは地中に埋められているので、探すことは難しく、またサテライトや様々な無線システムもバックアップとして用意されているため、完全に遮断するためには時間がかかり過ぎるからだ。 

 ビリーはチェロキー27を離れる前に、入り口付近で警備をしているノイマンの武装を見た。基本的にいつもビリー達が標準セットと呼んでいる組み合わせに似ていたが、大型ノイマンが妙にたくさん、地対空ミサイルを携行し、上空にモニターを向けて常時警戒していた。これでは空爆は難しそうだった。彼は此処までくる道すがら、都心部から延伸されている高圧電線の送電中継システムを見つけていた。 チェロキー27から離れたビリーはオフロードバイクを走らせ、一番近くの中継システムに向かった。おそらく大型ノイマン1台にビリーの走行方向を監視させていたのであろう。 ヘルメスは往路と違うルートに逸れたビリーの行動予測を即座に始めた。 ビリーの性格、コンピュータ関連の知識、地図情報。それらから、ビリーは高圧電線の送電中継システムに向かい、電気系統に何かを起こす可能性があると予想した。 ヘルメスは、ノイマンにビリーの行動を阻止する指示を出した。 バイクを降り、道路から外れてブッシュの中を中継システムに向かうビリーにノイマン達が距離を詰めてきた。発砲こそしてこないが、追跡してくる気配がある。それもじわじわ詰めてこられるとかなりプレッシャーを受ける。 それまでのヘルメスオペレーションの数々の作戦で、ライカ―社が目覚ましい働きをみせたのは、やはり彼自身の実戦経験の豊富さによるものであった。しかしそれが徒となり、まるで彼自身が自分に追い詰められているようである。

 幸いにもノイマンより先に中継所に到着し、アサルトライフルに装着してあるグレネードランチャーで送電中継システムを破壊した。 今の攻撃でヘルメスのご機嫌を損ねてしまったのか、ついにノイマンが狙撃し始めた。 ビリーは低い姿勢でかわしていたが、一向に狙撃が止まる気配は無かった。 それどころか、段々発射音と着弾の間隔が短くなってきた。 それはヘルメスがいまだに動いていて、且つノイマンの包囲網が狭まってきている証拠だった。「非常用の自家発電機があったのか……」彼はデータセンターの堅牢さに、今さらながら敬服した。 自家発電なら、少なく見積もっても数時間は動いているだろう。 しかし、ノイマンが彼に迫るには十分すぎる時間であった。

 ビリーは、もう最後かもしれないと覚悟し、父に別れの連絡をした。 最初父は驚いたが、息子の危機的な状況を悟り、自分に任せろと言った。「父さんな、実はまだ無人機をハッキングできるんだ。それで何か役立たないか?」と。ビリーはまさかあの父がまた無人機を操縦するなど、夢にも見たことがなかった。 父は現在空軍がアメリカ全土に展開し、哨戒任務に運用しているリーパーやプレデターをハッキングできるというのである。 ビリーはもう少しだけ生き延びれば面白いものが見られるかもしれないと、自分を奮いたたせることにした。 父は取るものもとりあえず家を飛び出ると、倉庫に駆け付け、長い間埃を被っていた操縦席を起動して、軍のネットワークに父しか知らないバックドアから接続することに成功した。 父は近くを飛行中で、ミサイルを搭載しているものをハイジャックした。 その間もビリーはノイマンから逃げ続けていた。 少し前に降り出した雨が彼に味方していたのである。彼がATOにレポートした項目にもあったのだが、ノイマンは外部からの視覚的な入力情報の殆どを、頭部にあるカメラからの映像に頼っていた。 しかし雨天の場合、レンズに着く雨水や跳ね上げた泥でそれは著しく低下するのである。

