第11話 愛しい鼓動


俺は朝野さんと肩を並べて屋上の一角で濃い時間を過ごしていた。 出来れば授業の事なんて忘れて、今日はこうして過ごしたいと思ってしまうほどに。


朝野さん手作りの昼食でお腹を満たした俺は春のぽかぽか日和の影響もあり、眠気に襲われていた。 「ふわぁ〜」 そして堪えていた欠伸が俺の口から出てしまう。 こういうのを女子と二人きりの時にしてしまうと、印象が悪くなると昔父に教えられた事を思い出して、「ご、ごめん。 朝野さん」 と、すぐに謝罪する。 すると、「うふふ。 こんなに良い天気なんです。 お腹一杯になったら眠たくもなりますよ。 私の事は気にせず眠たかったら、修司さんは寝てもいいんですよ?」 と、優しい口調と、人に安堵を与える微笑を浮かべながら、朝野さんは話した。


「いやいや、流石に寝ちゃうなんて事は無いと思うよ⋯⋯ 多分」 俺がこの言葉を朝野さんに言い放って五分が経過した頃、朝野さんの膝元にはしっかりと俺の頭が横たわっており、俺は夢の世界にへと誘われた。


「全く⋯⋯ 。 昔から、あなたは睡魔には勝てない人だってこと、私が知らないとでも思ってるんですか?」 そう言って朝野は、自分の膝を枕がわりにしてすやすやと眠っている彼の髪を撫でる。 男子なのに、そのサラサラとしている髪の毛を、朝野は飽きることなく撫で続ける。そうしていると朝野は、寝顔が可愛い彼を自分一人で独占している気持ちになるのだ。


「はぁ〜、私って独占力が強いのかな⋯⋯ 」

ふと、朝野は独り言を呟く。 すぐ下で寝ている彼を起こさないよう小声で。 しかしすぐに、別に独占力が強くても良い、と朝野は思う。 何故なら、あの何時も周りで隙を狙っては目を光らせる狼が沢山いるのだ、独占力が強くないとこの戦いに勝機などない。


そう考え終わると、朝野は想い人の寝顔を再び見る。 この寝顔を見ているだけで、朝野は日々の疲れが全て癒されるような感覚に陥る。 そして、彼から目を離して屋上を見渡す。 朝野と寝ている彼以外誰もいない。 勿論、朝野は人気の無い場所で二人きりになりたくてこの場所を選んだのだから、当然と言えば当然なのだが。


周りに誰もいない事を確認し終わると、朝野は彼女の奥深くに眠る本能に身体を支配させた様に、寝ている彼に自分の顔を近づける。

ゆっくり、ゆっくりと近づける。 彼の顔が、どんどん、どんどん大きく見える。 規則正しい寝息が朝野の耳を震わせ、肌に当たる位置で一度朝野は近づけるのを中断する。 そして、その紅くて柔らかそうな彼の唇に目を凝視させた。 唇と唇を重ねたい——キスをしたいという感情が朝野の中で渦巻き、理性だけでは止められなくなる。


遂に、朝野は再び彼の唇目掛けて、自分の唇を近づけていく。 朝野の鼓動は高々と鳴り響き、うるさいとさへ思ったが、朝野はその胸の高鳴りさへ彼が私に与えてくれる物だと思い、愛しく感じていた。 後、数センチの所まで顔を近づけてほんの少しどちらかが動くと、唇が重なる場所まで朝野が顔を近づけた時、朝野は屋上にへと上がるため階段を駆け上がってくる音が聞こえてきた。


「もう来たんですか、ちょっとは空気読みましょーよ」 そう言って、朝野が名残惜しそうに元の体勢に戻ろうとした時、目の前の彼は、うーん、と唸りながら思いっきり私の膝元で寝返りを打った。


屋上のドアが開いたと同時に、朝野と彼の唇は——重なり合った。


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