第14話 好き

「何を⋯⋯ してるんですか?」

俺の第一声はこれだった。 俺の机を囲む様にして皆が立っている状況、更に朝野さんと杏樹さんが相手の髪を引っ張り合っていた。 そんな状況を見せられると、誰しもこの言葉が最初に出るだろう。


「いや⋯⋯ 何にもないよ?」

何事も無かったかの様に流そうとする、井上さん。 他の人も同様に、「何も無いです」と口々に言い始める。 まぁ、別に何でもいいのだが。


「ところで、しゅー君? 今までどこに行ってたの?」 井上さんが俺に尋ねてくる。

「特にどこかに行っていた訳でも無くて、ただ歩いてましたね」 俺はそう言いながら、自分の机に向かう。 皆が、俺の机から散らばりだし、各々の机にへと戻り始める。


「ふーん⋯⋯ 。 そうなんだ」 何やら意味深な感じで井上さんは応える。 「では、会長。僕からも一つ尋ねていいですか?」 「いいよ、いいよ〜。 何かな?」 まさにルンルンな感じ、という言葉がピッタリ当てはまる様な様子で、井上さんは椅子に腰掛ける。


「僕の机の引き出しを⋯⋯ 漁りましたよね?」 俺のその一言で、生徒会室に静寂が走る。 井上さんは、うん、とも、いいや、とも言わず、崩すことの無い笑顔だけを浮かべて次の言葉を考えている。 少し辺りを見渡して見ても、誰もが下を向いて口を開こうとはしない。


「いや! 別に責める気はないですよ? 怒ってるとかもありません。 ただ確認したいだけです」 そう言うと、閉ざされていた口から、

「ごめんね。 漁っちゃったよ」 と発せられる。

「そうですか⋯⋯ 。 あの写真に写っていた事は事実⋯⋯ ですか?」

「事実です」 答えたのは井上さんでは無く、俺が信頼を置いている朝野さん。

「皆んなは⋯⋯ 俺が何をしたか知っていますよね? 何故に学院から嫌われているかも」

「知ってるさ、でも! 私達を助けた事には変わりない」次に答えたのは、杏樹さん。 その声は少し震えている。


「皆んなは⋯⋯ とても魅力的な人達です。 俺なんかと比べものにならない程に。 なのに、何故欠陥を抱えている俺にあんな事をしたのですか?」


「それは⋯⋯ 」「だって⋯⋯ 」「決まってるじゃん!」 「そんなの⋯⋯ 」

「「「「好きだから!!!!」」」」


写真に写っていた四人の声が最初の言葉こそ違えど、同時にその言葉を口にする。 その言葉は、俺が長い間忘れていた、というより事件の後ろめたさから感情の奥の方に隠していた感情。 汚れた過去を持つ俺に抱かせてくれなかったものだ。 そして、俺に心地よい温もりを一瞬にして与えてくれた、魔法の言葉だった。


「あ、ありがとうございます。 まさか、四人同時に言われるとは思ってもいませんでした。 あはは、少し照れちゃいますね。 俺も皆んなの事は、好き、ですよ」


この言葉を言った直後、生徒会に湧き出た歓声はとんでもないもので、皆んなの歓声が反響しあい、鼓膜が破れるかと思わせる程の大ボリュームになった。


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