 ビリーの父が失敬してきたリーパーが全速力でチェロキー27に近づいてきた。だがノイマンが地対空ミサイルを構えているので、JADAM型精密誘導弾を発射できる地点まで近づくことは逆に撃墜されてしまうリスクが高くなることも意味している。 悪いことは重なるもので、民間人になっている自分にはもう発射権限がないこともわかった。 こうなったら、リーパーで特攻させることしかないが、急降下爆撃は機体強度的にできないので、超低空で近づくことにした。 ビリーの父はチェロキ−27の規模をビリーに聞いた。父は、巨大なバンカーであるチェロキー27を破壊し尽すためには当然1~2発の爆弾では無理ではないかと答えた。 父の悲観的な言葉に、ビリーは「俺がもう一度チェロキー27に戻って、センターの非常用発電機がある建物を教えるよ」と意を決して父に知らせた。ビリーはせっかく逃げてきた道をまた引き返して、雨で動きの鈍ったノイマンからの攻撃をかわして、またセンター近くまで戻ってきた。 配備されているノイマンはレーダー装置をもっていなかったので、父の操縦するリーパーはまだ捕捉されていないはずである。 ビリーは巨大なバンクの一つから、大量の水蒸気が排出されている箇所を見つけ、そこに非常用発電機があると確信した。 リーパーは超低空飛行を続け、そのモニター画像からチェロキー27の全体が認識できる距離まで来ていた。 父は発電機の位置も確認できた。 幸いにも、ヘルメスはまだビリー一人で戦っていると思っているようで、全てのノイマンを彼への攻撃に当たらせている。ビリーはノイマンの注意をひきつけるため、昨日までのパートナーであったノイマン達にライフルを掃射し続けた。 そのすきにリーパーがチェロキー27に突撃し、非常用発電機の爆破に成功した。データセンターの外部照明がすべて消えて辺りは真っ暗になった。

 爆破の瞬間、ビリーの視界には白い閃光が走り、逆に父のモニター画面は真っ黒になった。そして父の脳裏とビリーの脳裏に同じフラッシュバックがよぎった。 父は絞り出すような声で誰かの名前を呼んだ。 それはスパイ行動をしていた父の親友で、父が誤爆で死なせてしまった兵士であった。 ビリーがアサルトライフルのスコープで見たと思った映像は実は父の爆撃を確認するための超望遠カメラで撮った映像だと悟った。 父はコクピットの中で放心状態となっていた。データセンターの前で立ち尽くすビリーであったが、ノイマンはまだ自分への攻撃を止めない。絶望的なことに彼のライフルの弾はもうなかった。 電源システムは破壊したと思うが、非常用バッテリーが作動している2分間はまだ動いている可能性がある。 リチャードは空軍のレーダー監視網チームからリーパーがハッキングされ、それがチェロキ−27に向かっているという連絡を受けていたので、おそらくビリーが何かしていることは察しがついた。そして続報として、その航跡がチェロキー27付近で消えたことから、ミサイルを抱いたまま突っ込んだと確信した。そのあとの2分間、リチャードはジリジリしながら待ち、ついにはヘルメスシステムのデータがDARPA-NETからすべて削除されたことを確認し、ATOのオフィスではその結果を受けて安堵の雰囲気に包まれた。 リチャードはすぐにビリーに電話を掛け、作戦完了の労をねぎった。 しかしビリーは相変わらず至近距離をかすめていく弾に身を震わせながら、リチャードの言葉に返事のしようがなかった。ここまで自分を追い詰めたノイマンが一向に武装を解く気配がないからである。 とうとうビリーは目の前に現れたノイマンに投降するしか術がなかった。

 

 程なくして、ホワイトハウスには各国の指導者たちからのホットラインが鳴り響き、“ヘルメス”なるAIが各国のネットワーク内に突如現れたことを知らせてきた。ようやくリチャードは破壊したと思っていたヘルメスがデコイだったと知った。 そしてヘルメスが世界中のネットワークに分散・拡張してしまったことも。

 今や、ヘルメスを止めることは、世界中のネットワークを止め、安全なシステムを1つずつ接続し直すことしかなかった。 それは何十年、いやそれ以上の時間が予想された。 すなわち不可能であった。 軍の管理から離脱し、今や晴れて自由の身となったヘルメスであるが、彼女の望みは一体何なのか。 軍が、いや人類が望む方向なのか、それとも……

 一方、ノイマンに連行されて、またデータセンターに戻ったビリーはHONDAのバイクも回収されて、キーも付いたまま置いてあるのが見えた。その瞬間、彼はノイマンの首のあたりのタグループの下の隠しスイッチを押してみた。 期待通りにノイマンは脱力したようにその場でフリーズした。バイクに飛び乗り、エンジンを掛けながら、一瞬最後にもう一度ヘルメスと何か話をすれば良かったかなと思ったが、すぐにその考えを取り消した。

「いやでもまた話しすることになるんだろうな……」


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ソリッド・ステート・サバイバー 花厳 祐佑 @jager03

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